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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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悪巧み(マリラ)

悪巧み(マリラ)

「エミリエが、あたしからガザンを奪い取ったの……! 身体で籠絡するなんて、あんまりだわ! 救済の聖女と呼ばれる、資格もない……!」


 治療の最中に民へ泣きながら訴えかけただけで、彼らはあたしの言葉を信じてくれた。


「なんて、破廉恥な……」

「目麗しい殿方に囲まれたら、おかしくもなるわよ」

「外見は天使のように美しいのに、内面がそんなに酷いなんて……。見る目が、変わるなぁ……」


 ――そうよ。

 それで、いいの。


 地位や名誉、何もかも手に入れた男たちに寵愛される彼女に勝つ方法は、数の暴力。

 これしかないわ……!


「そう言えば、癒やしの聖女様はご存知ですか?」

「王城の一室を借りて、左半身が不随になった救済の聖女と三英雄が、歩行訓練をしているとか……」


 作戦を実行している間、気になる話を聞いた。

 あたしはその噂の真意を確かめるべく、人目を盗んで王城に潜り込む。


 ――ここが、あの女のよく利用している部屋……。


 そこには不用心にも鍵がかかっておらず、誰でも室内へ入退室できる状態だった。


 あたしはキョロキョロとあたりを見渡し、あるものが放置されていることに気づく。


 ――車椅子……!


 使い物にならなくなった人間の、足となるもの。

 これに細工をすれば、あの女はもっと怪我をするかもしれない。

 民衆の前で無様な姿を晒して笑いものになれば、きっと身の程を知るはずよ。


 三英雄の寵愛を受けるのは、あいつじゃない。

 あたし、なんだって――。


 ――車椅子なんて下半身が不自由な人とかかわる機会がない限り、間近で見ることなんてない。

 どこに細工を施せば派手に崩壊するかすらも、よくわからないわ。


 ――説明書とか、あればいいのに。


 あたしはああでもない、こうでもないと、その場にしゃがんでガタガタと車椅子を揺らす。


 車輪がなくなっていたら、すぐに壊れているとわかってしまう。

 彼女が気づかないところに細工をするのならば――。


 歯車を固定するネジを、何本か取り除けばいい。


「こんな感じ……?」


 あたしは外した金具を手に、ほくそ笑む。

 見た目は、普段となんら代わりはない。

 思ったよりも簡単に、欠陥車椅子が出来上がった。


 ――ふふ。

 あの女が床の上に這いつくばる姿を見るのが、楽しみね。


 あたしは目的を達成した喜びを感じながら、の場をあとにした。


 *


 それから数日後、第二王子が車椅子に細工をした人間を探していると噂になった。


 ――本当に、運だけはいいんだから……。


 彼女はどうやら、こちらの思惑通りに無様な醜態を晒さなかったようだ。

 それを内心悔しく思いながら、次の手を考えなければと憤慨する。


 ――殿下にあたしの悪行がバレたら、好感度を上げるどころの話じゃなくなってしまうわ。


 どうにか、しなきゃ。

 逆ハーレムを築き上げるのは、このあたし! マリラ、なんだから……!


「少し、よろしいですかな?」


 必死にああでもないこうでもないと、次の策を練っている時だった。

 狸爺に声をかけられる。


「連日、王城へ顔を出しているようですね」


 彼は貼りつけた笑みを浮かべ、「余計なことはするな」と目線で訴えかけてきた。


 ――いつまでも、思い通りになると思わないでよね。


 そっちがその気なら、こっちだって黙っちゃいられない。

 あたしは嫌味に負けず、徹底抗戦の構えを取った。


「ちゃんと、癒やしの聖女としての責務は果たしているでしょ!? 文句を言われる筋合いなんて、ないわ!」

「救済の聖女が気がかりなのは、分かります。しかし――焦れば焦るほど、幸せからは遠ざかるもの……」

「あんたに、何がわかるのよ!?」


 わかっている。

 こいつを怒鳴りつけたって、なんの意味もないと。


 だけど――。


 どうしても、許せなかった。

 他人に自分の生き方を決めつけられるのは、うんざりだ。


「あたしは、耐えられないの! 三英雄にチヤホヤされて嬉しそうにするあの子を、見続けるのが!」

「ええ。存じておりますよ。ですが――時期を、見計らうべきかと……」

「そうやって言われ続けてきたから、あたしは大人しくしていたの! でも――。もう、じっとしているのは嫌!」


 三英雄に守られているとはいえ、手を伸ばせば届く距離にいるのだ。

 このまま見ないふりをするなど、絶対に嫌だった。


「あたしがあの子にちょっかいを出すのが駄目なら、あんたが連れてきなさいよ!」

「ですから……」

「何がなんでも、あの女をあたしの前に引き摺ってきなさい! いいわね!?」


 怒りを抑えきれずに、鬼の形相で金切り声を響かせる。

 尋常ではない様子をみせれば、何を言っても無駄だと判断したようだ。


 司祭は無言で頭を下げると、あたしの前から姿を消した。


 ――三英雄に愛されて喜んでいられるのも、今のうちよ……!


 そう遠くない未来に、あの女は彼らの前から姿を消す。


 ポッカリと開いた心の隙間に入り込み、彼らの傷を癒やすのは、原作のヒロインなんかじゃない。

 癒やし聖女である、このあたしなんだから……!


「ふふふ……!」


 三英雄を攻略できる日が、楽しみね。


「あははは……っ!」


 あたしは誰も聞いていないのをいいことに、狂ったように笑い続けた。

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