フェドクスとザガン・2(フェドクス)
「愛が憎しみに、変わりつつあるってことか?」
「違う。俺は、彼女を愛し続ける。見返りは、いらない」
「そんな感じには、到底見えないがな……」
ガザンに勘違いされてしまうのも、無理はないだろう。
彼女の幸せを一番に考え、身を引くなんて無理だと考えているのだから。
エミリエには俺だけを愛し、俺だけを見つめ、俺だけをそばにおいて欲しい。
触れるのも、言葉を交わすのも、彼女の笑顔すら――すべて、俺だけのものにしたい。
そう思っている以上、無償の愛と呼ぶのはあまりにも烏滸がましい。
「俺から彼女を奪おうとする輩は、全員斬り伏せる。たとえエミリエが、それを望んでいないとしても……」
俺が彼女の護衛騎士として行うべき使命を改めて口にした瞬間、このうえない空虚感に支配された。
それはこちらがどれほどエミリエに愛を注ぎ込んだところで、まったく同じ想いを抱いてはもらえない知っていたからだ。
「その割には、オレ達へ斬りかかってきたことはなくねぇか?」
「黙れ」
「本当は、あんただってわかってんじゃねぇの。あいつの大事にしてる奴らに手を出したら、嫌われちまうって」
「うるさい」
「だから、憎まれ口しか叩けねぇんだ」
「貴様にオレたちの、何がわかる……!」
彼らは知らない。
エミリエが、誰にも恋愛感情を抱くつもりがないことを。
何も知らないくせに、理解した気になって、アプローチを続ければ、いつか振り向いてもらえると信じている。
そんなこいつらが、憎い。
妬ましくて、羨ましかった。
自分はもう、どれほどみっともなく地べたに這いつくばって懇願するような真似は、できなくなっていた。
「あんたと過ごした時間は、ルドルフに比べたらほんのちょびっとしかねぇ。それでも、伝わるもんがあるんだよ」
俺たちが彼らと出会って、3年の時が過ぎた。
それを案外長いと称するか、すごく短い付き合いだと称するかは、人によるだろう。
俺はこの程度の年月で、他者のすべてを理解できるとは思っていない。
それはガザンも同じのようだが、どうやら自分と導き出す答えは違うようだ。
「フェドクスはオレたちの仲で一番、エミリエを愛してる。その気持ちの重さは、この先どんなに努力したって覆せねぇよ」
「なら、黙って身を引け。エミリエの前に、二度と姿を見せるな」
「そりゃ、無理な話だ」
俺がエミリエを想う気持ちには勝てないと面と向かって恥ずかしげもなく言えるくらいに認めているのならば、エミリエにちょっかいをかけなければいいのだ。
なのに、こいつは手を伸ばすのを諦めない。
どさくさに紛れて、俺の大切な聖女を奪い取ろうとする。
こうした小賢しいところが、嫌いなのだ。
「交渉の余地はない」
「そんなこと、言うなよ。オレたちだって、あんたらのためにできることは山程ある」
心に秘めた俺の気持ちは織り込み済みだとでも言わんばかりに、ガザンは不敵な笑みを浮かべた。
「たとえば――あんたが面倒に思ってる、害虫駆除とかな?」
当人にまったく自覚はないが、彼女の可憐な容姿に目を奪われて興味を抱く人間が、あとを絶たない。
こいつらだって、そうだ。
エミリエに嫌悪する奴らは大抵、その裏側に好意を隠している。
見つけ次第、その感情が肥大化する前に人知れず排除を試みているが、たった1人だけでできることは限られていた。
フェドクスとザガン・3(フェドクス)
「1人でエミリエを守り抜くのは、限界がある。3人で協力し合えば、あんたがあの子と一緒にいる時間が増えるぜ?」
俺からエミリエと2人きりの時間を奪い取っている癖に、よくもまぁこんなふうに押しつけがましく提案できるものだ。
猫の手も借りたい状況ではあるが、こいつらにだけは絶対に任せられない。
許可を出したら最後、これ幸いとばかりに、彼女とこれまで以上に交流を深めようとするのがわかりきっていたからだ。
「忘れんなよ。今だって、オレたちがいたから、あんたはエミリエと険悪な雰囲気になっても、あの子の安全が守られているってことをな」
こんなふうに恩着せがましく己の有能さをアピールしてくるあたりが、小賢しくて仕方がない。
「貴様らは、何を望んでいる」
「わざわざ声に出さなくても、わかるんじゃねぇの」
「答えろ」
こんなことをしたところで無意味だと知らしめるために質問をすれば、ガザンはなんてことのないように答えた。
「オレ達は、2番でも3番でもいいから、そばにいたい。ただ、それだけだ」
散々俺たちの邪魔をしておいて、今さら彼女の最愛になる気はないと言われたって、到底信じられるはずがなかった。
こいつは数多の女性を手籠めにしてきた、ろくでなしだ。
息をするように嘘をつき、手のひらの上で転がすのが得意な男の口から飛び出した言葉など、受け入れがたい。
『貴様の主張など、聞きたくもない』
そう吐き捨て、この場を立ち去るべきなのに――。
それができなかったのは、こいつが発した言葉に引っかかりを感じているからだった。
『オレは、あいつと似てる』
エミリエが外出する際にルドルフを指名したのは、それが理由だ。
彼女は自分の預かり知らぬところで、今まで以上に三英雄が不仲になるのを望んでない。
むしろ、これを機会に交流を深めて欲しいと願っている。
『どうしてフェドクスは、2人が気に食わないの?』
俺がこいつを今まで以上に毛嫌いすれば、彼女はその理由を問い質そうとするはずだ。
『エミリエには、俺だけがいればいい』
エミリエにはすでに、俺が彼女に抱く並々ならぬ感情を知られている。
だからこそ――。
本音を口にした瞬間、幼馴染が悲しむ姿は容易に想像が出来た。
『よかった。2人と、仲良くなれたんだね!』
次に俺は、こいつらに心を許した場合の状況を思い浮かべる。
エミリエは花が綻ぶような愛らしい笑顔を見せ、喜ぶはずだ。




