↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/104

婚約の証(1)

 ――あ……っ。

 見惚れている場合じゃ、ない……!


 私は慌てて、軽やかに舞うヒロインを静止した。


「お姉様! 挑発するのは、やめてください……!」

「どうして? わたしは、すごく悲しいよ。エミリエが、こんな低レベルな騎士をそばにおいているなんても思わなかった。母国に戻ったら、あなたに相応しい人を見繕ってあげるからね……!」

「ふざけるな……!」


 だが……。

 長い間妹と離れていた姉には、私の声は届かない。

 彼女が都合のいいように作り上げたエミリエは、「こんなふうに己を止めるはずがない」と思い込んでいたからだ。


 ――どうしよう。

 このままじゃ、どちらかが怪我をするまで止まらない……!


 ヒロインは精霊の力を借りてすらいないのに、フェドクスは私を抱きかかえて戦っているせいか。

 体力の消耗がかなり激しい。

 相手が神殿に所属する人間なら、癒やしの力を使って幼馴染を回復させてやるところだが――。

 相手が相手だけに、何が正解なのかすらもよくわからなくなってしまった。


 ――こういう時、左半分が使い物にならなくなった身体は、不便だ。


 いっそのこと、人形使役の力を使って、強引に彼らの戦いを止める?


 いや、駄目だ。


 ――2人の争いを中断したとしても、ラジェスがいる。

 彼は今でこそ我関せずな態度だが、ヒロインの命にかかわる危機が訪れれば、当然剣を引き抜くはずだ。


 2人まではなんとかなっても、同時にそれ以上の人間を操るのは、かなり危険な賭けとしか言いようがない。


 一か八か、やってみる……?


「ほんと、しぶとい……!」


 痺れを切らしたお姉様が、パラソルを開く。

 手のひらを優雅に回転させ、天井へ突き出す姿は見覚えがあった。


 ――あれは、精霊召喚!


 いくら手練の騎士であったとしても、天才精霊使いと呼ばれる主人公と真正面からぶつかり、無事で済むはずがない。


「だ、駄目……!」


 私は慌ててフェドクスの胸元から身を乗り出し、お姉様を止めようとしたのだが――。


「これは一体、なんの騒ぎだい?」


 彼女へ触れる前に出入り口がガチャリと開く音と、殿下の声が聞こえてくる。

 フェドクスはヒロインへ剣を振るのを止め、私を抱きかかえ直して床に尻もちをつく。


「第二王子……」


 どうやら想定外の人物が現れたおかげで、集中力が途切れたようだ。

 結局精霊召喚はなされず、行き場を失った腕が不自然に下ろされた。


「レディの寝室に忍び込むなんて、どんな野蛮な刺客なのかと思ったら……。ティルタラーテ王国のお姫様じゃねぇか」

「ご無沙汰しております、ラムロンツ辺境伯。妹と一緒に、魔王討伐の旅を見事成功させたとか……」

「ああ。おかげ様でな?」


 どうやら、ここに姿を見せたのはルドルフだけではなかったようだ。

 ガザンとルティアはバチバチと火花を散らし、睨み合っている。


 ――リジェンタスとティルタラーテは、戦争をしていた。


 辺境伯は防衛の要として、母国と戦う機会も多かったはずだ。


 射撃の名手と、天才精霊使い。

 恐らく、戦場で顔を合わせた機会があるのだろう。


 フェドクスとの物理的な戦いが停戦状態になったかと思えば、今度はガザンと啀み合うなんて……。


 ――本当に、原作が始まったんだ……。


 私はそんな感慨深い思いに包まれながらも、また戦いが始まるんじゃないかと、戦々恐々とする羽目になった。


「ルティア王女。非公式の訪問で、このような問題を起こされては困ります」

「わたしが悪いの?」

「責められたくないのであれば、最初から適切な手続きを踏んで頂けるとありがたいのですが……」


 この場で冷静な交渉ができるのは、私とルドルフくらいしかいない。

 殿下は率先してお姉様に苦言を呈したが、彼女の反応は芳しくなかった。


 ――自分だけが悪者にされて、明らかに不貞腐れている。

 そんな表情だ。


 ヒロインはパラソルをぱちんと閉じたあと、それをラジェスに投げ渡す。

 どうやらもう、こちらに襲いかかる気は、もうないらしい。


 彼女は深い溜息を吐き出したあと、堂々と胸を張った。


「わたしは不当に連れ去られた妹を、救い出しに来ただけ。こう言うのが嫌なら、最初からエミリエを奪い取らなきゃよかったのに」

「そうですね」

「おい! ルドルフ! なんで、王女の主張を受け入れてんだよ!?」


 感情を押し殺した声を発するルドルフに、話を聞いていたガザンが「冗談じゃない」とばかりに声を荒らげる。

 フェドクスは我関せずと言わんばかりに呼吸を整え、暗い表情で押し黙っていた。

 まさしく、三者三様の光景だ。


「誰が彼女を母国から連れ去ったのか。王家で力のない僕には、見当もつきません。しかし――今は、感謝しています」


 ヒロインが信じてくれるかは微妙なところだが、この話は事実だろう。

 私の誘拐計画は、国王と司祭が先導の元行われていた。

 陛下に愛されている王太子はどうだか知らないが、彼は関わっていないはずだ。


 もしもすべてを知っていたのなら、私を嫌っている間に、母国の話を匂わせていただろうから……。


「エミリエが魔王討伐隊に参加してくれたからこそ、僕は化物にならずに済みました。あなたの妹君を取り戻したいと言う気持ちには、賛同しますが――」


 殿下はお姉様の気持ちに寄り添いながらも、私たちの間に割って入る。

 その後、はっきりとした口調で拒絶した。


「彼女の意思を無視して、母国へ連れ去るのは許しません」

「いいの? それって、宣戦布告になるけど」

「最初から、そのつもりでしたよね」

「わたしはそこまで、残忍じゃないよ? ここは、妹が暮らす国だもの。それに――」


 2人の静かな戦いは、続く。

 彼女は口元だけを綻ばせると、楽しくて仕方がないと言わんばかりに懐から紙を取り出した。


「これから、あなたのお兄さんと婚約を結ぶの」


 まるで印籠のように勢いよく掲げられたのは、先程王太子が署名した契約書だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2025年8月22日 電子書籍「虐げられた真の聖女ですが、なぜか敵国の皇帝に愛でられています」 発売中
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。