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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第34章

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2400話 信ずる心

 亮を信用する。

 テミスに提示されたこの条件は、ただ言葉の上だけでのものではないのだろう。

 恐らくは、命を預けるようなものになるはずだ。

 そう言葉に込められた亮の意図を理解していたからこそ、テミスは問いに即答する事無く黙り込む。


「フッ……! 一つお前の懸念を払っておくのならば、例えこの提案を断ったとて、私はお前に全力で手を貸し続ける。あくまでも献策の一つだと考えて構わない」

「……献策だと言うのならば、まずは聞かせてみろ」

「勿論だ。だが、時間があまり残されていないという事は理解しろ。お前の生気が揺らぎ始めている」

「っ……!」


 慎重を期したテミスが問い返すと、亮は不敵な笑みを浮かべて静かに頷いてみせた。

 だが、亮が忠告を口にすると同時に、テミスの視界がぐにゃりと歪み平衡感覚が消え失せる。

 それは一瞬の出来事であったが故に、状態を大きく傾がせる程度で済みはしたものの、テミスは背筋を冷や汗が伝っていくのを感じていた。


「この町で、最も守りに適した場所で睡眠を取れ。お前が眠っている間は、意識の無いお前を私が守り抜こう」

「なる、ほど……。ふふ……お前を信じるとは、そういうことか……」

「そうだ。お前は暫くの間あの宿屋で眠っていたが、生気の減少は感じられなかった。故に、最低でも生気の流出を留める効果はあると見ている」

「奴等の口ぶりからして、この場所が時間的に隔離されているとは考え難い。ならば、生気の減少を食い止めて時間を稼ぐだけでも利はある……か」

「そうだ。これだけ町の中を探し回った上で出会わなかったという事は、お前の仲間達はこちらに取り込まれてはいないのだろう」

「ククッ……確かに、悪くはない案だが……」

「無論。お前が回復できれば言う事は無い。そうなればまた、こちら側から脱出口を探る事ができるだろう」

「フム……」


 亮の提案にテミスは息を吐くと、静かに考えを巡らせ始めた。

 この策には今の所、欠点という欠点は見当たらない。

 時間を稼げば稼ぐ程、フリーディア達にも行動できる余地が生まれる。

 肉体ごとこの世界へ引きずり込まれたのか、はたまた精神だけが引き込まれたのかはわからないものの、どちらであっても目を覚まさなければ異常は認識されるはずだ。


「肉体の自動操作……まぁ、そこは賭けだな……」


 そこまで考えが至ると、テミスの脳裏に意識のないまま自室へと帰り着いたフリーディアとアマネコの例が思い浮かんだ。

 とはいえ、二人ともただ帰り着いただけで複雑な受け答えなどができたことは確認できておらず、日常生活を偽装できる程の精度は無いと考えるべきだろう。

 そう判断したテミスは、苦笑いを浮かべて肩を竦めると、ただ一点後回しにした問題に改めて向き合った。

 亮を信用するか否か。

 意識を手放し、亮に護られる以上、この言葉は額面以上の重さを持つ。

 一つは単純に。他の亡者共とは異なり、亮がテミスを襲わないと信じる事。

 二つは、亮からもたらされた未確認の情報である、生気の漏出という減少を信じる事。

 そして三つは、亮の強さを信じるという事。この世界では、同じ場所に長時間留まることで、場所に由来した亡者が湧き出て来るのだという。

 尤も、それは本人では無く、姿形や経験を模しただけの意志無き人形らしいが……。


「……本来ならば、このような提案など一顧だに値しないのだがな」


 皮肉気に唇を歪め、テミスは内心の葛藤を漏らさぬように、小さく肩を竦めて嘯いてみせた。

 この提案はまさしく、自身の命運を全て亮に預けるに等しい行為だ。

 いっそのこと、この献策すらされなければ、残されたわずかな時間に一縷の望みをかけて、この空間をがむしゃらに破壊しただろう。

 だがそれよりも、提示された亮の策の方が遥かに可能性が高いことは自明の理だった。


「一つだけ、聞かせてくれ」

「フッ、別に一つと言わず、幾つでも構わんぞ?」

「いいや、一つだけで構わん。亮。お前は私を護ると、祖国に誓う事ができるか?」

「…………。なるほど、お前らしい問いだ」


 テミスは真正面から亮に向き合うと、真っ直ぐに瞳を見据えて静かな声で問いを放った。

 護られる側が出すにはあまりにも傲慢な問い。

 しかしこれはテミスにとって、一抹でも存在する可能性を投げ打ち賭ける為の、最大限の歩み寄りだった。


「申告いたしますッ! 大日本帝国陸軍准尉、柴山亮ッ! 現時刻を以て戦友であるテミスの護衛任務に着任いたしますッ!! 我が一身一命を賭して、御身を護り抜く事を誓いますッ!」


 そのテミスの想いに応えるかのように、亮はクスリと小さな微笑みを浮かべた後、ビシリと姿勢を正して軍靴を打ち鳴らし、敬礼をしながら声を張り上げてみせた。

 テミスも詳しくは知らないものの、それは恐らく亮が属していた部隊での着任の際に行われる形式なのだろう。

 つまり、祖国に誓えと告げたテミスに対して、亮は己が生涯貫いた想いを以て、満点以上の答えを示してみせたのだ。


「……ありがとう。黒銀騎団団長テミス、現刻より貴殿の庇護下に入る。どうか、よろしく頼む」


 そんな亮に、テミスもまた黒銀騎団を率いる者として敬礼を返すと、静かに微笑みを浮かべて答えたのだった。

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