2397話 二つに一つ
マグヌスの報告曰く。
黒銀騎団が部隊を集結させていたのは、冒険者ギルドからの依頼によるものだという。
近頃、ギルドに所属する冒険者が襲撃される事件が相次いでおり、当初は冒険者同士のいざこざ程度だという認識であったものの、被害が連続かつ拡大を続けた事で、『冒険者狩り』が横行していると断定したらしい。
そこで、冒険者ギルドは実力者を募り、冒険者狩りの討伐依頼を発行したそうなのだが、討伐に向かった冒険者たちが未だに帰還しないのだそうだ。
「そこで遂に、黒銀騎団に話が来た……という訳ね。はぁ……全く、そういうことはもっと早くから共有して貰わないと困るわね……」
マグヌスから詳細を聞いたフリーディアは、呆れたように目を細めて溜息を零す。
確かに冒険者という職業は、基本的に何が起ころうとも全てが自己責任だ。
だからこそ極論を言ってしまえば、採取依頼を請けた冒険者はわざわざ採取に出かけずとも、目的の物を持っている商人や冒険者を襲えば事は足りる。
しかし、だからこそ冒険者は人の目が届かない所では警戒を怠らないし、町や街道で戦闘を始めれば、ファントであれば黒銀騎団のよう治安維持を担う部隊にたちまち拘束されてしまう。
加えて、同業の冒険者とパーティを組む事もある冒険者稼業でそのような蛮行を働いていれば、ギルド内で居心地が悪くなるのは当然の事、実入りの良い大規模な依頼を請けようとしたところで、パーティを組もうとする者は居なくなってしまう。
つまるところは、リスクとリターンの話。
襲撃という危険と手間を冒した所で、それに見合う対価を得る事はできないのだが……。
「それは難しいでしょうな。ギルドとしても面子があります。今回はいわば、冒険者が起こした揉め事を冒険者ギルド内で処理しきれず、外部である我々に泣き付いた形です。これでも、徒に傷を広げる事無く、迅速に報告をしてくれた部類かと」
「だとしても、よ。被害を出さない為にも、もっと早く……冒険者同士の揉め事でるという認識のうちから共有して貰うべきだわ?」
「……手っ取り早く情報を得るだけならば、黒銀騎団の者を冒険者登録させておくか、所属している冒険者を引き込むか……ですが」
「はぁ……その辺りの所は、テミスが戻ってからでないと決められないわね。できれば、ちょうどこういった事が起きた頃合いだと交渉が進めやすいのだけれど……」
「無理なものをねだった所で仕方ありますまい。ひとまず、この件で出撃予定であった者達を捜索に回しましょう。ギルドには申し訳ないですが、テミス様の方が優先すべき事案です」
マグヌス眉根を潜めながらも苦笑いを浮かべると、低く唸るような声でフリーディアに言葉を返す。
事実。黒銀騎団としては、テミスが攻撃を受けている以上、防衛行動としての反撃及び索敵は最優先すべき急務だ。
だからこそ、マグヌスは町の治安維持である冒険者ギルドの依頼よりも、テミスの救出を優先したのだが……。
「いいえ、待って。それは早計だわ。テミスを救うにしても、今のままでは部隊を投じた所でただやみくもに探し回るだけになる」
「だとしても、です! テミス様が今も戦われておられる以上、一刻の猶予もありますまい!」
「待ちなさい。マグヌス。アンタ、何か策があるのでしょう? まずは言ってみなさいな」
フリーディアが待ったをかけると、マグヌスは驚いたように目を見開き、力の籠った言葉で抗弁する。
確かに事態を鑑みるのならば、未だ敵の目星すらつかないテミスを救う案件よりも、やるべき事が明確に見えているギルドの案件から片付けるべきだろう。
しかし、黒銀騎団として優先順位を付けるのならば、指揮官であるテミスを救い出すのは最優先事項で。
たとえ冒険者ギルドに被害を出す事になってでも、全ての兵力を注ぎ込むべきだとマグヌスは考えていた。
だが、フリーディアとマグヌスが議論を始める前に、フリーディアに諭されてから難しい顔で黙り込んでいたサキュドが話に割って入る。
その言葉は、意外な事にマグヌスの肩を持つものではなく、フリーディアの意を問うもので。
マグヌスは更に驚きに表情を歪めると、サキュドに向き直って声を荒げる。
「サキュド! 何を血迷ったか!? お主はテミス様を一刻も早く救い出すべきだと言っていたではないか!」
「アンタこそ、まずは話を聞くべきだとアタシを止めたのを忘れたの?」
「だがッ……!!」
「策があるのなら、全てを出し揃えたうえで動くべきだわ? 少なくとも、テミス様ならそうするでしょうね?」
「ムゥッ……!! た、確かに……そうであるな。フリーディア殿、申し訳ない。私も気が逸っていたようだ」
「構わないわ。正直私も、かなり焦っているもの。だからこそ、聞いてほしいの」
サキュドの皮肉が籠った突き放すような指摘に、マグヌスは冷静さを取り戻すと、唸り声と共にフリーディアに頭を下げた。
そんなマグヌスに、フリーディアは静かに微笑みを浮かべて応じた後、自身の脳裏に浮かんだ一つの考えを語り始めたのだった。




