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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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子どもたちと朝食

「お姉ちゃん!」

「起きて!」


 起きていたって、やることもない。思う存分寝溜めをしていたら、聞き覚えのある甲高い声で叩き起こされた。


 右目をゆっくりと見開いたところ、牢屋の外に粗末な食事を乗せたトレイを手に持つ、少年少女の姿があった。


「どうして……」

「ご飯、持ってきたの!」

「大丈夫? 酷いこと、されてない?」

「心配いりませんよ。今のところは、問題ありません」


 どうやら2人は、食事を持ってきてくれたらしい。

 彼らは鉄格子越しに、お皿に載せられたポタージュをスプーンで掬い、私の口元へと持ってきてくれる。

 それをゆっくりと口に含んで咀嚼をしながら、子どもたちが口にする悲痛な叫び声を聞いた。


「ここは悪いことをした罪人を、閉じ込めるところなのに……!」

「お姉ちゃんは、いい子だよ! 手足を縛るなんて、酷い!」


 この子たちは、とても優しい。

 ここで生涯暮らし続けるのが、もったいないくらいだ。


 ――2人には、いつまでも純粋でいてほしい。


 そう願いながら、心を鬼にして彼らを諭した。


「私の代わりに怒ってくれて、ありがとうございます。ですが、大人たちに、不満を漏らしてはいけません」

「なんで?」

「お姉ちゃん、ここから出たくないの……?」


 彼らが私のためを思って憤慨しているというのは、痛いくらいに伝わってくる。

 しかし、それを当たり前にしてほしくはないのだ。


「私は、待っているのです。時が満ちるのを」


 彼らに何かあれば、私がこうして囚われ続けている意味が、なくなってしまうから……。


「白馬に乗った王子様が迎えに来るのを、待ってるんだ!」

「お城で暮らしていた時のお姉ちゃん、すごく素敵なドレスを着てた! お姫様みたいに、綺麗だったもん!」


 少年少女はキラキラと瞳を輝かせて、勘違いをする。

 本来であれば、それを正すべきではあるのだが――。


 この子たちに腐敗した神殿の事実を突きつけ、絶望させる気にはなれなかった。


 2人にはずっと、純粋無垢でいてほしい。


 そう願っていると、子どもたちが不思議そうに声をかけてきた。


「お姉ちゃんの王子様って、やっぱりガザン?」

「いえ……。私には……」


 私は確かにティルタラーテ王国の第二王女として生まれてはいるが、そういう扱いを受けていたのは遥か彼方の話だ。

 おとぎ話のように素敵な王子様と幸せに暮らすハッピーエンドなど、残念ながら用意されていなかった。


「ぼくたちがお城に忍び込んで、お姉ちゃんの居場所を教えてあげる!」


 純粋無垢な子どもたちは、私とガザンが恋仲だと勝手に勘違いをして、ここへ連れて来ると言い出した。


 彼らの提案はありがたいが、幼子たちを危険な目に晒すわけにはいかない。

 私は慌てて、左右に首を振った。


「そんなことをしたら、あなたたちが危険な目に遭ってしまいます」

「でも……」

「わたしたちだって、力になりたいよ……」

「ご安心ください。充分すぎるほど、私の役に立っていますから」


 だからどうか、心配しないでほしい。

 そんな想いを込めて口元を綻ばせたところ、彼らは力強く頷いた。


「ぼくたちが絶対、ここから出してあげる!」

「そのお気持ちだけで、充分ですよ」


 2人は私がしっかりとスープを完食した姿を見計らい、食器を下げるために地上へ戻っていく。


 再び1人寂しく牢屋で過ごす羽目になった私は、深い思考の海に身を委ねる。


 ――いくら小さな子どもたちとはいえ、三英雄以外の異性に食事を食べさせてもらったと知ったら、フェドクスは怒り狂うんだろうな……。


 じこファンで、彼は誰よりもエミリエのことを大事にしていた。

 血の繋がった姉だからと言う理由で自分の痛みに寄り添おうとするヒロインに反発し、啀み合う姿は昨日のことのように思い出せる。


 でも、エミリエが生きている間の描写はほとんどなかった。

 だから、ここまで執着心が強いなんて思いもしない。


 ――私はお姉様とフェドクスのイチャイチャが見たいのであって、こちらに激重感情を向けてくるのは解釈違いもいいところなんだけどな……。


 未来を変えてしまった以上、こうなったのは仕方ないことではある。

 キャッチコピーは、「あなたの愛で傷ついた英雄の傷を癒やす、恋愛シュミュレーションゲーム」なのだから。


 彼らにとっての傷となる自分が生きている限り、お姉様の優しさによって埋まるはずの心の隙間が消失し、恋愛関係に発展しなくなる。


 ――彼らの幸せを最優先に考えるのなら、私は予定通り死ぬべきだった。


 己の自己満足のためだけに未来を変えてしまった責任は、取るべきだ。


 原作で描写された彼女は目麗しい容姿でありながら、心優しく、時には彼らに寄り添い、先陣を切って行動をする、勇敢な女性だった。


 それは、私が実際目にしたお姉様の姿と一致する。


 カビが生えてしまいそうなほど、メソメソグズグズ、物静かな自分とは正反対なのだ。

 姉妹を比べたら、どちらを愛するべきかなど考えるまでもない。


 まだ三英雄が、ルティアに惚れないと決まったわけではないけれど……。

 彼らが邂逅を終えるまでは、何もかも諦めて、ただ時が過ぎ去るのを待ち続け、耐え忍ぶことしかできなかった。


 ――子どもたちが持ってきてくれた食事は、ここに監禁されてから初めて提供されたもの。


 神殿で暮らしていた時の行動パターンから逆算すると、次に子どもたちと出会えるのは3日後になる。


 ――そろそろ私がいないと大騒ぎになって、フェドクスが神殿に辿り着く頃かな……。


 三英雄と再会する前に、奪い取った癒やしの力をどこかで試せる機会があるといいんだけど……。

 司祭がここへ閉じ込められてすぐにやってきたせいで、いろいろと計画が台無しになってしまった。

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