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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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ハッピーエンドを目指して

 ――これが、癒やしの聖女の力……。


 彼女の治療を受けた民が浮足立ち、マリラさんが自慢げに胸を張るのは無理もないだろう。


 これだけ強い力を持っていたら、自分がモブだなんて認められないのは当然だった。


 ――私を目の敵になんて、しなければよかったのに……。


 これで、三英雄が傷ついても治療してあげられる。

 この絶望的な状態が気にならなくなるほど、それが嬉しくて堪らなかった。


「もう、大丈夫よ。傷は、痛くないでしょう?」

「がる!」


 先ほどまで、あれほど恐ろしい目をしていたのに……。

 今ではすっかり、元気いっぱいだ。

 獣は「ありがとう」とお礼を告げるかのように身を寄せ、じゃれ合ってきた。


「がるう!」


 あの子は「傷を癒やしてくれたお礼」と言わんばかりに、私の拘束具を噛み千切ってくれた。

 どうやら、傷だけではなく魔力も回復出来たらしい。


 今のところは、好意的。

 とっても頼りになる、仲間だけど――。


 いつまで経っても牢屋に閉じ込められたままとは、いかないだろう。


「あなたは、外へ出たいのよね?」

「がう!」

「私も早く、仲間と合流したいの。時が満ちたら、一緒にここを出ましょう」

「がーう?」


 獣は「どうして今すぐではないのか」と、不思議そうに小首を傾げている。


 私は右腕が自由になったのをいいことに、この子の身体を優しく撫でつけた。


「もうすぐ、子どもたちが朝食を持ってきてくれるの。その子も、できれば助けてあげたいから……」

「がう!」


 狼は「少しなら構わない」と言わんばかりに頷くと、己の拘束具を噛みちぎる。

 その後、瞳を閉じた。

 今のうちに、休息を取るつもりなのだろう。


「ぐー。ぐー」


 門番はこちらの異変に気づかず、居眠りをしている。


 ――マリラさんや神官たちが癒やしの力を私に奪われたと司祭に騒ぎ立てたら、今度こそただでは済まないだろう。


 私が使える魔法は、非戦闘能力ばかり。

 長引けば、抗いきれない。


 早く、みんなと合流するか――。

 誰かから異能を、奪い取らなくちゃいけないのだが……。


 ここは、神殿だ。

 神官になれるのは、後方支援型の魔法使いだけ。

 聖騎士は原則、腕っぷしの力だけで序列を決める。

 聖女は聖なる力や癒やしの力を持つものや、適正があるものだけがなれるともなれば、襲いかかる敵を強大な力で黙らせられるような異能を持つ人間など、まったく思い当たらなかった。


 ――最悪の場合は、この子を盾に使うしかないか……。


 マリラさんに連れてこられた獣は当初、見ているだけでも山程痛々しい傷を全身に刻み込まれている。


 いくら私が治癒魔法を使えたとしても、この子が再び傷つく姿は見たくなかった。


 ――もうすぐ、夜が明ける。


 私と、狼。

 そして、幼い子どもたち。


 全員無事に脱出なんて、できるのかな……?


 そんなふうに、不安になっては駄目だ。

 気持ちで負けてしまったら、勝てるものも勝てなくなってしまう。


 ――頑張ろう。


 私は気合を入れると、朝になるのを静かに待ち続けた。


「お姉ちゃん!? どうしたの!? その顔……!」

「酷い傷だ……!」


 食事を持ってきてくれた2人は、腫れ上がってボコボコになった顔を目にしてショックを受けた。


 ――そうだった。

 どうせ癒やしの力が使えるようになったんだから、真っ先にマリラさんに引っ叩かれて腫れ上がった頬を直せばよかったのに――。


 痛みを感じない身体と言うのは、こう言う時に不便でならない。


 この子たちがこれだけわんわん泣き叫ぶってことは、相当酷い傷なのだろう。


 つまり――。


 フェドクスと再会した時に見られたら、大変なことになる。


「今から目にしたことは、内緒にしてくださいますか?」

「もちろん!」

「お姉ちゃん。これから、何するの……?」


 不安そうにこちらを見つめる少女に向かって「心配はいらない」と口元に手を当てたあと、己に治癒魔法を使う。


 ――完璧じゃなくったって、いいの。

 頬が赤らんでいるくらいまで回復できれば、充分だ。


「お姉ちゃんは、やっぱり凄い人なんだね!」

「腫れぼったいのが治って、本当によかった!」


 私は彼らが大喜びしている間にスープの盛られたトレイを手に取り、一気に飲み干した。

 ここからは、時間との勝負だ。


「あれ? お姉ちゃん、左手……」

「時は、満ちました。この牢獄から、脱出します」

「そうこなくっちゃ!」

「わふ!」


 意外にも、彼らは目敏かった。

 手足の拘束が解かれていると気づいた子どもたちは、鍵のかかった牢屋からどうやって抜け出すのかを説明しなくとも、乗り気な様子を見せてくれた。


「じっとしていてくださいね」


 私はさっそく、人形使役の力を使って見張りの男を操る。

 そうして、腰元につけた鍵を使い、牢屋を開けさせた。


「この人から、意識を奪える?」

「がるぅ!」


 獣は勢いよく体当たりを仕掛けたあと、男が無抵抗なのをいいことに容赦なくサウンドバッグにしてみせた。


「わーい! ぼくもやるー!」

「わたしもー!」


 2人も嬉々として、楽しそうに殴る蹴るの暴行に加わる。


 ――これほど幼い頃から、他人を傷つけることを躊躇なく実行できるなんて――。


 この子たちの将来が、心配だった。


 ――さすがは、一癖も二癖もある犯罪者を排出する養成所だ……。


 彼らにも、ある意味では悪の才能があるのかもしれない……。


 ――子どもたちを真っ当な道に戻すためにも、早く神殿から脱出しなくちゃ……!


 私はみんな攻撃を受けて見張りが意識を失ったのを確認し、異能を解除した。


「行きましょうか」

「うん!」

「でも……。お姉ちゃんって、歩けるの……?」


 子どもたちは壁伝いに右手足を使って踏ん張り、よろよろと立ち上がった私の姿を目にして、不安そうに言葉を発する。


 ――ここには車椅子や、杖がない。

 2人が全速力で走り出したら、あっという間に逸れてしまう。


 ――言われてみれば、確かにそうだ。

 しかし――。

 こちらも一応、対策は練ってある。


「心配いりません。ここを脱出するまででしたら、なんとかしてみせます」

「どうやって……?」

「やっぱり、魔法……?」

「がう!」


 困惑する子どもたちの視線が、一斉に狼へ向けられる。


『もっといい、移動手段があるよ!』


 獣はそんなふうに言いたそうな鳴き声を響かせたあと、私の根っこを引っ掴む。

 そうして、空中へ浮かせた。

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