ガザンとデート(1)
ガザンが私を連れてきたのは、王城の地下にある射撃訓練場だった。
そこには私たちが姿を見せてすぐは、王立騎士団の人々が射撃訓練を行っていたのだが……。
私たちが室内へ入ると、彼らはそそくさと後片づけをして外へ出て行ってしまった。
「この間、練習なしで銃を撃つのは怖いって言ってたろ?」
「はい」
「手とり足取り、教えてやるよ」
彼らを追い出してまで練習する必要は、果たしてあるのだろうか?
私1人であれば、きっと尻込みしてしまってここを占領する気にもならなかった。
でも、今日はガザンが一緒にいる。
彼との約束を守るためにも、ここは辺境伯の希望通りにするべきだ。
「よろしく、お願いします……!」
私は気分転換も兼ねて、彼の誘いを受け入れた。
「まずは、構え方からだが……」
ガザンにプレゼントしてもらった護身用の拳銃を懐から取り出し、引き金に手をかける。
「こんな感じ、でしょうか?」
「おう。初めてにしては、様になってるじゃねぇの」
構え方を褒められたのは、前世で何度かプレイしたシューティングゲームのおかげだ。
「もうちょっと、足を開いたほうがいいな」
「はい」
「あと、肩に力は入れんな。それと、姿勢。大事だぞ」
ガザンは模擬訓練用のターゲットを睨みつけ、私の身体に触れて指示を出す。
それが本当に必要なスキンシップなのかどうかは、判断がわかれるところだった。
「一発くらいは、撃ってみたらどうだ?」
「は、はい……!」
私はガザンと触れ合ったまま、勢いよく引き金を引いた。
――パァン!
勢いよく発射された閃光弾が、眩く光り輝く。
一発目からターゲットのど真ん中に当てるのはさすがに無理だったが、引き金さえしっかりと引けば、弾が勢いよく飛び出る。
その仕組みさえ実践できれば充分だ。
「ま、及第点ってところだな」
「あ、ありがとう……ございます……」
「んじゃ、今度は真ん中に当てる練習をするか……」
ガザンはどうしても動かない左手足を庇うせいで姿勢が悪くなってしまう私を支えるため、腰に腕を回した。
それはありがたいことではあるのだが、互いの息がかかるほどに密着する必要は、果たしてあるのだろうか?
私は頭の中で、ある疑念をいだく。
――どさくさに紛れて、不必要な身体接触をしているのでは……?
今は更生したとしても、かつては女性好きで有名だったのだ。
長年染みついた癖のようなものは、なかなか取れない。
――指摘、するべきなのだろうか?
でも、自意識過剰って笑われるかもしれないし……。
こういう時にフェドクスがいてくれたら、悩まなくて済むんだけど……。
「ぷ……っ。ははは……!」
幼馴染に頼るのが、当たり前になっている。
そんな自分に嫌気が差した瞬間、ガザンが声を上げて笑った。
何事かとそちらへ視線を向けたところ、涙を浮かべて呼吸困難に陥る辺境伯の姿を目撃する。
「無言百面相、面白すぎだろ」
――そんなに笑わなくても、いいのに……。
ムスッと唇をへの字に曲げたところ、なぜか口説かれた。
「拗ねんなって。不愉快だと言うべきか、このまま甘んじて受け入れるか迷ってる顔も、かわいかったぜ」
さすがは天性の女たらしだ。
自然に女性を虜にする言葉が、ポンポンと飛び出てくる。
私がこうしたアプローチに弱い人間だったら、今頃骨抜きになっていただろう。
残念ながら、イケメンには耐性があるので、彼が望むような反応は見せられなかったのだが……。
「あんたは、どっちだと思った?」
改めてガザンから問われ、悩む。
わざとか、無意識か。
長い熟考の末、私は前者を選んだ。
「わざと、やっているような気がします……」
「正解」
こちらの自信がなさげな解答を聞いた彼は、ケラケラと笑いながら告げる。
「理由もなしに、あんたの身体には触れらんねぇからな」
「別に、構いませんよ? 減るようなものでは、ありませんし……」
「馬鹿言うんじゃねぇよ。あそこにいるだろ? 今にも射殺さんばかりにこっちを睨みつけてくる、怨霊と化した輩が……」
さり気なく後方へ視線を移したガザンに倣い、私もそちらへ目線を動かす。
すると、物陰に隠れてこちらの様子を窺う、フェドクスとばっちり目が合った。
――なんで、こんなところに!?
私は悲鳴を上げたい気持ちをぐっと堪え、唇を噛みしめる。
彼が忌々しげに私たちの姿を見守っているのは、ガザンのせいではない。
どちらかと言えば、さっさと仲直りしなかった私の責任だ。
「も、申し訳ありません……」
「気まずくなっても、あんたを見守るのは止めねぇなんてな。どうかしてるぜ」
私は穴があったら入りたいほど恥ずかしい気持ちに苛まれながら、反省した。
こうなった原因は、幼馴染ではなく自分にある。
その自覚が、あったからだ。
「彼の好意を、甘んじて受け入れるべきではなかったのかもしれません……」
「そんなこと、言ってやんなよ。あいつ、泣くぜ?」
私は左右に首を振り、ガザンの言葉を否定した。
彼がどんなに泣き叫ぼうとも、何かを犠牲にしない限り、決められた定めには抗えない。
「ずっと一緒になんて、いられません。いつか、別れる時が来ます。フェドクスは、きっと深い悲しみに包まれるでしょう」
「それを癒やすのは、あんたの役目だろ?」
「いいえ。違います」
彼らの傷を肩代わりして、死亡フラグを回避できたのだ。
私は、それ以上を望む気などなかった。
「みなさんの隣に並び立つに相応しい女性は、ほかにいらっしゃいますから」
「それ、マジで言ってんのかよ」
「はい」
ヒロインが三英雄たちに囲まれて笑い合う姿を、脳裏に思い浮かべて力強く頷く。
するとガザンは、心底呆れたと言わんばかりに肩を竦め、吐き捨てた。
「馬鹿じゃねぇの?」
彼から面と向かってこうした言葉をぶつけられるのは、久しぶりだ。
以前はなんとも思っていなかったけれど、交流を深めたあとだからか。
いつも以上にショックを受ける自分に戸惑う。
「オレたちがあんたのそばにいるのは、気の迷いだとでも思ってんのかよ」
「違うのですか……?」
「くそ……。こういうのを教えんのは、どっちかっつーと、ルドルフの役割だろ……」
ガザンはボソボソと聞き取りづらい声で言葉を発したあと、私の手から拳銃を奪い取る。
その後、それを指先で弄びながら、はっきりとした口調で告げた。
「あのな。生半可な覚悟で、あんたのそばにいたいと思ってねぇよ」
「それは、一体……?」
「オレとルドルフも、フェドクスと同じくらい――あんたに入れ込んでいるってことだ」
三英雄たちが私に大なり小なり、並々ならぬ想いを抱いているのは、わざわざはっきりと声に出されなくても認識している。
ただ、それを認めてしまうと不都合が生じるため、わざと見ないふりをしていただけなのだ。




