幼馴染のメンタルケア(3)
「俺はずっと、怖かった……」
フェドクスは私と離れたくない一心で、必死にしがみついて、怯えて、周りを威嚇し――そうして、長い時間をかけて異常なまでの執着心を育て上げた。
――どうしてヒロインではなく私なんだろう。
口では大切な幼馴染だと言いながらも、得体のしれなさを感じて怖かった。
でも――。
その理由がすべて私のせいだと知ったから、これからはちゃんと彼の思いを受け止められる。
そんな、気がするんだ。
「私の秘密を1人で背負う必要なんて、ないんだよ」
「ティルタラーテ王国に、未練はないのか」
「うん。第二王女として生きていくつもりは、ないかな」
神殿が壊滅状態に追い込まれた以上、ここに私の敵はいない。
だが、母国にはまだ両親がいる。
魔女と私を罵る彼らが牛耳る国に身を寄せたところで、心ない視線に晒されるだけだ。
叶うことなら、ここで暮らしたい。
そのほうが、身の安全は保証されているから。
そんな思いを込めた発言を聞いて、フェドクスは声を震わせながら私に問いかけてきた。
「俺と一緒に、生きてくれるのか……?」
「そうしないと、死んでしまうくらい苦しいって言うならね」
「エミリエは俺にとって、敬愛すべき神だ。唯一無二の、愛すべき人。誰であろうとも、俺たちの仲を引き裂くなど認めない……!」
私を、好きだって言ってくれるのは嬉しい。
だけど……。
どれほど懇願されたところで、彼がこちらへ向けるのと同じくらいの愛は、残念ながら返せそうにない。
「言わないでくれ」
この間のように、はっきりと伝えるつもりだった。
でも、フェドクスはそれをよしとしない。
黙っていてくれと告げ、髪に触れた指先を唇へ押しつけた。
「今まで通り……。そばに、置いて欲しい。君の、剣と盾になる存在として……」
「いいの? フェドクスと同じくらいの愛は、返せないよ」
「それでも構わない」
どうやら彼は、こちらに見返りは求めていないようだ。
――幼馴染はきっと、怖いのだろう。ここで告白を断られたら、今まで通りの関係ではいられなくなってしまうから……。
「物理的な距離ができるなど、耐えられないんだ……」
「フェドクスは、知ってる? 私がいるから、ティルタラーテ王国はこの国に手が出せないんだって」
「ああ……」
そう遠くない未来に、私はお姉様と再会する。
そこで「母国には帰らない」と宣言したらどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。
作中、幼少期ともに、ヒロインは私を溺愛していた。
『エミリエを取り戻すためなら、なんでもする』
そう豪語するくらいなのだから、不可侵条約を破って「戦争だ」と騒ぎ立てる可能性がないとは言えなかった。
つまり、私は――。
いつ爆発するかわからない爆弾なのだ。
「私のせいで、たくさんの人が苦しむ。そんな姿は、見たくないの」
「ほかの奴らがどうなろうが、知ったことではない。俺はエミリエがどんな選択をしたとしても、そばにいる」
フェドクスは、ブレない。
それが有り難くもあり、面倒でもあった。
「生半可な覚悟で、君のそばにいると決意したわけではない」
「頼りに、なるなぁ……」
彼の決意が、これほどまでに固いのであれば、何を言っても無駄だ。
口論になるくらいなら口を閉ざしたほうがいいと判断し、苦笑いを浮かべた。
――私を選んだことを、後悔しないといいんだけど……。
「あのね。そう遠くない未来に、みんなはお姉様に会うと思う」
「オネエ、サマ……?」
「ティルタラーテ王国の、第一王女様」
私は念の為、ヒロインとの再会を匂わせた。
フェドクスは恐らく、お姉様がどんな顔をしているかすらも把握していないのだろう。
不思議そうに考えを巡らせたあと、抱きしめる力を強めた。
「駄目だ」
「うんん。それは、避けては通れないよ。どんな反応をされるかまでは、わからないけど――止めないでほしいの」
どうやら、彼の嫉妬心は女性にも適用されるらしい。
当たり判定が広いと、苦労するなぁ……。
これじゃ、同性の友人さえも作るのに苦労しそうだ。
『エミリエには、自分だけがいればいい』
フェドクスが心の底からそう思っている限り、本当の意味で自由を満喫するのは難しいのかもしれない……。
「本当に、母国へ戻るつもりはないんだな」
「今のところはね」
「俺から、逃げるつもりもない」
「うん」
「なら、いい」
幼馴染はようやく、普段の調子を取り戻したようだ。
――監禁ルートが解禁されなくて、本当によかった……。
私はそうほっと胸を撫で下ろしながら、彼の背中に右腕を回す。
その後、口元を綻ばせる。
「ありがとう。今日は久しぶりに、ゆっくりしようか」
「ああ……」
こうして私たちはベッドでゴロゴロしながら、2人だけでおしゃべりを続けた。
その結果、なんだか心の距離が随分と近づいたような気がする。
13年も、一緒にいたのに……。
これまで私たちは、一体何をやっていたんだろう?
これは互いを一番理解している気になって、言葉を交わし合っていなかったことによる弊害だ。
――これからはもっと、話し合う機会を設けよう。
私はそう決めると、幼馴染の腕の中で抱かれ、疲労を回復するために眠りへついた。




