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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第二章・神殿崩壊編】

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作戦会議


「僕は王族、エミリエは神殿に命を狙われている身だ。より一層、気を引き締めてほしい」


 私と同じように前世の記憶を保持しているマリラさんは、なりふり構っていられない状況に追い込まれている。

 殿下の言う通り、警戒は怠らないようにするべきだろう。


「単独行動は、禁止だよ。特にエミリエは、誰かと一緒に行動すること」

「そんなこと、言ってもな……。あいつがあんな状態じゃ、役に立たねぇだろ?」


 2人の視線が、少し離れたところにいるフェドクスへ集中する。

 幼馴染は胸の前で腕を組み、声を発した。


「俺は、エミリエを守る剣であり盾だ。私情には、左右されない」

「嘘つくんじゃねぇよ。ずっと、振り回されっぱなしだろうが……」


 何事もなかったかのように普段通りの言葉を発するフェドクスを信じられないと、ガザンが苛立つのは無理もなかった。

 本当に私情を挟む気がないと言うのならば、険悪な雰囲気の中でも私のそばから離れなかったはずだからだ。


 ――もしかして、私とガザンの姿を遠くから見守っていたのも、仕事の一環だったのかな……?


 今すぐに問い質したい気持ちは山々だが、これまで以上に険悪な雰囲気になっては困る。

 私は幼馴染に話しかけるのは止め、三英雄たちにお伺いを立てた。


「私もマリラを見習って、聖女らしい行いをするべきでしょうか……」

「いや、やめたほうがいいよ」

「そうだな。人前に出るべきじゃねぇ。事件に巻き込まれる可能性が高まるぜ」

「却下」


 少しでも己の評価を高めるために、行動をするべきではないかと提案してみたのだが、満場一致で断られてしまった。


 ――示し合わせたように、力いっぱい拒否しなくていいのに……。


「わかりました……」


 私は彼らに何を言っても無駄だと判断し、大人しく引き下がる。


「救済の聖女と呼ばれるに相応しい人間になんざ、なろうとしなくたっていいんじゃねぇの」

「そう、でしょうか……?」

「おう。人前に出て、魔王を討伐した聖女ですなんて高らかに宣言してみろ。治癒魔法を使える奴と比べられて、大変なことになるぜ」


 ガザンは渾身の懇願を拒絶されて落ち込む私を勇気づけるかのように、慰めてくれる。

 その様子を目にしたルドルフも、同じように優しい言葉をかけてくれた。


「エミリエは、何もしなくていいんだよ。僕たちと、ずっと一緒にいようね」


 彼らはお姉様と同じくらい、私を溺愛してくれる。


 それは本来であれば、このうえない喜びを感じるべきことだ。

 だけど、三英雄たちは血の繋がった家族ではない。


 本当に甘んじていいのだろうかと、疑問ばかりが脳裏をすぎる。


 ヒロインという名の断罪者が姿を見せるまで、これ以上原作に影響を与えないように、大人しく攻略対象たちに庇護されるのが私の役目なの?


