幼馴染に外出許可を取って
ルドルフと一緒に車椅子へ乗る訓練をしていたら、器具に細工をされたのに気づけなかった挙げ句、刺客に襲われて死にかけた。
その事実は、フェドクスを激昂させるのに充分すぎるほどの効果を発揮した。
幼馴染は私と顔を合わせて早々、固い表情で豪語する。
「こいつらじゃ、エミリエを守りきれない。やはり、俺がずっとそばにいるべきだ」
「ガザンと、話は出来た?」
「あいつのことよりも、今は君のほうが大事だ」
「また、仲良くなれなかったの?」
フェドクスは言いづらそうに視線を反らしたあと、ボソボソと聞き取りづらい声を発する。
「いや……。わだかまりは、溶けた」
「ほんと? よかった!」
本当にこちらが望んだ関係まで進展出来ているのであれば、こんなふうな態度を取る必要がない。
ここで少しでもよく思われようと行動するあたり、心の底からガザンを信頼したわけではないのだろう。
でも……。
今は、それで充分だ。
きっかけさえあれば、フェドクスはもっと2人と仲良くなれる。
あとは時間が解決してくれるはずだと、信じているから。
「偉いよ。よく、頑張ったね?」
私が左手を伸ばすと、フェドクスは頭を撫でやすいように身を屈めてくれる。
思う存分触り心地のいい髪を撫で回していたところ、己の腰元に回る力が強まった。
「子ども扱い、するな……。俺はもう、大人だ」
「えー? そうかな? フェドクスは、まだまだお子様だよ。すぐに怒るし、不貞腐れるもの」
面と向かってこちらに話しかけてくる気にはなったようが、まだまだプンプンモードは継続中のようだ。
彼は露骨に表情を歪めてされるがままになっている。
こう言うところが、身体だけは大きくなっても成長していないと感じる所以なんだけどなぁ……。
私は幼馴染とは対象的に、口元を綻ばせて、彼に諭す。
「この調子で、ルドルフとも仲良くなれるといいね」
「俺はエミリエさえいれば、ほかには何もいらない……」
「また、そんなこと言って……」
フェドクスは私と、この世界で2人きりで暮らすことを望んでいるような節がある。
誰かに依存するのが当たり前になっているから、その対象がいなくなると途端に気弱な態度へ変化しまうのだ。
――原作でヒロインの視点から語られた幼馴染の姿は、すごく痛ましかった……。
彼にはもう二度と、あんなふうには苦しんでほしくない。
そう思っての行動ではあるのだが、フェドクスはそれが気に食わないようだ。
「いつかフェドクスにも、わかる日がくるよ」
「君の行動理由など、理解できなくても構わない」
意固地になった幼馴染に何を言ったって無駄だと言うのは、長い付き合いでよく理解している。
だから、私は何も言わずに黙り込む。
抱き合っているだけで、フェドクスから伝わってくる感情もあるから……。
「こうして君たちの姿を遠くから観察していると、やっぱりエミリエにとって一番の理解者は、フェドクスだと思い知らされるよね」
「フェドクスの機嫌は、直ったか?」
「大分、持ち直しました」
私たちの様子を遠くから観察していた2人が、話しかけてきた。
普段であれば「黙れ」と彼らを威嚇するのに、フェドクスはなんだかおとなしい。
彼らは顔を見合わせ、心配そうな視線を幼馴染に向けた。
「こいつ、さっきまで目の隈がやばかったもんな……」
「眠れていなかったんだと思います。フェドクスは、私と険悪な雰囲気になると……いつも、こうなので」
フェドクスは私の言葉へ同意を示すかのように、抱きしめる力を強める。
時折こくりこくりと頭を揺らしているあたり、眠気がピークに達しているのだろう。
誰がどう見ても、フェドクスには休息が必要な状態だった。
「昨日は、ルドルフと出かけたろ? こいつは有事の際、すぐ動けるように寝溜めしなきゃなんねぇ。ともなれば……あんたの歩行訓練に付き合えるのは、オレしかいねぇな?」
ルドルフと一緒に歩行訓練を目論んだ直後、襲撃を受けたあとだ。
まさかガザンから、一緒に外出しようと提案されるなど、思ってもみなかった。
――2人で出かけるのは、不用心じゃない?
2度あることは、3度あるとよく言うこともあり、身の危険を感じる。
この場合は、しばらく大人しくしているつもりだと、素直に伝えてもいいものだろうか……?
「ガザンの手を、煩わせるわけには行きませんし……」
「何言ってんだ? オレは、あんたと2人きりでデートがしたいって言ったつもりなんだがな」
私はその発言を受けて、思わずフェドクスへ視線を巡らせる。
普段であれば、ガザンを鬼の形相で睨みつけていたはずなのに――。
なぜか今日の彼は、我関せずと言わんばかりの態度を見せ、ウトウトと微睡んでいる。
――これもある意味、2人の仲良し作戦が成功した成果なのかもしれない。
三英雄には、いつまでも友好的な関係でいてほしいと思っている。
このままヒロインが姿を見せるまで、大きなトラブルが起きなければいいな……。
私はそう願いながら、今にも意識を失ってしまいそうな幼馴染に許可取りを試みる。
「フェドクス。ガザンと、外に出てもいいかな?」
フェドクスはパチリと意識を覚醒させ、寝起き直後で機嫌が悪いのだろうか?
憎しみの籠もった視線をガザンに向ける。
「エミリエを危険な目に遭わせたら、殺す」
「心配すんな。こいつに手を出す奴は、全部オレの銃で撃ってやるから」
幼馴染は辺境伯の自信満々な言葉を受けて、渋々納得したようだ。
彼は私の腰元から手を離し、無言で送り出してくれた。
「危ないと思ったら、すぐに帰ってくるんだよ?」
「わかりました」
「んじゃ、行こうぜ!」
ガザンはこれ幸いとばかりに私を抱き上げ、さり気なく右手に杖を持たせる。
それをしっかりと握りしめたあと、ご機嫌な様子を見せる辺境伯とともに部屋を出た。




