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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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親友サンドイッチ

「恋人では、ありませんから」

「そう? 仲のいい友人なら、するよ」

「挨拶の際、頬に触れる他国の習慣をご存知なのですね」

「僕は、第二王子だからね。ある程度の教養は、持ち合わせているよ」


 彼の視線は今もなお、己の唇に釘づけだ。

 その姿は、まるで獲物に狙いを定める魔獣のようで――どうにも、落ち着かない。


「初めてを奪ったら、怒られてしまうかな……」


 こちらがソワソワと視線をさまよわせて、「逃げたほうがいいんだろうか」と考えていたのを読み取ったのかもしれない。


 彼は右頬をツンツンと弄び、満足そうな笑みを浮かべた。


「今日は、ここを触れるだけにしてあげる」

「あ、あの……。殿下……。これは、一体……」

「子どもたちを守りながら、1人で頑張ったご褒美だよ。受け取って?」


 ――ルドルフとガザンとは、3歳違いだけど……。

 私だってもう、20歳を過ぎている。

 こんなふうに触れられて喜ぶのは、赤子だけだ。

 そう不満を露わにしようか迷っていたところ、そこへ口づけられた。


「うん。やっぱり、かわいい。いつまでも、こうしていたい……」


 彼はどうやら、鳩が豆鉄砲を食らったかのような自分の表情を浮かべるのが好きらしい。


 ――それはあまりにも、特殊性癖がすぎるのでは……?


 新たな扉を開いてしまったルドルフと一緒にいるのは、危険だ。

 どうにかして2人きりの状態から抜け出さないと、大変なことになる……!


 頭の中で鳴り響く警報音に青ざめていたところ、前方から見知った人物が姿を見せた。


「何、やってんだ?」

「お疲れ様、ガザン。今日も、百発百中だったね」

「そりゃ、オレにはそれくらいしか取り柄がねぇからな」


 それは、こちらからでは姿が見えない場所で騎士団員を狙っていた、ガザンだった。

 彼は呆れたように肩を竦めたあと、第二王子としての威厳など欠片も存在しない表情を浮かべる殿下へ苦言を呈する。


「誰が見てるかわかんねぇ場所で、腑抜けた顔をすんなよ」

「いいんだ。もう、王城の人たちには全員、エミリエを好きだってバレているから……」

「あんたがそうやって、こいつを猫可愛がりするせいで、狙われたんじゃねぇか……」


 ガザンの指摘は、一理ある。

 王太子はつねに、自分が一番であるべきという考えを持っているのだ。

 そんな彼を差し置いて、弟が救済の聖女を溺愛し――良好な関係を築いている。

 それは、到底許せるものではない。


 初めて出会った時のように嫌われていたら、きっとサドルーブの興味関心が自分に向けられることはなかっただろう。


「ガザンだって、エミリエを気に入っているくせに」

「はっ。そいつは違いねぇ。ルドルフが右なら、オレは左だな」


 2人は息をぴったりと合わせて、両頬をツンツンと人差し指で突く。

 まるで、タッチパネルにでもなったみたいだ。


「あ、あの……」

「あんたの一番は、あいつにやるって決めてるしな」

「早く、ここの初めてを済ませてきて。そうすれば、僕たちもここへ直接触れられるから。ね?」


 ――唇への口づけが何を意味するか、知っているくせに。


 2人はニヤニヤと口元だけを綻ばせて、こちらをおちょくった。

 こうやって息ぴったりなところが、幼い頃から一緒に過ごしてきた悪友たる所以なのだろう。


 ――なんだか、ドッと疲れが出た……。


 私は頬を突かれ、うとうと微睡み――。

 そして、黒く染まる左目を開眼させた。


 ――見える。

 右目に映っていない、ここではない場所の光景が。


 ――フェドクス……?


 彼はちょうど、教会から出てきたところだった。

 そこで不運にも、偶然通りかかった王立騎士団の団員たちの会話を聞いてしまった。


『王太子が救済の聖女を始末しようとして失敗した話、聞いたか?』

『ああ。殿下の思いつきには、困ったものだ』

『第二王子が激怒しているらしいな』

『やれやれ。また、王位継承問題によって、王家が荒れるのか……』


 幼馴染の瞳が、大きく見開かれる。

 その顔は、絶望に染まっていた。


『魔王なんて討伐せずに、帰って来なければよかったのにな』


 己の見ていないところで、私が傷つけられるのは二度目と言うのも、余計に幼馴染の罪悪感や怒りを引き出す要素になったのだろう。


 彼はすぐさま踵を返し、この場をあとにするかに思われたが――。

 フェドクスは意外にも、下世話な噂話をしていた騎士に食ってかかった。


『うおっ。な、なんだ!?』

『俺のエミリエは、どこにいる……!』

『ひっ。し、知らない!』

『そんなに慌てなくたって、いいだろ!? 聖女は第二王子と辺境伯に守られて、中庭から姿を消したんだから……!』


 これ以上彼らと話を続けたところで、なんの意味も見出だせないと考えたのだろう。

 彼は王立騎士団員の胸元から手を離すと、勢いよく走り出した――。


「エミリエ。どうしたの?」

「おい。また、左目が……」


 ――2人に声をかけられ、我に返ったせいか。

 左目で見ていた映像がピタリと止まり、再び視界が暗闇に閉ざされた。


 私はどう説明するか迷いながら、彼らに質問した。


「教会からここまで、何分かかりますか」

「うーん。歩いてなら、5分くらいかなぁ」

「フェドクスが、全力疾走した場合は?」

「あいつが本気を出せば、馬より早いからな。1分もかからないんじゃねぇの」

「では……。頬から、指先を離したほうがよろしいかと」


 2人は顔を見合わせたあと、こちらの指示に従ってくれた。


 ――私たちが一緒に過ごした時間は3年程度だけれど……。

 幼馴染の恐ろしさは、身を持って何度も経験している。


 自分の知らないところで私が危機に晒された挙げ句、ほかの男性といちゃついていたと知ったら――彼は冷静さを保てない。


 彼らもフェドクスと険悪な雰囲気になるのは避けたいのか、渋々指先を引っ込めた。


「しかし、便利だな。その左目」

「そうかい? 今日の遠隔視は、無駄遣いだったと思うけど……」

「私がもっと、上手にコントロールをできればよかったのですが……」

「焦る必要は、ないよ。ただでさえ、身体が不自由な状態なんだ。これから、ゆっくり慣らしていこう」


 ルドルフに勇気づけられた私は、少しだけ心が軽くなる。

 こういう時、三英雄がいてくれて本当によかったと思う。


「いきなり残酷な映像が流れるよりは、マシなんじゃねぇの?」

「そう、ですよね……」

「エミリエ!」


 ガザンから「早めにコントロールができる様になるべきだ」と遠回しに告げられ、これから忙しくなりそうだと身を引き締めたところ、前方からいっぱいっぱいな様子の幼馴染が姿を見せた。


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