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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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曇る幼馴染・リターンズ(2)

「それから……。これは、不確定な情報ではあるのですが……」

「なんだい?」

「王家の代わりに、ティルタラーテ王国と連絡を取っているようです」


 念の為、情報共有はしておくべきだと考えたからだ。

 殿下はこちらの声を聞き、興味深そうに問いかけてきた。


「へぇ。一体、なんのために?」

「神殿は、ティルタラーテ王国の弱みを握っていたので……。あちらが攻めてこないように、交渉を続けていたとか」


 フェドクスが神官たちを攻撃し回っていたせいで、危機を悟った民間はすでに命からがら逃げ出している。

 そのため、見える範囲に彼らの姿は見当たらなかったが――物陰に隠れている可能性は否めない。


 ここで「私がティルタラーテ王国の第二女王です」なんて暴露したら、偶然その情報を聞いた人々が噂を広めてしまう。

 私達が把握できないところから情報が外へ流出するのを防ぐのは難しい。


 ここはすべてを打ち明けずに、察してもらうのが一番だ。


「なるほど、ね。なんとなく、理解はしたよ」

「ぼくたちも、捕まっちゃうの?」

「そんなの、やだよ! わたしたち、悪いことなんてしてないのに……!」


 ルドルフがこちらの思惑通りに悟ってくれたと、安堵したのもつかの間。

 不安げに瞳を揺らした子どもたちが、私たちに懇願する。

 ティルタラーテ王国の話が出てきてから、大人たちが醸し出す不穏な気配を感じ取ったのだろう。


 私は慌てて、彼らの処遇についてある提案をした。


「殿下にお任せしたいのは、この子たちのことなのです。ルネリィは……」

「わたし、お姉ちゃんのお世話をする!」

「ずるいぞ! ぼくだって、お姉ちゃんを守る立派な騎士になるんだ!」


 こちらが最後まで言い終わる前に、少年少女が私の背中に抱きついてきた。

 2人は息をぴったりと合わせて、口々にどうなりたいかを語る。


 その光景を目にしたフェドクスは、少年と張り合った。


「エミリエを守る剣と盾の座は、譲れない」

「お兄さんがいない時、誰がお姉ちゃんを守るの?」

「こいつを守る役目は、フェドクスだけじゃねぇ。オレたちもいる。ガキは、足手まといだ。引っ込んでな」

「多いに越したことはないよ!」


 幼馴染だけなら「大人げないんだから」と言えたが、ガザンまで参戦してきてしまえばどうしようもない。


 ――何を言っても、火に油を注ぐだけなら、黙っているほうがいいよね……。


 そう悟り、苦笑いを浮かべるだけに留めていたのだが……。


「ベグラーの言う通り! おじさんたちは、お姉ちゃんがどれほど酷い目に遭ってたか知らないから、そんなことが言えるんだ!」


 ムキになった少女が不穏な言葉を口にした瞬間、雲行きが怪しくなってきた。

 このまま彼女の好き勝手にさせたら、まずい気がする。


 そんな予感に駆られ、ルネリィを止めようとしたのだが――。

 どうやら、一歩遅かったようだ。


「お姉ちゃんは手足の自由を奪われて、3日に一度しか食事を与えられなかったの!」

「それに、自分で治療するまで、顔が原型を留めないくらいボコボコになってたんだぞ!」


 子どもたちが見事な連携プレーで、彼らと別れたあとに私が置かれていた境遇を豪語してしまった。


 ――フェドクスの顔を見るのが、怖い……。


 頬が少し赤らんでいたくらいで、あれほど激怒したのだ。

 真実が明らかになった以上、地べたで伸びている悪者たちを殺し回っても、おかしくない。


 私は恐る恐る、彼の顔色を窺い――震え上がった。


「どうして、俺に言わなかった」

「フェドクスに、心労をかけたくなかったら――」


 幼馴染は再び、紫色の瞳から生気を消失させた。


 ――ああ、終わった……。


 そんなふうに諦めたくなる気持ちをぐっと堪え、必死に説得を試みる。

 しかし、この程度で彼の機嫌が収まれば、苦労はしない。


「き、機嫌を治して? ね?」

「俺はいつも通りだ」

「へぇ。誰が、オレたちのエミリエに手を出したって?」

「君たちに、罰を与える気はないよ。教えてくれないかい?」


 ――今の状況の、どこが普段通りなの!?


