悪評を流して(マリラ)
魔王討伐隊が旅に出てから、3年の時が経った。
あたしはその間、癒やしの聖女と呼ばれるほどに神殿内での地位を確かなものにし、着実に名声を上げてきた。
これで、三英雄はあたしの存在を無視できないはずよ……!
エミリエの存在なんか、すぐに忘れさせてあげる。
あたしがヒロインの代わりに、彼らを癒やすの……!
「エミリエ」
――その計画は、あの女が生きて戻ってきたせいで台無しになった。
なんで?
どうして三英雄が欠損を抱えず、あの子が左目と手足を失った状態で生き残ってるのよ!?
あたしは凱旋パレードを遠くから見つめ、ワンピースの裾を両手で握りしめる。
――彼らが旅の途中で肉体に欠損を抱えるのは、じこファンをプレイした誰もが知っている公然の秘密だ。
未来視でも使えない限り、あの女もあたしと同じ――転生者と言うことになる。
もっと早くに、はっきりさせておけばよかった……!
じこファンの記憶を保持していると知っていたら、魔王討伐隊の一員として、旅なんてさせなかったのに!
これじゃ、あたしの計画が台無しじゃない!
――どうにか、しなきゃ。
今からでも挽回する方法を、考えるのよ。
そのためには――。
面と向かって、喧嘩を売るしかない!
祝賀パーティーで彼女と会話をしたが、あの子は神殿にいた時とは別人のようだった。
生気の籠もらない瞳で、あたしの暴行を黙って受け入れていた姿など見る影もない。
あの子は、「あたしに加害されたところで痛くも痒くもない」とでも言いたげな様子で、口元を綻ばせていた。
その余裕そうな笑みは、あたしの怒りそ買うのに充分すぎるほどの効力を発揮した。
生き残ったからって、なんなの!?
三英雄の恋人に相応しいのは、あの子じゃない。プレイヤーである、あたしたちよ!
今に見てなさい。
ヒロインよりも有能さをアピールして、三英雄を虜にしてやるんだから!
そんな決意を胸に、こちらが虎視眈々と攻略対象たちの心を射止めるために機会を窺っていると、あちらの方から声をかけてきた。
「癒やしの聖女様がお供も連れず、1人でふらふらと王城の中を出歩くなんざ、ちいとばかし不用心すぎねぇか?」
それは、辺境伯を治める領主――。
ガザンだった。
彼は女好きと有名で、エミリエが亡くなったあとは自暴自棄になり、言い寄ってくる女性たちを見境なく食い散らかしていた。
そんな姿を目にしたヒロインが不憫に思い、心の傷を癒やすために寄り添う――。
それが、じこファンのガザンルートで語られる内容だった。
あの女が生き残ったのは、残念だけど……。
こうして彼が、こちらへ言い寄ってくくれたんだもの。
その機会を、逃すわけにはいかないわよね?
「あたしは、どんなに傷ついても自らの力で傷を癒せる。癒やしの聖女ですもの。誰に狙われたって、生き残ってみせるわ」
「そうかい。そりゃ、逞しいな?」
彼はこちらの許可なく肩を抱き、あたしの髪に唇を寄せた。
攻略対象の1人からこんなふうに愛されるなんて、夢のようだ。
――ガザンだけじゃ、足りない。
この人を踏み台にして、ほかの攻略対象を虜にして見せるわ……!
野心を胸に抱き、彼に愛される夢のような日々は、長く続かなかった。
「ガザン――」
「エミリエ」
射撃場で偶然、銃の指導を受けるために密着し合うエミリエとガザンの姿を目にしてしまったからだ。
彼はうっとりと瞳を潤ませて、彼女と一緒にいるのが嬉しくて仕方がないと言わんばかりにご機嫌な様子を見せている。
――あんな表情、あたしには一度も見せてくれなかったのに……。
身体の奥底から、身を焦がすような怒りが沸き起こった。
――あたしに言い寄っていたのは、嘘だったのね。
彼が愛しているのは、自分ではなく――彼女だ。
エミリエをどうにかしなければ、あたしは一生惨めな思いを抱いて生きていくことになるのだろう。
そんなの、絶対に許せないわ!
『死者には勝てない』
作中でヒロインは、その言葉を見事覆してみせた。
あの子にできたのなら、あたしにだってできるに決まっている。
――あの女を、さっさと殺さなきゃ……!
そのためには、彼女を守る騎士と化した三英雄から、あの女を引き離す必要があった。
――みんながあの子を嫌いになるよう、仕向けよう。
あたしは急いで、王都中に噂を蔓延させた。




