【2-4】フェドクスの所属(1)
神殿が壊滅してから、1か月が経過した。
職場を失った聖騎士たちの再就職先を決めるため、彼らを対象とした総当たり戦の剣術のトーナメントが開催された。
フェドクスは周りから懇願されて出場することになり、見事勝利を収めた。
陛下のお眼鏡に叶った人々は、王立騎士団への入団が決定。
腕っぷしがあまり強くないタイプの人々は、自警団で働くことが決まったのだが――。
「ふむ。さすがは、三英雄の1人だ。元聖騎士団の面々を率いる、第三騎士団の団長になってはくれんかね?」
「お断りします」
――フェドクスは、陛下から受けたありがたい申し出を堂々と断った。
恐らく、聖騎士団の団長を断った理由と同じだろう。
「三英雄の1人であるお主が、無職と言うわけにはいかんだろう」
「私は、聖女の護衛騎士です。それ以外になるつもりはありません」
「うむ……。しかし、だな……」
「失礼いたします」
何か言いたげな陛下との話を勝手に切り上げ、フェドクスが私の元に戻ってきた。
彼は国王と会話をするのが疲れたようで、杖をついて立っていた私を抱き寄せる。
どうやら、どさくさに紛れて鋭気を養っているらしい。
――陛下と王太子の、視線が痛い……。
苦笑いするのもどうかと思い、会釈をするだけに留めた。
「父上に、なんたる無礼を……!」
「よいのだ、王太子」
「陛下! 奴らに、罰を与えるべきです!」
「ルドルフ、こちらに来なさい」
「承知いたしました」
王太子は納得がいかない様子でフェドクスを敵視していた。
しかし、陛下がルドルフを呼び出したことで、毒気を抜かれたのだろう。
悔しそうに唇を噛み締め、黙り込んでしまった。
そんな兄を横目に、ルドルフは笑顔でそれに応じる。
こうして彼は、家族会議へ向かってしまった。
「あんた、ほんとにブレねぇなぁ」
「俺はエミリエ以外、何もいらない」
「だからって……。陛下の前でも、あれは、まずいだろ」
取り残された私たちに声をかけてきたのは、ガザンだ。
彼は苦言を呈してきたが、フェドクスは涼しい顔をしている。
幼馴染はいつまで経ってもここにいては仕方ないと言わんばかりに、私を抱き上げて歩き出す。
「おい。オレの話、聞いてるか?」
「帰ろう」
「無視、すんなって!」
しかし、辺境伯はその態度が気に食わないようだ。
彼はなんとかしてフェドクスとの会話を引き出そうと、必死になっているのが印象深かった。
「エミリエからも、なんとか言ってくんねぇ?」
「あの場で陛下に噛みつかなかったのは、すごく偉かったと思います」
「褒めるところは、そこかよ……」
呆れてものも言えないとは、まさにこのような状況を称するのだろう。
ガザンは当然のように隣へ並び立ち、肩を竦める。
――言葉足らず、だったかな……。
私はそう反省し、補足説明をした。
「聖騎士団長の地位すらも、私と一緒にいる時間が減ると言って断るような人です。フェドクスにどこかの騎士団で指揮を取るよう命じるのは、難しいかと」
「こいつ、協調性の欠片もねぇもんな……」
ガザンはどこか遠い目をして、旅の道中で見せたフェドクスの行動を思い浮かべる。
周りの様子など気にした様子もなく、ただ目の前にいる敵だけを殲滅するまで止まらない。
それは一度スイッチを入れたら暴走し続ける、殺戮兵器と称するのが適していた。
「エミリエの言うことだけは、聞く気がある」
「どうだかな……」
今回ばかりは、ガザンの意見に同意する。
フェドクスはなんだかんだ言いながら、こちらの意思を尊重するふりをしている面が多かったからだ。
こうしてはっきりと、声に出して断言したんだから……。
今後は、私の言うことを聞いてくれるといいな……。
