悪巧み(マリラ)
悪巧み(マリラ)
「エミリエが、あたしからガザンを奪い取ったの……! 身体で籠絡するなんて、あんまりだわ! 救済の聖女と呼ばれる、資格もない……!」
治療の最中に民へ泣きながら訴えかけただけで、彼らはあたしの言葉を信じてくれた。
「なんて、破廉恥な……」
「目麗しい殿方に囲まれたら、おかしくもなるわよ」
「外見は天使のように美しいのに、内面がそんなに酷いなんて……。見る目が、変わるなぁ……」
――そうよ。
それで、いいの。
地位や名誉、何もかも手に入れた男たちに寵愛される彼女に勝つ方法は、数の暴力。
これしかないわ……!
「そう言えば、癒やしの聖女様はご存知ですか?」
「王城の一室を借りて、左半身が不随になった救済の聖女と三英雄が、歩行訓練をしているとか……」
作戦を実行している間、気になる話を聞いた。
あたしはその噂の真意を確かめるべく、人目を盗んで王城に潜り込む。
――ここが、あの女のよく利用している部屋……。
そこには不用心にも鍵がかかっておらず、誰でも室内へ入退室できる状態だった。
あたしはキョロキョロとあたりを見渡し、あるものが放置されていることに気づく。
――車椅子……!
使い物にならなくなった人間の、足となるもの。
これに細工をすれば、あの女はもっと怪我をするかもしれない。
民衆の前で無様な姿を晒して笑いものになれば、きっと身の程を知るはずよ。
三英雄の寵愛を受けるのは、あいつじゃない。
あたし、なんだって――。
――車椅子なんて下半身が不自由な人とかかわる機会がない限り、間近で見ることなんてない。
どこに細工を施せば派手に崩壊するかすらも、よくわからないわ。
――説明書とか、あればいいのに。
あたしはああでもない、こうでもないと、その場にしゃがんでガタガタと車椅子を揺らす。
車輪がなくなっていたら、すぐに壊れているとわかってしまう。
彼女が気づかないところに細工をするのならば――。
歯車を固定するネジを、何本か取り除けばいい。
「こんな感じ……?」
あたしは外した金具を手に、ほくそ笑む。
見た目は、普段となんら代わりはない。
思ったよりも簡単に、欠陥車椅子が出来上がった。
――ふふ。
あの女が床の上に這いつくばる姿を見るのが、楽しみね。
あたしは目的を達成した喜びを感じながら、の場をあとにした。
*
それから数日後、第二王子が車椅子に細工をした人間を探していると噂になった。
――本当に、運だけはいいんだから……。
彼女はどうやら、こちらの思惑通りに無様な醜態を晒さなかったようだ。
それを内心悔しく思いながら、次の手を考えなければと憤慨する。
――殿下にあたしの悪行がバレたら、好感度を上げるどころの話じゃなくなってしまうわ。
どうにか、しなきゃ。
逆ハーレムを築き上げるのは、このあたし! マリラ、なんだから……!
「少し、よろしいですかな?」
必死にああでもないこうでもないと、次の策を練っている時だった。
狸爺に声をかけられる。
「連日、王城へ顔を出しているようですね」
彼は貼りつけた笑みを浮かべ、「余計なことはするな」と目線で訴えかけてきた。
――いつまでも、思い通りになると思わないでよね。
そっちがその気なら、こっちだって黙っちゃいられない。
あたしは嫌味に負けず、徹底抗戦の構えを取った。
「ちゃんと、癒やしの聖女としての責務は果たしているでしょ!? 文句を言われる筋合いなんて、ないわ!」
「救済の聖女が気がかりなのは、分かります。しかし――焦れば焦るほど、幸せからは遠ざかるもの……」
「あんたに、何がわかるのよ!?」
わかっている。
こいつを怒鳴りつけたって、なんの意味もないと。
だけど――。
どうしても、許せなかった。
他人に自分の生き方を決めつけられるのは、うんざりだ。
「あたしは、耐えられないの! 三英雄にチヤホヤされて嬉しそうにするあの子を、見続けるのが!」
「ええ。存じておりますよ。ですが――時期を、見計らうべきかと……」
「そうやって言われ続けてきたから、あたしは大人しくしていたの! でも――。もう、じっとしているのは嫌!」
三英雄に守られているとはいえ、手を伸ばせば届く距離にいるのだ。
このまま見ないふりをするなど、絶対に嫌だった。
「あたしがあの子にちょっかいを出すのが駄目なら、あんたが連れてきなさいよ!」
「ですから……」
「何がなんでも、あの女をあたしの前に引き摺ってきなさい! いいわね!?」
怒りを抑えきれずに、鬼の形相で金切り声を響かせる。
尋常ではない様子をみせれば、何を言っても無駄だと判断したようだ。
司祭は無言で頭を下げると、あたしの前から姿を消した。
――三英雄に愛されて喜んでいられるのも、今のうちよ……!
そう遠くない未来に、あの女は彼らの前から姿を消す。
ポッカリと開いた心の隙間に入り込み、彼らの傷を癒やすのは、原作のヒロインなんかじゃない。
癒やし聖女である、このあたしなんだから……!
「ふふふ……!」
三英雄を攻略できる日が、楽しみね。
「あははは……っ!」
あたしは誰も聞いていないのをいいことに、狂ったように笑い続けた。




