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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第34章

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2401話 相対する守護者

 亮の提案を受け入れ、庇護下に入ることを決めたテミスは、ファントの町の中で最も守りに長けた建物の前へと場所を移していた。

 そこは黒銀騎団が駐留している詰め所で。

 軍事施設である都合上、詰め所の建物は周囲から一定以上離れており、ぐるりと塀で覆われた空間は戦闘を行うには十分な広さがあった。


「守りに長けるとなるとここだが……」

「ウム。私も同意見だ。この場所そのものが気迫を帯びている所為か、心なしか亡者共も寄り付かんらしい」

「それはつまり、湧き出て来る亡者が強いという事ではないのか……?」


 静かに頷いた亮を、テミスは苦笑いを浮かべて振り返る。

 自ら指定した場所ではあるものの、湧き出る亡者が場所に由来するのならば、ここはファントの中で最も強力な亡者が湧き出る場所であるといえる。

 この世界に取り込まれているテミスは除外したとしても、黒銀騎団の面々やフリーディアたち白翼騎士団の者達、ひいてはかつてこの建物を使っていたであろう前十三軍団長のバルドや在りし日の十三軍団の兵士達など。

 ざっと思い付くだけでも、この場所に関わる者達は錚々たる面子が揃っていた。


「問題無い。強いとはいえ所詮は、この場所に染み付いた思いを模倣しているだけの偽物に過ぎん。数で押し切られないだけ楽だと言えるだろう」

「……そう言うのなら、私は信じて任せるだけだ」

「承った」


 聳え立つ詰め所の建物を前に、テミスは亮と言葉を交わした後、ゆっくりとした足取りで敷地の中へと足を踏み入れる。

 この時すでに、テミスの体力は底を突きかけており、横になれば一瞬で眠ってしまいそうな程に強い眠気に苛まれていた。

 だからこそ、気付く事ができなかったのだろう。

 既にテミス達を待ち構えているかの如く、濃い霧に紛れながら詰め所の建物の入り口に一つの人影が仁王立っている事に。


「…………」


 一刻も早くベッドに潜り込みたい。

 気を抜けばすぐに落ちてくる瞼に必死で抗いながら、テミスは執務室を目指してフラフラと歩き続けた。

 亮曰く、亡者が湧き出る兆候は感知できるため、眠りやすい場所で寝るべきだ……との事だった。

 故にテミスは、今やサキュドの私室と化している軍団長私室のベッドを目指していたのだが……。


「待て」

「ぐぇっ!? ゲホッ……! 急に何を……ッ!? あれは……!」

「漸く気付いたか。あと一歩進めば、奴の間合いだ」 


 傍らから突然伸びた亮の手がテミスの襟首を掴むと、強制的に歩みを止めさえた。

 瞬間。テミスは喉が絞まって無様な声が漏れ出るが、その衝撃が眠気を払い、現状を正しく認識させた。

 既に眼前へと迫った詰め所の建物の前に仁王立つ影。

 龍人族を模しているであろう強靭な肉体を持つ亡者は、テミスが間合いに入りかけたにもかかわらず、微動だにする事無く太刀を携えて立っていた。


「マグヌスッ……!? 馬鹿な! 奴は後遺症で戦えないはずッ……!」

「肉体無き亡者に不調などは関係ない……という事だろう。見たところ限界が近そうだが、今しばらく耐えられるか?」

「待て、亮! 後遺症が無ければマグヌスは軍団長級の実力者だ! 私も……くっ……!?」


 テミスを引き戻した亮は、入れ違いにマグヌスの姿をした亡者の間合いギリギリに立つと、チラリと視線をテミスへ向けて問いかける。

 そんな亮に加勢すべく、テミスは退いた一歩分の距離を前へと歩みながら、背負った大剣を抜き放つべく柄を掴む。

 だが、直後に耐え難い眩暈と眠気が押し寄せ、テミスは大剣を抜き放つどころか、その場にぺたりとへたり込んでしまう。


「……無理をするな。今暫く眠らずに堪えるだけでいい。手出しは無用だ。そこで見ていろ」

「っ……!」


 へたり込んだテミスを一瞥した後、亮はテミスに忠告を残してから軍刀を抜剣すると、マグヌスの姿をした亡者の間合いへ大きく一歩足を踏み入れた。

 だが、テミスの予想に反して、マグヌスの姿をした亡者が斬りかかってくる事は無く、仁王立ちをしていたマグヌスの姿をした亡者は、ただその場で構えを取っただけだった。


「ほぉ? なるほど、相当な使い手だな。不用意に攻め入って来れば、素っ首を叩き落としてやったものを」


 それに対して、亮は平然とした様子で嘯くと、更に一歩マグヌスの姿をした亡者に向けて歩み寄る。

 その悠然とした亮の所作が構え(・・)であると、背後から見守るテミスが気付いたのは、ちょうど亮が三歩目を踏み込んだところで。

 刹那。


「フッ……! 見極めも抜群か。生前にやり合いたかったものだ」


 ガギィィンッ!! と。

 マグヌスの姿をした亡者が斬り込み、亮がその強烈な斬撃を己が軍刀で悠然と受け止める。

 そのままギシギシと刃を押し込むマグヌスの姿をした亡者を眺めた亮は、皮肉気に口角を吊り上げてボソリと小さく嘯いたのだった。

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