フェドクスの所属(3)
「まさか……。うちにこいつを所属させろって、言うんじゃねぇよな……?」
「おっしゃる通りです」
「無理だろ!? そうなったら、オレの命令に従うんだぜ?」
「ルドルフよりは素直に、聞き入れてもらえるような気がします……」
「考え方が似てるから、なんとかなるって言いてぇのか?」
「はい」
「そういう問題じゃねぇし……!」
意外にも、ガザンはフェドクスを部下にするのを嫌がった。
自分がかかわること以外でのフットワークが思いので、仲間に引き入れても無意味だと思っているのかもしれない。
私は勝手に、そう思い込んでいたのだが……。
どうやら、別の理由があるようだ。
ガザンは序列に疎い己へ、わかりやすく説明をしてくれた。
「いいか? 我が国のヒエラルキーは、王立騎士が頂点だ。次点で聖騎士、底辺が辺境伯騎士。都落ちもいいところだぞ」
「私が誰とも婚約せずに今まで通りの暮らしができるのなら、フェドクスもそっちのほうがいいよね?」
「ああ」
「マジかよ……!?」
ガザンはせっかく王立騎士団の一員になれるのに、その誘いを蹴って聖騎士よりも身分の低い辺境伯騎士団に入団するのはあり得ないと言いたかったようだ。
一般的な思考回路を持っている人間なら、当然陛下を守るための剣となることを了承する。
しかし、残念ながらフェドクスは頭のネジが吹っ飛んで締まっている状態だ。
幼馴染が辺境伯騎士団に身を寄せれば、私は誰とも婚約を結ばなくていい。
今まで通り一緒にいられるのなら、これほど素晴らしい誘いはないだろう。
フェドクスが、その誘いを断るはずがなかった。
「なぁ、ルドルフ! どうにか、こいつを王立騎士団に押しつけらんねぇの!?」
「無理じゃないかな? たとえ父上の機嫌を損ねて命を狙われる羽目になったとしても、彼にとってエミリエの意見は絶対だ」
「くそ……っ!」
ガザンは幼馴染が辺境伯騎士団の一員になるのを、かなり嫌がっているようだ。
このままでは、2人の間にわだかまりができかねない。
私は慌てて、辺境伯の説得にかかる。
「駄目、でしょうか。名案だと、思ったのですが……」
「う……っ。その顔には、弱いんだよなぁ……」
その甲斐あって、ガザンはようやく言葉詰まらせた。
――捨てられた子犬のように瞳を潤ませる作戦は、どうやら成功したみたい。
「諦めろ」
「落とし所としては、悪くないんじゃないかな?」
「適当な罪状をでっち上げられて首を切られるのが、怖くねぇのかよ……」
私がしめしめと内心ほくそ笑んでいると、ガザンは2人に促した。
どうやら彼は、フェドクスを辺境伯騎士団の所属にすることで、厄介事が起きるのではないかと心配しているらしい。
「僕たちは、三英雄だよ? 父上が真正面からぶつかってきたら、みんなで協力して退ければいいだけだよ」
「俺はエミリエを守るため、ここにいる。相手が誰であろうと、怯まない」
「あんたら……」
だが――。
ルドルフとフェドクスに「問題ない」と豪語されてしまえば、彼も諦めるしかなかったのだろう。
「はぁ。オレも、腹を割るしかねぇな……」
ガザンは渋々、条件つきでフェドクスを辺境伯騎士団の一員として認めることにした。
「弟と、喧嘩すんなよ」
「状況による」
「おい!」
2人が口論を始めた頃、その様子を目にしたルドルフの笑い声が響く。
「ははは。多分、仲良くはなれないだろうね」
「ガザンの弟さん、問題児なのですか……?」
どうやら殿下は、辺境伯の弟さんとも交流があるらしい。
彼はここにはいない人物の姿を思い浮かべ、苦笑いを浮かべた。
「うーん。一言で言い表すと、生意気だからね」
「お会いできる日が、楽しみです」
じこファンにも登場していないため、彼の名前どころか年齢すらも知らない。
弟さんと出会う前にヒロインがやってきたら、顔を合わせる機会はないだろうが……。
――会えるといいなぁ。
こうして期待を胸に膨らませていたところ、独占欲を滲ませたフェドクスが、この場にはいない人物に向けて釘を刺す。
「エミリエに惚れたら、殺す」
「物騒な顔、すんなよ。兄弟で同じ女を好きになるなんざ、こっちだって願い下げだっての」
完全に「邪魔者は消す」モードに入ったフェドクスと、彼の思惑通りにはならないと肩を竦めるガザンの姿を眺めながら、私はルドルフに頭を下げた。
「殿下には、ご迷惑をおかけしてしまいますね……」
「うんん。こうなるのは、ある程度予想できていたから」
ルドルフは「気にしないで」と言わんばかりに、私へ優しい言葉をかけてくれた。
――陛下が機嫌を損ねて、みんなを加害しませんように……。
私はそう願いながら、今後についてに作戦会議を始めた三英雄を、静かに見守った。