そう思わずには、いられなかった。
「王立騎士団は、王に忠誠を誓う連中だ」
「そりゃ、そうだろ。あいつらは、陛下を守るためにいるからな」
「俺が君主と認めるのは、たった1人しかいない」
「どうしたもんかねぇ……」
ガザンはどこか遠くを見つめ、言葉を詰まらせた。
こちらもこの陰鬱な空気をどうにかして解消したいところだが、簡単ではないとわかっているからこそ手が出せなかった。
じこファンでは確か、神殿を壊滅させたあと、自国に戻ったヒロインの護衛騎士として暮らすようになるはずだ。
――私が死んだこと以外、原作通りの筋書きを歩むのなら――。
ヒロインと攻略対象を引き会わせたあと、作戦を実行するべきだったのに……。
マリラさんというイレギュラーな存在がいたことによって、どんどんと原作からかけ離れて行っているような気がしてならない。
できる限り、原作沿いに戻したいけど……。
ここは、ゲームの中でもなければ、私はプレイヤーではない。
攻略対象には自我があるため、何もかもを思い通りに動かすのは難しい。
どちらにせよ、神殿が機能し続けていれば、司祭と癒しの聖女が大きな顔をして威張り散らしていたのは明らかだ。
数々の問題を起こし、騒動に巻き込まれた結果、命の危険に晒され続ける。
その度に、フェドクスは剣を振るい――どんどんと、己を加害する他者が嫌いになっただろう。
私のせいで、幼馴染が苦しみ続ける。
ヒロインとの恋愛関係を進展させる気にならない状態に発展するくらいなら、今のほうがずっといいはずだ。
――どうにかして、考えなくちゃ。
原作通りとは言えない状況を、軌道修正するための名案を――。
「いつも、ありがとう」
気まずい空気の中、客間に戻ってきたフェドクスは、私を寝台の上に下ろす。
それにお礼を告げたところ、小さく頷かれ、背中から抱きしめられる。
こうして私たちは、思い思いの時間を過ごすことになった。
ガザンは開いている椅子に座り、背中に背負った銃を取り出して手入れを始める。
私は暇つぶしに本を読み、フェドクスは甲斐甲斐しくそれをサポートしてくれた。
片腕だけでは、書籍を支えるのが困難だからだ。
それにありがたい気持ちでいっぱいになりながら、ルドルフが返ってくるのを待つ。
すると――。
「やぁ。みんな、揃ってるね」
殿下は、30分程度で戻ってきた。
彼は珍しく疲れた様子を見せ、ガザンの隣にポッカリと開いた空席へ行儀悪くドカリと音を立てて腰を下ろす。
その姿は、私が左目を肩代わりした時に見せた、激昂している時の仕草とよく似ていた。
「お疲れ様。その様子じゃ、相当ヤバかったみてぇじゃねぇの」
「兄上が、ここぞとばかりに攻撃してきてね……」
「相変わらず、兄弟仲は最悪だな?」
「仕方ないよ。王座が、かかっているからね」
普段は金髪の、笑顔が耐えないキラキラ王子様という印象のルドルフだが、貴族の割に横暴な口調のガザンと、親友になれるだけのことはある。
頭に血が上ると、まるで人が変わったかのように気性が荒くなるのだ。
あの時よりは、まだマシではあるけど……。
これ以上、激怒させるわけにはいかない。
私は慌てて、謝罪をする気のない幼馴染の変わりに、頭を下げた。
「申し訳ありません……」
「どうして、エミリエが謝るの?」
「フェドクスは、謝罪をするタイプではないので……」
「気にしないで。彼には、違った形で責任を取ってもらうから」
「それは、一体……?」
こちらが小首を傾げた直後、オッドアイの瞳がフェドクスを射抜く。
その目の奥に隠された感情があまりにも真剣だったものだから、私たちは固唾を呑んで殿下の唇から声が聞こえてくるのを待った。




