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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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【2-5】魔王、再降臨

 ただでさえ、陛下を前にしているとは思えない酷い態度を取っていたのだ。

 私をこんなふうに連れて行ったら、ますますフェドクスの好感度が下がってしまうのでは?


 ――幼馴染の好感度を心配していたのは、どうやら私だけではなかったようだ。


 私たちが謁見の間から退出した直後、慌てた様子でガザンが後ろをついてきた。


「おい! フェドクス! 待てって!」

「俺のエミリエに魔王が取り憑いてるなどと言われて、剣を向けなかっただけありがたいと思え」

「確かにな。沸点の低いあんたにしては、よく我慢したほうだ。けどよ……」

「王立騎士団に入団せずに済んだ。これ以上、なんの不満がある」


 彼は謁見の間に戻るべきだと伝える前に、口を噤む。

 有無を言わせぬ声を響かせたフェドクスに、反論できなかったからだ。


 2人は後ろを振り返らず、客間に続く廊下を進む。


「なんつーか、過敏過ぎねぇか? あんたのその反応、出生の件とそっくりなんだよな」


 フェドクスが過剰に反応を示したせいで、ガザンに鋭いところを突かれてしまった。


 私は数日前に、彼と秘密を明かし合った時のことを思い出す。


 フェドクスは言っていた。

 私には、呪いがかけられていると。

 もしもそれが継続しており、自分の中で悪さをしているのだとしたら――。


 魔王の力をなんの苦労もせずに奪い取れたのは、ただの偶然ではない――。


『ようやく、我の存在に気づいたか』

「え……?」


 唇から呆けた声が出てしまうのも無理はない。

 頭の中で、もう二度と聞くはずのない――阿玉セクシーの声が響き渡ったせいだ。


「エミリエ?」

「おい! あんた、左目が黒に――」


 驚きのあまり、ぱちくりと瞬きをしたところ、闇に閉ざされていたはずの左目が見開かれる。


『我はこの時を、ずっと待ち続けていた――』


 視力を失ったはずの視界には、私たちが必死になって討伐した魔王の姿が写った。


「何、これ……っ。ど、どうなってるの……?」

『感謝するぞ、人間。あの肉体は、いつ滅んでもおかしくなかった。貴様が我の力とともに異能を吸収してくれたおかげで、この世に顕現できる――』


 ――やはり、陛下の指摘は正しかったのだ。

 私は、魔王の異能を奪い取るべきではなかったのだろう。


 今さら後悔しても、遅いかもしれない。

 それでも――。


 そう思わずには、いられなかった。


「貴様……! 死してなおも、俺のエミリエを、狙うのか……!」

「おい、落ち着けって。これ、どうなってんだよ?」

「お、お姉ちゃん!?」


 室外の騒ぎを聞きつけ、客間で私たちの帰りを待っていたルネリィが勢いよく飛び出してきた。


 彼女がこちらへ駆け寄る姿を目にしたフェドクスは、魔王に抱く怨みをぐっと抑え込む。

 その後、彼女に指示を飛ばした。


「神殿で暮らしていたなら、浄化魔法くらい使えるだろう!」

「へ? う、うん……。い、一応……」

「左目に魔力を、注ぎ込んでくれ」

「そんなに強い魔法は、使えないよ?」

「構わない! 早くしろ!」

「わ、わかった……!」


 切羽詰まった様子で指示を飛ばすフェドクスの勢いに逆らいきれず、少女は聖なる力を使い始めた。


 その直後、左目に映し出されていた魔王の姿が揺らぐ。

 まるで、壊れたブラウン管に表示される映像のように、ジジジと音を立ててノイズが走り、乱れたのだ。


『目障りな、騎士め……。余計な、ことを……!』


 どうやら魔王にとって聖なる力は、毒となるらしい。

 ――それなら、とっておきの魔法がある。


 この秘密は、墓まで持っていくつもりだった。

 だけど――。

 フェドクスにはすでに、打ち明けている。

 今さらガザンやルネリィにバレたってなんの問題もないはずだ。


 ――こういう時は、思い切りが大事だ。


 魔王に身体を乗っ取られてしまうよりは、絶対にマシだと思うから――。


「哀れな、子羊に……。神の、祝福を……!」


 こうして私は、自らの左目を癒やすために力を使った。


『ぐ……っ。我に、抗うか……!』

「あなたの、思い通りには……させ、ま、せん……!」

『ならば、我と共存したほうがいいと思わせてやろう』


 魔王は「この程度の力を跳ね除けるなど容易い」と言わんばかりの声を響かせ、こちらへ語りかけてくる。


『受け取れ、聖女よ。これが我の異能。物理的な距離を無視して、対象者の行動をリアルタイムで観察する。遠隔視の力だ――』


 魔王の宣言を耳にした直後、私の意識は遠のいた。


*


 ――ここは……?


 キョロキョロとあたりを見渡し、いつの間にか綺麗な花々の咲き乱れる庭園に自分が立っているのに気づく。


 いつも暗闇に閉ざていた左目の視力が一時的に回復し、こうして普通に周りを見渡せる状況は慣れなかったが、ずっとこの状況が続くわけではない。


 これもきっと、夢の中だからこそ無せる技なのだろう。


 早く、目覚める術を探さなくちゃ。


 そう決意した私は、自分の足で動き回ろうとして――。


「わ、わわわ……っ」


 まるで空中浮遊をしているかのように、両足を動かさずとも身体が勝手に動き出した。


 目的地まで繋がったベルトコンベアに乗せられ、一直線に進んでいるかのようだ。


 いくら夢の中だからって、私の意思に関係なく見せたい場所へ誘導させるのは止めて欲しい。


 ――これ、どうにかならないのかな……。

 それか、現実世界でもこういう移動方法が使えるといいのに……。


 ――空を飛べる魔法と言えば、魔法の絨毯とか?


 こちらの都合よく、異能を持っている人に出会えたら苦労はしない。


 ――私はもっと早くに、考えるべきだったのだ。

 魔王がここに自分を連れてきた意味を。

 そうすれば、ある人物を視界に捉えた瞬間――動揺せずに済んだのに……。


『はぁ……っ。はぁ……っ』


 息を切らした男性が、ガゼポで優雅なティータイムを楽しんでいた女性に向かって大声を出す。


『ルティア様!』


 彼の口から紡ぎ出されたその名前は、絶対に忘れない。


「自己犠牲の精霊ファンタジア」の主人公はプレイヤーが自由に名前を変換できたが、デフォルトの場合はフルボイスになるのだ。


 ルティアは、作中で何度も呼ばれていたヒロインの名前だったから。


 それに――。


 転生した今となっては、血を分けた姉妹でもある。


『どうしたの? 騒々しいなぁ……』


 まるで砂糖菓子のように甘く、一度聞いたら忘れられない、愛らしい声。

 光に照らされてキラキラと光り輝くプラチナブロンドの髪と、桃色の瞳。

 私とは真逆のカラーリングを持つ、その女性は――。


 ルティア・エンジェリィ。


 じこファンの、主人公だった。

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