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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第一章・魔王討伐編】

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三英雄と一緒に

「聖女様。僕と一緒に、踊ってくださいますか?」


 ダンスなんて、幼い頃に何度か習った程度だ。

 少なく見積もっても、10年以上のブランクがある。


 それに――。

 私はリジェンタス王国と敵対する国の、第二王女なのだ。

 ティルタラーテで暮らしていた頃は使用人の前にすらも姿を現せなかったほど、存在を秘匿されて育てられてきた。

 顔を知っているものはこの国にはいないはずだが、万が一のこともある。


 ファーストダンスを殿下となんて、冗談じゃなかった。


「それは、難しいと思います。私は、左手足が不自由ですし……」

「問題ないよ。僕が、全力でサポートするから」

「ですが……っ」

「さぁ、行こう」


 ルドルフはこちらが難色を示す姿など気にする様子もなく、バルコニーからダンスホールの中央ヘと誘った。


 ふらりと姿を消したはずの第二王子が、突如左半分が不自由な聖女をパートナーとして連れてきたのだ。

 嫌でも、この場に残っていた人々の視線がこちらへ集中する。


「見て。みんながエミリエに、見惚れているよ」


 ルドルフは踊り慣れているからか、こちらをリードをしながら周りの反応を気配る余裕があるらしい。

 だが、こちらはステップを正しく踏むのに必死だ。


 ――足を踏んだら、笑われる。

 それだけは、絶対に避けなくちゃ……!


「救済の聖女様は、身体が不自由なはずなのに……」

「なんて、軽やかなステップ……」

「辺境伯は、ダンスがお好きだから……」

「ああ。辺境伯は、第二王子のご友人ですもの。きっと、ダンスのコツを習われたのね……」


 漏れ聞こえてくる声を聞く限り、貴族たちはダンスが得意なガザンに習ったと、勝手に勘違いしてくれたようだ。


 彼が女好きとして有名でなければ、「どこで学んだのか」と痛い腹を探られていた。

 そうならずに済んで、ほっと済んだのは間違いない。


 しかし――。


「ガザンとフェドクスは、この状況が気に食わないみたいだけど……」


 ルドルフの思いつきで、仲間たちになんの相談もせずにダンスを始めたからか。新たな問題が浮上していた。


「絶対、後で殺す」

「こらこら。仲間割れ、すんなって。エミリエが悲しむぜ? ま、文句言われても仕方ねぇことをしてんのは、同意するけどな」


 フェドクスが憎悪の籠もった視線をこちらに向け、それを宥めつつも幼馴染の肩を持つガザンの声が聞こえてきた。


 このままダンスを続けていたら、乱闘騒ぎが起きかけない。

 ちょうど曲が止まったのをいいことに、ドレスの裾を掴んで頭を下げた。


「もっと、踊りたかったな……」


 残念そうに口を窄める殿下の言葉は聞こえぬふりをして、物思いに耽る。


 ――私にはずっと、愛される資格がないと思っていた。


 でも――。


 どうやらそれは、ただの勘違いだったみたいだ。


 私を優しい瞳で見守ってくれるルドルフ。

 飄々としているように見えるけれど、自分と同一視して慈しんでくれるガザン。

 そして、ずっとそばで苦楽をともにしてきた結果、恐ろしいほどの執着心を目覚めさせたフェドクス――。


 この状況を、当たり前の日常として享受し続けるつもりはなかった。


 たとえ、どれほど苦痛を抱くことになったとしても――彼らと一緒にいるべきではない。


 離れたくないと思うほどに彼らを好きになってしまったら、きっと耐えられないだろうから……。


「僕たちから、1人で逃げようなんて思わないで」


 心の中で考えていたことを見透かしているかのように、瞳を潤ませた殿下に懇願された。


「そんなことされたら――。今よりも、君を好きになってしまう。フェドクスのように、四六時中エミリエに引っついて離れない鬱陶しい男が、2人も増えるんだ。それは、嫌だよね?」


 ただでさえ、フェドクスから異常なまでに向けられる愛に戸惑っているのに――。

 2人も増えるなんて、想像するだけでもゾッとする。


 今は、1人だからいいけど……。

 さすがに2人は、手に負えないかな……。


『エミリエ』


 己に強い執着心を抱くのは、幼馴染だけでいい。

 私は何度も無言で頷くと、こちらの様子を窺っていた2人と合流した。


「君の帰る場所は、神殿なんかじゃない。僕たち、三英雄のいる場所だ」


 殿下が改めて、「私がいるべき場所はどこなのか」を声に出して伝えてくれる。


「わざわざ、声に出すまでもない」


 フェドクスはルドルフに嫉妬心を剥き出しにしながら、どこか不貞腐れたように同意し――。


「にこやかに、はっきりと口にできるあたりが大人の余裕を感じるよなぁ。オレと、同い年のくせに」


 ガザンは普段通りの軽口を叩き、口元だけを綻ばせた。

 まさしく三者三様の攻略対象たちの反応を楽しんでいると、3本の手を差し伸べられた。


「おいで」

「来いよ」

「こっちだ」


 私が自由に動く手は、右腕の1本しかない。

 この状況で誰か1人を選ぶなんて、あんまりだ。


 だから――。


「よろしく、お願いします……!」


 私は少しだけ手を前に出し、彼らが一斉に己の指先に触れる姿を目にして微笑んだ。


 ――いつかヒロインが三英雄の前に現れる、その日まで。

 こうして私は、彼らと一緒にいる道を選んだ。

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2025年8月22日 電子書籍「虐げられた真の聖女ですが、なぜか敵国の皇帝に愛でられています」 発売中
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