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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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絶体絶命

「わ……!」


 こちらが戸惑っている間に、狼は己の背中へ乗せてくれた。

 どうやら、自ら乗り物の代わりの役割を果たすべく立候補してくれたらしい。


「ありがとう」

「がぅ!」

「これで、お姉ちゃんもぼくたちと一緒に行けるね!」

「道案内は、任せて! 人目につかず、脱出できるルートは――こっちだよ!」


 子どもたちは率先して、走り出す。

 私は狼の背に乗ったまま、彼らのあとを追いかけた。


 ――楽ちんではあるけど、ちょっと怖いなぁ……。


 随分前にルドルフやフェドクスと一緒に乗馬訓練をしたおかげで、どうにか振り落とされずに済んでいる。

 だが、これをずっと続けるのは難しそうだ。


 ――早く、フェドクスと合流しなきゃ。


 私は逸る気持ちを抑えつつ、狼が外に出るのを待った。


「がう……!」

「ま、眩しい……」


 ずっと、暗闇の中にいたせいだろう。

 太陽の光が眩しく感じられて、思わず右手で瞳を覆ってしまう。

 その結果、右足の力だけでは狼の背に乗り続けるのが困難となり――バランスを崩して、転げ落ちそうになる。


「がう……!?」


 狼は慌てて、スピードを調節してくれた。


「ごめんなさい。あなたの足を、引っ張るつもりはなかったのですが……」

「がーう!」


 魔物は私が振り落とされないように、細心の注意を払って大地を疾走する。


 ――こういう時、左半分が不自由と言うのはつらい。


 でも――。

 この子が私を乗せてくれたおかげで、わざわざ人形使役の力を使って自分で自分を操る必要はなくなった。


 今はいつ聖女や司祭と鉢合わせてもいいように、緊張感を持ち続けるべきだ。


 右と左、後方は異常なし。

 あとは、前方か――。


 こちらが細心の注意を払って気配を悟っていると、道案内を買って出た子どもたちが急に立ち止まる。

 その後、物陰に隠れた。


「がう?」

「しー! 静かに!」


 少年は口元に手を当て、少女はそうっと顔だけを出して何かを確認している。


 一体、どうしたんだろう……?


 私もそれに倣い、状況把握を試みた。


「どうしたんだ?」

「何も起きないぞ?」

「いつもなら、癒やしの力が降り注ぐのに……」


 広場には神官と、病に冒された国民の姿がある。

 彼らは列を成し、癒やしの聖女の聖なる力が己の身に降り注ぐのを今か今かと待ち続けていた。


「哀れな子羊に、神の祝福を……!」


 だが――。

 どれほど祝詞を口にしたところで、異能が発現しないらしい。


「なんで……っ!」


 これでは、聖女のメンツが丸潰れだ。

 マリラさんは苛立ちを隠しきれない様子で、狂ったように神へ祈りを捧げる。


「祝福を! 祝福を! 祝福を! 祝福、を……っ!」


 だが――。

 何度声に出しても、奇跡は起こらなかった。


「癒やしの聖女様に、間違いないよな……?」

「あれじゃ、まるで――」

「無能聖女みたいだ……」


 誰かが口にした言葉は、マリラさんの怒りに火をつける。

 私と同一視されるのは彼女にとって、火炙りにされるよりも屈辱的な行為だ。


「誰が、あの女そっくりだって言うのよ……!?」

「ひっ。も、申し訳ありません……!」

「あたしはみんなの傷を癒やす、聖女なの! こんなふうに、得体のしれない化物を見るような目で見られていい存在じゃない!」


 マリラさんは心優しき癒やしの聖女という仮面を被ることすら忘れてしまったようだ。

 怯える国民や神官に向かって、本性を表した。


「ねぇ! なんで、いつもみたいに羨望の眼差しを向けないの!? あたしが、癒やしの力を使えないから!?」


 彼女の変わりように驚いた誰もが、疑問に答える余裕もなく絶句する。

 信じられないものを見る目を向けられたマリラさんは、必死に言い訳を始めた。


「今日はちょっと、調子が悪いだけ! 明日になれば、きっと元通りになるはず!」


 しかし――。

 彼女がどれほど仕切り直しを提案したとしても、無駄でしかない。

 マリラさんの力はすでに、私のものになったのだから。


 ――力を発揮できぬ聖女に向けられる視線は、冷ややかだ。


「ねぇ! なんで、あたしの言う事を信じてくれないの!? いつもは、みんな喜んでくれるのに! もっと、賞賛してよ! 褒め称え、崇めなさいよ!」


 鬼のような形相で、髪を振り乱すマリラさんは、般若と称するのに相応しい。

 そんな彼女の姿を真正面から直視するのは、小さな子どもたちにとっては恐怖でしかなかったのだろう。


「ふえ……っ」

「そこにいるのは、誰!?」


 少年が涙を堪え切れずにしゃくり上げた瞬間、彼女がこちらに気づいてしまった。


「だ、駄目だよ! ベグラー!」


 少女が少年の名前を呼んで、慌てて泣き止むように静止する。

 だが――。

 こちらを視界に捉えたマリラさんの表情に恐れを成した結果、悲しみは増幅されてしまった。


「あんたのせいで……!」

「うわぁあああん!」


 癒やし聖女が私の存在を確認して、怒りの炎を燃え上がらせる。

 少年がわんわんと泣き叫ぶ中、戸惑う神官たちに彼女が声を張り上げて命令を下す。


「あなたたち! その女は、牢屋から抜け出してきた罪人よ! 逃亡を手伝った輩共々、今すぐに捕らえなさい!」


 マリラさんの力強い宣言を受けた神官は、顔を見合わせて青褪めた。

 彼らは後方支援を得意とする魔法使いだ。

 腕っぷしの強い聖騎士たちと同じような役割を求められたところで、今すぐに行動するのは無理がある。


「し、しかし……! 現在、聖騎士団の主戦力はフェドクスにかかりきりで……!」

「凄腕の剣士なんて、必要ないでしょ!? こいつは、抵抗する力なんてほとんど残ってないんだから! さっさと、やっつけて!」

「う……。わ、わかりました……!」


 狼狽える神官とマリラさんの会話によって、思いがけない情報が入り込む。


 神殿内なのか外なのかは不明瞭だが、フェドクスが聖騎士たちと交戦しているらしい。


 ――居場所を知らせたら、駆けつけてくれるかもしれない!


 私は慌てて胸元から拳銃を取り出し、銃口を天に向ける。

 そして――力いっぱい、引き金を引いた。

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