私の秘密を暴かれかけて(2)
彼が表情を見られないように、隠していたせいだ。
「それは、確かな情報かい?」
「ああ。間違いねぇ。あいつの口から、フルネームが出てきたからな」
ルドルフとガザンは、こちらの騒動などまったく気にした様子もなく会話を続けたあと、難しい顔でフェドクスへ視線を移す。
長い沈黙の末、幼馴染に不敵な笑みを浮かべて問い質したのは、辺境伯だった。
「どうやら、あんたはエミリエと王女様の関係を知ってるみてぇだなぁ?」
――そんなはずはない。
私とヒロインが姉妹だと言う話は、姉の口から三英雄達に打ち明けるまで、誰も知らないはずなのに――。
彼はガザンに含みのある視線を向けられても、頑なに口を閉ざしている。
明らかに様子のおかしいフェドクスから情報を引き出すべく、辺境伯は容赦なく話を続けた。
「そう言えば……。風の噂で、聞いたことがあるんだよな。ティルタラーテ王国の王女様には、病弱な妹がいる。だが、その子は一度も社交界へ顔を出したことはない。それは、なんでだと思う?」
「床に臥せっていて、とてもじゃないが外に出られないからって聞いたけど……。違うのかい?」
「いや。そうじゃねぇ。うちとティルタラーテの戦争を止めるために、神殿の連中が人質として彼女を誘拐しただけでは飽き足らず、魔王復活の生贄にしたとかなんとか……そういう話が、まことしやかに囁かれてんだよ」
この流れは、かなりまずい。
ガザンは想像で物事を語っているが、お得意の人海戦術を使って、ほとんど下調べは済ませていたのだろう。
彼の話と私の歩んできた過去は、寸分の狂いなく一致していたからだ。
「ティルタラーテ王国の第二王女様は、エミリエと同い年。生きてりゃ20歳だ。それにあんたは、神殿からめちゃくちゃ嫌われてる。女狐から王女様と一緒に名前が出てきたあたり、おかしくねぇか?」
私の秘密が三英雄に露呈したらどうなるか。
そんなこと、考えもしなかった。
ヒロインと彼らが邂逅すれば、当然私を妹だと宣言するはずだ。
――母国に私の、居場所はない。
神殿にも帰れない以上、違法な賭け事で増やした大金を手に彼らと別れ、一人静かに余生を過ごす。
そうするのが最善ではあるが、ガザンがこうして疑いの眼差しをこちらに向けている以上、どうやら私が想定していた通りに姉との再会は叶いそうにない。
ここで適当に誤魔化したところで、後々嘘が露呈するだけだ。
私はリジェンタス王国で生まれ育った救済の聖女としてではなく、ティルタラーテ王国の第二王女として、彼らと向き合う必要がある。
「――ガザンは、何を仰りたいのですか」
「実はあんた、ティルタラーテ王国の第二王女なんじゃねぇの?」
確信を持ったガザンの問いかけに、ルドルフの表情が強張った。
――当然だ。
辺境伯の指摘が事実ならば、私は敵国の第二王女なのだから。
本来であればこんなふうに、仲間として四六時中行動をともにできるような立場でもなければ、彼らと気兼ねなく会話できるような身分でもなかった。
――これまで犯してきた無礼の数々を思い浮かべて、顔を真っ青にしなくていいのにな……。
私は肉親からすらも、いないものとして扱われてきたのだ。
今となっては平民として過ごしてきた時間のほうが長いし、彼らに敬ってほしいなど思っていなかった。
「なんつーか、ただの聖女にしてはフェドクスの執着が異常すぎんだよな。そういう事実が隠されてんなら、オレたち
と2人きりになるのをそいつが拒む理由は、よくわかる」
ただ、私に対するフェドクスの想いを疑う声だけは、見過ごせない。
幼馴染がどこで己の出自を知ったかは定かではないが、それは2人きりの時に問い正せばいいことだ。
「ルドルフはここの第二王子。オレは辺境伯だ。戦争にも当然、絡んでくる。あんたが母国に戻れば、敵同士だもんな」
――ある日突然、自身の秘密を白日の元に晒されたのだ。
動揺するのは、当然だ。
しかし――。
己の心に無理やり土足で踏み込まれたような不快感を抱いているのは、果たして本当に当たり前の反応なのだろうか?
「まぁ、これはあくまで下衆の勘繰りだ。今のところ証拠もねぇし、決めつけるつもりはねぇ。ただ――」
私にはよく、わからない。
いつかは必ず明らかになることだったのに、どうしてこれほどショックを受けているのか――。
「半年後、停戦条約解除前の前夜祭が行われる。そこで、王女様とエミリエが顔を会わせたら――こいつの出自は、最悪な状況で明らかになるぜ」
私の秘密を知ったガザンが、自分の口から真実を打ち明けろと脅してくるから?
それとも、私たちが必死に作り上げてきた箱庭の中へ、無理やり入り込んできたから……?
「今のうちに打ち明けて、楽になったほうがいいと思わねぇか?」
ここで嘘をついたところで無意味だ。
素直に打ち明けるべきだとわかってはいるが、無言を貫き続けるフェドクスが心配だった。
この場で私が率先してガザンの指摘を認めたら、幼馴染が壊れてしまう。
そんな気がして――。
「あまりにも、飛躍しすぎています」
「そうかい? オレだって、冗談のつもりはねぇけど」
あえて、遠回しに「そんな事実はない」と主張した。