 ――ここに来て、何が正解なのかわからなくなってしまった。


 これは、危険な傾向だ。

 どうにかして、自らの意思で進むべき道を決めなければならないのに――。


 私が生き残ってしまった時点で、じこファンの知識は役に立たない。

 三英雄たちは原作と異なる未来を歩み始めてしまっているのだから。


 ――マリラさんと言う名のイレギュラーは、今もなお原作通りの結末へ軌道修正するべく、こちらの命を狙っている。


 もしも彼女の目論見が成就した場合、彼らの傷を肩代わりしてまで生き残った意味がなくなってしまう。

 彼らがゲームと同じか――それ以上に傷つくのは、容易に想像ができる。


 私もあの子に、黙って殺される気はない。

 だけど、もしもの可能性も考慮しておくべきだ。


「フェドクスも、2人と同じ気持ち?」


 だからこそ、幼馴染と険悪な雰囲気になっている場合ではないと思った。


『あの時、どうして』


 そんなふうに、後悔だけはしてほしくないから……。


 彼を思い遣るこちらの考えとは裏腹に、フェドクスは何も応えてくれなかった。

 ここで私の質問に反応をしたら、昨日の言い争いが有耶無耶になると思っているのかもしれない。


『俺は、本気で怒っている。もう二度と、自分がティルタラーテ王国の第二王女かもしれないなんて、言うな』


 そんなふうに、こちらへ凄みたい気分をぐっと抑え込んでいるような気がして……。

 私は苦笑いを浮かべるしかない。


「変わらないね」


 彼はいつだって、恐れている。

 私が傷つくくらいならば、どんな苦しみにも耐え抜いてみせると意固地になる。


 そういうところが、フェドクスらしいと思う。


 みんなの前で明らかになった秘密を事実だと認めてしまったら、今まで通りの関係ではいられないと不安で仕方がないのだろう。

 だから、「絶対に認めない」と言わんばかりに、視線を反らしている。


 きっと、こちらがどれほど言葉を尽くして説得を試みたところで、彼の口から「エミリエはティルタラーテ王国の第二王女です」と認めさせることなどできないはずだ。


 そうなると、私が自ら彼らへ打ち明けるのが最適解ということにはなる。


 でも――。


 幼馴染がどこで知ったかわからない己の秘密を、必死に守ろうとしているのだ。


『ガザンの指摘どおりです。私はいつか、母国へ戻らなければいけない日が来ます』


 そんなふうに告げたら、きっとフェドクスはもっと私に対する執着を強める。

 最悪の場合は、心中か監禁コース一直線だ。


 ――それはちょっと、嫌だなぁ。


 やはり、言い逃れができない状況まで追い込まれた時以外で、自らの出自を暴露するべきではない。


 フェドクスが口を噤んでいるのは、ある意味では正解の行動だ。


「あなたには、いつまでもそのままでいてほしいよ」


 私はしっかりと声に出して「あなたの行動は間違ってないよ」と言った。


 だが――。

 フェドクスの機嫌は直るどころか、さらに悪くなった。


 反論したい気持ちを、胸元で組んだ両腕を抑える力を強めてぐっと堪えているあたり、先程の発言はフェドクスにとっては罵倒に近い発言だったのかもしれない。


 ――本当は、慰めてあげたかった。

 あなたが我慢する必要は、ないのだと。


 でも……。

 それじゃ、この場しのぎにしかならない。


 私達には、冷却期間が必要だ。


「殿下。車椅子の練習に、付き合って頂けませんか?」

「本当に、僕でいいの?」

「はい」


 殿下は今、陛下の怒りを買って命を狙われている。

 そんな彼と私の組み合わせは、刺客にとって格好の的だ。

 それでも、あえてルドルフを選んだのは――。


 私とガザンの考え方が、鏡写しのようにそっくりだからだ。


 辺境伯ならきっと、フェドクスともっと仲良くなれる。

 私が大切だからこそ、己にぶつけられない気持ちを受け止めてくれるはずだ。


 そんな願望にも似た思いを抱き、2人が話をできる時間をあえて作った。


「たとえ命の危機に脅かされようとも、文句は言いません」

「君の覚悟、しかと受け止めたよ」

「自分の足で、歩く? それとも、抱き上げたほうがいいかい?」


 殿下は、魔法使いだ。

 両手が塞がっていると、魔力の発動にも支障が出る可能性が高い。

 私は杖を手に取って左腕をチェーンで繋いだあと、カツンと床を細い棒で叩いた。


「訓練場までは、1人で歩行します」

「わかった。それじゃあ、行ってくるね」

「おう」


 ガザンはなんてことのないように、左右へ手を振って私達を送り出してくれる。

 だが、フェドクスは相変わらず無言を貫いていた。


 ルドルフに向ける視線は、射殺しそうなほどに険しい。


 殿下が温厚な性格だから、許されている。


 けれど……。


 気に食わないことがあるとすぐに怒り狂うなんて噂がまことしやかに囁かれる苛烈な性格の王太子であれば、今頃大きなトラブルに発展していただろう。


 フェドクスはルドルフに、感謝するべきなのに……。

 いつになったら、仲良しになるの……?


「フェドクスには、困ったものだね」

「ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」

「うんん。大丈夫。僕たちも、わかっているつもりだから。2人が過ごした時間や思い出は、ぽっと出の僕らが簡単に奪い取れるようなものではないって」


 こちらがフェドクスの無礼を代わりに謝罪したところ、殿下はなんてことのないように笑みを浮かべ、意外な言葉を口にした。

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