みんなを守りたい
「命乞いなど、くだらないと吐き捨てろ。優しくするから、つけあがる」
「奇遇だね。僕も、そう思うよ」
「あんたらは、ほんとにブレねぇな……」
私の身体は、1つしかない。
今のところガザンは2人の反応に呆れているようだが、彼まで参戦してきたら大変だ。
――ワンオペで3つ子を同時に育てるのって、こんな感じなのかな……。
私はまるで自分の言うことを聞かずに大暴れする小さな子どもたちを育てる母親のような気分になりながら、ルドルフのおかげで彼らを斬り捨てる必要がなくなったフェドクスを、強く抱きしめるのを止めた。
「ルドルフを狙う暗殺者の奇襲じゃなかっただけマシだが、エミリエなら傷つけていいと思われるのは心外だよな。パレード、続けるか?」
「役目は、充分に果たした」
「あんな事故が起きるのを防げないくらい、警備がおざなりなんだ。このまま続けるなんて選択肢はないよ」
ルドルフに冷たい瞳で見下された王立騎士団たちが、ビクリと肩を揺らして震え上がる。
そんな彼らの姿を目にして、気分がよくなったのだろうか。
「夜会が始まるまで、ゆっくり過ごそう。4人だけで、ね」
こちらへ視線を移した際にこりと口元だけに微笑みを浮かべた殿下は、目が笑っていなかった。
――私、何かしたかな……?
自分のせいで睨みつけられているのかと身構えたのは、一瞬だけだ。
ルドルフが神殿に強い怒りを感じていのは、明らかだった。
私とフェドクスが、そう遠くない未来にあそこへ戻ると知っているから……。
きっと、心配してくれたのだろう。
「わかった」
「こんなことになるってわかってたら、もっと厳重に警戒しておいたのによ……。いろんな意味で、台無しだぜ」
幼馴染はルドルフの言葉に従い、私を抱き上げたまま移動する。
ガザンも異論はないようで、護身用の銃を懐に仕舞ってついてきた。
こうして私たちの凱旋パレードは、ゴール直前で急遽中止になったのだった。
*
「神殿の連中って、クズの集まりなんだな」
私たちはパレードを終え、王城の客間へ戻ってきた。
三英雄と一緒に中央に置かれた四角いテーブルを囲めば、胸元のネクタイを緩めたガザンが先ほどの事件について話し始める。
「めでたい行事の最中にトラブルが起きたからって、エミリエを貶すか? 普通。ありえねぇだろ」
――さすがは情報収集のために、片っ端から女性に手をつけてきた男性だ。
その些細な仕草からは、異性を虜にする妖艶なオーラが惜しげもなく醸し出されている。
その姿をじっと見つめていると、殿下の微笑みが深まった。
「身の程を、弁えるべきだよね。エミリエは救済の聖女であり――僕達三英雄の、最愛なんだから」
どうやら、「ガザンだけずるい」と言いたいようだ。
こちらの興味を引くためにひらひらと手を振られたため、曖昧に微笑んでおく。
「こりゃ、祝賀会も呑気に飲み食いしてる場合じゃねぇな」
「ああ。間違いなく、接触してくるはずだ」
フェドクスは口でこそ冷静に声を発しているが、私に対する独占欲を完全には隠しきれていないようだ。
己を抱きしめる力を強めながら、彼が何を考えているのかは、容易に想像がつく。
「司祭と、癒やしの聖女か……」
「そういや、俺たちが旅に出る前から有名だったよな」
魔王討伐を終えた私たちが、次に倒すべき敵の姿を思い浮かべていたのだ。
幼馴染は彼らの名前すら聞きたくないと言わんばかりに、吐き捨てた。
「ただの、性悪女だ」
「あんたがこんなにも嫌悪してるってことは……当然、オレたちの、敵なんだよな?」
ガザンの問いかけに、フェドクスはコクリと頷く。
――成長したな……。
以前の幼馴染ならば、マリラさんの話をしようとも思わなかっただろう。
このまま彼らが口喧嘩をすることなく、仲良く暮らせるように願うしかなかった。
「エミリエが無能聖女と呼ばれる要因を作った。あの女だけは、絶対に許さない」
「オレたちが魔王討伐に勤しんでいる間、信仰心を高めまくってたみたいだかんな。街を歩けば、聖女様、聖女様……。ああ、気持ち悪ぃ」
フェドクスが彼女に倒する憎悪を滲ませる姿を横目に、ガザンも嫌悪感を露わにする。
珍しく、三英雄の意見が一致しているようだ。
そんな2人の姿を確認した殿下は、「何を今更」とでも言わんばかりに苦言を呈した。
「王都が腐敗しているのは、今にも始まったことではないだろう?」
「そうだけどよ……。まさか、ここまで悪化するとは思わなかったぜ」
「父上と兄上は、私腹を肥やすことしか考えていない馬鹿だからね。仕方ないさ」
いくら身内の会合中と雖も、ここは王城内だ。
どこで情報が漏れるかわからないのに、殿下ははっきりとした口調で目上の広々を侮辱した。
じこファンをプレイした記憶がなければ、今頃「殺されるんじゃないか」と戦々恐々としていただろう。
――こうして冷静でいられるのは、前世の記憶のおかげだ。
原作知識がなかったら、私は今以上に自己肯定感の低い状態では生きていたに違いない。
「祝いの場であんなトラブルを起こすような人間がうようよいる場所へ、エミリエは帰せないよ」
「同感。とっとと、黙らせようぜ」
三英雄たちは、「自分たちの大切なものを害するものはすべて始末する」という、正義の味方とは思えぬ過激な思想に染まっている。
そんな彼らを止められるのは、私しかいなかった。




