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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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幼馴染のメンタルケア(3)

「俺はずっと、怖かった……」


 フェドクスは私と離れたくない一心で、必死にしがみついて、怯えて、周りを威嚇し――そうして、長い時間をかけて異常なまでの執着心を育て上げた。


 ――どうしてヒロインではなく私なんだろう。


 口では大切な幼馴染だと言いながらも、得体のしれなさを感じて怖かった。


 でも――。

 その理由がすべて私のせいだと知ったから、これからはちゃんと彼の思いを受け止められる。

 そんな、気がするんだ。


「私の秘密を1人で背負う必要なんて、ないんだよ」

「ティルタラーテ王国に、未練はないのか」

「うん。第二王女として生きていくつもりは、ないかな」


 神殿が壊滅状態に追い込まれた以上、ここに私の敵はいない。

 だが、母国にはまだ両親がいる。

 魔女と私を罵る彼らが牛耳る国に身を寄せたところで、心ない視線に晒されるだけだ。


 叶うことなら、ここで暮らしたい。

 そのほうが、身の安全は保証されているから。


 そんな思いを込めた発言を聞いて、フェドクスは声を震わせながら私に問いかけてきた。


「俺と一緒に、生きてくれるのか……?」

「そうしないと、死んでしまうくらい苦しいって言うならね」

「エミリエは俺にとって、敬愛すべき神だ。唯一無二の、愛すべき人。誰であろうとも、俺たちの仲を引き裂くなど認めない……!」


 私を、好きだって言ってくれるのは嬉しい。


 だけど……。


 どれほど懇願されたところで、彼がこちらへ向けるのと同じくらいの愛は、残念ながら返せそうにない。


「言わないでくれ」


 この間のように、はっきりと伝えるつもりだった。

 でも、フェドクスはそれをよしとしない。

 黙っていてくれと告げ、髪に触れた指先を唇へ押しつけた。


「今まで通り……。そばに、置いて欲しい。君の、剣と盾になる存在として……」

「いいの? フェドクスと同じくらいの愛は、返せないよ」

「それでも構わない」


 どうやら彼は、こちらに見返りは求めていないようだ。

 ――幼馴染はきっと、怖いのだろう。ここで告白を断られたら、今まで通りの関係ではいられなくなってしまうから……。


「物理的な距離ができるなど、耐えられないんだ……」

「フェドクスは、知ってる? 私がいるから、ティルタラーテ王国はこの国に手が出せないんだって」

「ああ……」


 そう遠くない未来に、私はお姉様と再会する。

 そこで「母国には帰らない」と宣言したらどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。


 作中、幼少期ともに、ヒロインは私を溺愛していた。


『エミリエを取り戻すためなら、なんでもする』


 そう豪語するくらいなのだから、不可侵条約を破って「戦争だ」と騒ぎ立てる可能性がないとは言えなかった。


 つまり、私は――。


 いつ爆発するかわからない爆弾なのだ。


「私のせいで、たくさんの人が苦しむ。そんな姿は、見たくないの」

「ほかの奴らがどうなろうが、知ったことではない。俺はエミリエがどんな選択をしたとしても、そばにいる」


 フェドクスは、ブレない。

 それが有り難くもあり、面倒でもあった。


「生半可な覚悟で、君のそばにいると決意したわけではない」

「頼りに、なるなぁ……」


 彼の決意が、これほどまでに固いのであれば、何を言っても無駄だ。

 口論になるくらいなら口を閉ざしたほうがいいと判断し、苦笑いを浮かべた。


 ――私を選んだことを、後悔しないといいんだけど……。


「あのね。そう遠くない未来に、みんなはお姉様に会うと思う」

「オネエ、サマ……?」

「ティルタラーテ王国の、第一王女様」


 私は念の為、ヒロインとの再会を匂わせた。

 フェドクスは恐らく、お姉様がどんな顔をしているかすらも把握していないのだろう。

 不思議そうに考えを巡らせたあと、抱きしめる力を強めた。


「駄目だ」

「うんん。それは、避けては通れないよ。どんな反応をされるかまでは、わからないけど――止めないでほしいの」


 どうやら、彼の嫉妬心は女性にも適用されるらしい。


 当たり判定が広いと、苦労するなぁ……。

 これじゃ、同性の友人さえも作るのに苦労しそうだ。


『エミリエには、自分だけがいればいい』


 フェドクスが心の底からそう思っている限り、本当の意味で自由を満喫するのは難しいのかもしれない……。


「本当に、母国へ戻るつもりはないんだな」

「今のところはね」

「俺から、逃げるつもりもない」

「うん」

「なら、いい」


 幼馴染はようやく、普段の調子を取り戻したようだ。


 ――監禁ルートが解禁されなくて、本当によかった……。


 私はそうほっと胸を撫で下ろしながら、彼の背中に右腕を回す。

 その後、口元を綻ばせる。


「ありがとう。今日は久しぶりに、ゆっくりしようか」

「ああ……」


 こうして私たちはベッドでゴロゴロしながら、2人だけでおしゃべりを続けた。

 その結果、なんだか心の距離が随分と近づいたような気がする。


 13年も、一緒にいたのに……。

 これまで私たちは、一体何をやっていたんだろう?

 これは互いを一番理解している気になって、言葉を交わし合っていなかったことによる弊害だ。


 ――これからはもっと、話し合う機会を設けよう。


 私はそう決めると、幼馴染の腕の中で抱かれ、疲労を回復するために眠りへついた。

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