2396話 似て非なるモノ
サキュドを御したフリーディアは、そのまま彼女の要求に応えて、テミスの現状をマグヌス達へ語り聞かせた。
護衛にユウキとアマネコを配置している事も、戦闘をした気配はまるでなく、恐らくは建物に侵入すらされていないだろうという、詰め所へたどり着くまでにまとめた自分の考えも話す。
「……そういう状態よ。だから私は、魔法攻撃の類だと考えているわ。そこで、二人にも意見を貰いたいのだけれど?」
「フゥム……。術者が被術者に近付く事すらなく発動する魔法……ですか……。生憎、そのような魔法に覚えはありませんな」
「ある訳ないわ。そんな魔法。そもそも、アンタは魔法ってモノをまるで理解していないから、そういうトンチキな想像ができるのよ」
「私たちの認識では、強力で便利な術って事くらいしかわからないから……。説明をして貰ってもいいかしら?」
意見を求めたフリーディアに、マグヌスは顎に手を当てて熟慮しながら、低く唸るような声で答えを返した。
一方でサキュドは、嘲るように鼻を鳴らして嘲笑を浮かべると、大きなため息を吐いて肩を竦めてみせる。
「全く……仕方がないわね。いい? 魔法っていうのは、魔力を以て現象を引き起こす技の事。だから、術者と対象の間には必ず魔術的な繋がりが生じるわ」
「ん……? 待って。そしたら、コルカが使ってた龍星炎弾みたいな魔法は? あれも魔法だけれど、繋がる相手が居ないと思うのだけれど?」
「繋がっているわよ。空間に留めた魔力へ魔力を注ぎ込む。すると、術者の構築した術式に応じて、現象が引き起こされるという訳」
「えぇと……つまりその火の玉は剣技で言うところの斬撃で、魔力を注ぐというのは動きの起こりみたいなものという事ね!」
だが、刺々しい口調とは裏腹に、サキュドは真っ直ぐな瞳で問いかけるフリーディアに言葉を紡ぐと、実際に自らの掌の上に小さな火球を生み出して実演してみせた。
魔法を発動させる程の魔力を有しないフリーディアにとって、サキュドの説明は翼の生えていない者に空の飛び方を教わるような難解さがあった。
しかし、フリーディアは独自の受け取り方で解釈をすると、納得したかのように頷きながら笑顔を浮かべた。
「何よそれ……まぁ、理解できたなら良いわ? ともかく、部屋の中で休まれていたテミス様に、魔法をかけるなんて事は無理だって事! たとえ姿を目視できても、窓や壁を挟めば魔力はほとんど通らないもの」
「ん……間合いの外や壁の向こうで繰り出した突きが、いきなり目の前に現れるようなものよね……」
サキュドがそう説明を締めくくると、フリーディアは真剣そのものといった表情で深く頷くと、腕を組んで思案に耽り始める。
その様子にサキュドは呆れたような眼差しを向けながらも、小さく肩を竦めて溜息を漏らすに留めた。
何故なら。
槍を扱うサキュドであるからこそ、フリーディアが置き換えてみせた解釈は、決して完全に正しい訳では無いものの、ある程度通ずるものがあることは察していた。
元より魔力を扱うサキュドにとっては、いちいち置き換えて理解し直す必要こそないが故に考えもしなかった事だった。
けれど、フリーディアが言語化した例えは、確かに魔法が持つ特性の幾つかを捕らえていたのだ。
「だとしたら……どうやって……」
「可能性があるとすれば、魔道具の類でしょうが……」
「それもあり得ないわ? だってテミス様よ? ヒトの身とはいえ、あれだけ膨大な魔力を持つテミス様を昏倒させようとしたら、この町の連中全員の魔力があったって足りやしないわよ」
「……でしょうなぁ。加えて遠方かつ建物の中とあっては、魔王軍の宝物庫に収められている魔道具ですら不可能でしょうな」
「でも、現象そのものは魔道具のソレよね。特に、テミス様の頬が急に切れたって話、異界系の魔道具で被術者が傷付いた時の特徴そのものだもの」
起こり得る筈の無い現象を前に、フリーディア達三人は頭を捻って唸り声をあげるも、いくら考えを巡らせたところで、何一つ有効な案が浮かぶ事は無かった。
むしろ出てくるのは、敵がギルティア級の魔力と、強力無比な魔道具を併せ持つ者であるとか、荒唐無稽と称する他に無い駄案ばかりだった。
「っ~~!! ダメね。これ以上考えてもわからないわ。でも、魔道具の類のモノが関わっているという事は覚えておきましょう。いったん、そちらの事情も聞かせて貰えるかしら?」
「アンタねぇ!! こうしている間にもテミス様が戦っているかもしれないっていうのに!!」
「わからないことを考え続けても仕方ないわ! 勿論、諦めるつもりはないし、情報は詰め続ける。けれどそちらも、部隊を集結させるほどの大事なのでしょう?」
煮詰まった思考を投げ捨てるかのように、フリーディアはきっぱりと声をあげて話題を変えると、マグヌスに視線を向けて新たな問いを投げかけた。
だが、それに反応したサキュドが目を剥いて怒鳴りをあげ、バシンと小さな掌を執務机を叩きつけた。
そんなサキュドに、フリーディアは動ずることなく凛と正論を突き付けると、再び視線をマグヌスへ向けて話を促したのだった。