 心の中では叫びたくなるくらいに焦っている自分が、馬鹿みたいに思えてくる。

 こちらがフェドクスの機嫌を治すのにかかりきりな状態を見て、これ幸いとばかりに残りの2人まで少年少女に詳しい話を引き出そうと目論むし、もうめちゃくちゃだ。


「わかんない……」

「でも、ぼくはシスターに聞いたよ! お姉ちゃんの閉じ込められた牢屋に出入り出来たのは、司祭と聖女様だけだって!」


 ――私が真っ先に言い聞かせておかなきゃいけない人間は、幼馴染じゃなくてベグラーのほうだったらしい。


 ここで「今のは冗談です」と物事の隠蔽を図ったところで、フェドクスはきっと納得しない。


 それに、少年だって傷つくだろう。

 ここはのらりくらりと事実を認めるのだけは避け、話題がたち消えるのを待とうと考えていたのだが――。どうやらそれは、甘かったようだ。


「あいつら……。さっさと、始末しときゃよかったぜ……」

「一瞬で息の根を止めるなんて、もったいないよ。一生、苦しんでもらわなきゃ……」


 意外にも、幼馴染は抱きしめる力を強めるだけで済んだ。

 むしろ、静かに笑顔でキレているルドルフと、ガザンのほうが怖い。

 それは、彼らがこうして私を守るために激怒する瞬間をほとんど目にした覚えがなかったからなのだろうか?


 ――フェドクスだけでも、手に負えないレベルなのに……。


 残りの2人の機嫌も損ねないようにしなければならないなんて、先が思いやられる。


 ――みんなから愛されるって、大変なんだなぁ……。


 あちらを立てれば、こちらが立たず。

 ドカンバコンと爆破する爆弾の管理を頼まれた人のような気持ちになっていると、今度は後方で彼らに向かって獣が呻き声を上げた。


「がるるるる……!」


 どうやらこちらが困っているのを見かねて、悩みのタネを始末しようと目論んだ。


 狼さんがこうして味方になってくれるのはありがたい。


 しかし、仲間同士で争うのは避けたかった。


 私はフェドクスと繋いだ指先を離し、獣の身体を優しく撫でつけた。


「心配いりません。みなさんは、私の味方ですよ」


 この場にいる人々の視線が、一斉に魔獣へと集中する。

 ガザンはどこかバツが悪そうに怒りを鎮めると、こちらへ問いかけてきた。


「そういや、こいつの存在に突っ込みを入れんのを忘れてたな……」

「魔獣だよね?」

「はい。神殿の違法な事件により、被害に遭った獣です」

「魔王が消滅したあと、魔物たちは姿を消したはずだけど……」


 殿下は今も魔獣が五体満足で生きているのがおかしいと、首を捻っていた。


 ――これも、神殿による非道な実験のせいかもしれない。

 見た目こそ魔獣の形を保っているけれど、この子の生命力は別の何かに成り果てているのだろう。


「詳しく、調べる必要がありそうだ」

「お任せしても、よろしいですか?」

「うん」

「がるる……っ」


 私は狼さんから手を離し、ルドルフのそばへ向かうように促した。

 しかし、あの子は殿下を威嚇してしまい、一向に彼の下へ向かう様子がない。

 私は慌てて、魔獣に言って聞かせた。


「精密検査が終わったら、また会えます。それまで、いい子にしていられますか?」

「がう……」


 獣は渋々、ルドルフの方へと自ら歩みを進めた。

 その後ろ姿をじっと見送っていると、私の隣にいたフェドクスの腕が腰元に回る。


「何を、考えているんだ」

「大したことじゃないよ」

「浮かない顔を、している」

「2人が、フェドクスに似てきたと思って……」


 彼なりに、こちらを心配してくれているようだ。

 その気持ちに応えるべきだとはわかっていたけれど、あえて見ないふりをした。

 私はこれ以上、幼馴染と仲良くなってはいけない理由があるから。


「たとえそれが、事実であろうとも……。エミリエを世界で一番愛しているのは、俺だ」

「うん……」


 だが……。

 そんなこちらの感情を知っているフェドクスは、こちらの思いなどお構い無しに、耳元で囁いた。

 条件反射で彼が自分を好きだという気持ちを受け入れてしまったのは、よくなかったかもしれない。

 だけど、ここで「その気持ちには答えられない」とはっきり宣言するよりは、よほどマシだ。


 ――他者が異性を好きになる気持ちを止められない以上、私は彼が自分に興味を失うその日まで、待つことくらいしかできないのだから……。


「この子たちを君のそばに置くかどうかは、城に戻ってからゆっくり考えよう」

「おう。オレたちみんなで、真っ先にやるべきことがあるもんな?」


 私が彼らの申し出に有り難く頷いたところ、幼馴染は意外な言葉を口にした。


「あいつらの後処理は、貴様らに任せる」

「いいのかよ? オレたち以上に、ムカついてるだろ?」

「ある程度、発散した。今は、エミリエのそばにいたい」


 私に抱きついて離れぬフェドクスを、無理やり引き剥がす権利など誰にもない。

 ルドルフとガザンは、呆れたような視線をこちらへ向けながら、彼の意見を素直に受け入れた。


「そうだね。あんなことが、あったあとだ。僕たちに任せて、2人でゆっくりしてきなよ」

「しゃあねぇな。駆け落ちだけは、すんじゃねぇぞ!」


 こうして私たちは壊滅状態に陥った神殿をあとにし、帰路についた。

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