【1-5】凱旋パレードと祝賀会と
私たちは全員一緒に馬車へ乗り込み、王都を巡る凱旋パレードを行った。
「第二王子!」
「魔王討伐、おめでとうございます!」
前方では作り笑顔を浮かべた殿下が、国民の声援に応えて手を振り――。
「きゃぁああ! 辺境伯様~!」
「ガザン! とっても素敵ですわぁ~!」
女遊びの激しいことで有名だったガザンは、後方で女性たちの視線をほしいままにする。
そして、フェドクスに抱きしめられて中央で棒立ちする私たちと言えば――。
「聖騎士と、聖女様だ!」
「なんて、神々しいの……?」
「癒やしの聖女様が太陽なら、救済の聖女様は月のような方だわ……」
なぜか国民に、羨望の眼差しを向けられていた。
――どうやら魔王討伐の旅を続けている間に、随分と信仰力が上がったらしい。
それが私を率先して虐げ、なにかと食ってかかってきた相手――。
マリラさんのおかげだと思うと、なんとも言えない気持ちでいっぱいになる。
だが、今行われているのは私たちの無事を祝う凱旋パレードだ。
苦笑いなど浮かべられるはずもなく、ひとまず殿下に倣って作り笑顔を浮かべていた。
――疲れるなぁ……。
この場に集まってくれた人々が不公平だと騒ぎ出さないように、みんなで協力して四方八方へと微笑みを称えて左右に手を振り続ける。
普段通りの無表情を貫いているのは、フェドクスくらいなものだ。
一瞬すらも気の抜けない状態でもボロを出さずに涼しい顔で笑顔を振りまく殿下って、実はすごい人なのかもしれない……。
思わずルドルフに尊敬の眼差しを向けた直後、後方から殺気のような恐ろしい気配を感じた。
慌てそちらへ視線を移すと、ナイフがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「エミリエ!」
辺境伯は懐から護身用のショットガンを取り出し、目にも止まらぬ早業で引き金を引く。
――パァン!
勢いよく銃口から放たれた弾丸がナイフを弾き飛ばすのと、私を支えていたフェドクスが己の身につけていたマントを翻し、全身をすっぽりと覆い隠されるのはほぼ同時だった。
「きゃああ!」
先ほどまで女性たちの声援に応えていたガザンが戦闘態勢に入ったのは、国民達に異常事態を知らせるのに充分すぎるほどの効果を発揮する。
あれほど賑わっていた広場は、静寂に包まれた。
私は目を凝らし、ナイフが飛んできた方向を凝視する。
そこにはピエロの格好をした人物がいた。
彼はこちらに向かって、大声で懺悔する。
「も、申し訳ございません……! ど、どうか、お許しください……!」
どうやらジャグリング中に、武器を誤って飛ばしてしまったようだ。
一歩間違えば、殿下に当たっていたかもしれない。
ガザンやフェドクスが守ってくれなければ、私は今頃死んでいただろう。
簡単に、許せるようなことではなかった。
「偶然か。なら、仕方ねぇな……」
「いや、違う」
ピエロの懇願を受け入れたガザンが安堵し、懐へ銃を仕舞おうとする。
それを止めたのは、フェドクスだった。
辺境伯は「なぜ確信を持って言えるのか」と言わんばかりに難色を示していたが、その理由はすぐ明らかになる。
「ちっ。もう少しで、邪魔な女を始末できそうだったのに……」
「しっ。声を落とせ! 本人に、聞こえるぞ!?」
「聞かせてやればいいだろ!? この国を守護し、聖女として崇められるのはマリラ様だけでいい!」
そこにいたのは、フェドクスと同じ青い制服に身を包んだ聖騎士の集団だった。
こちらを憎たらしげに睨みつける人たちの顔には、まったく見覚えがない。
私たちが魔王を討伐隊の度に出かけた3年間の間に、神殿へ身を寄せた人の可能性が高かった。
だが……。
ああした敵意を向けられるのは神殿では日常茶飯事だ。
どれほど酷い言葉をぶつけられたとしても、心を痛めることはない。
「何が救済の聖女だ。無能のくせに……!」
「ああ。今は、身体も不自由になってただのお荷物になったんだったか? はははは!」
上空から歯ぎしりをする音が聞こえ、私は慌ててフェドクスの表情を確認する。
幼馴染は、静かに激昂していた。
――これは、止めなきゃまずいことになる。
三英雄の凄さを世に知らしめる凱旋パレードが、血濡れた悪夢の時間と後世に語り継がれるようになるのは時間の問題だ……!
「フェドクス。落ち着いて」
「殺す……!」
「あの程度でいちいち腹を立てていたら、生きていけないよ」
「あいつはエミリエを、馬鹿にした。聖騎士を名乗るべきではない。始末するべきだ」
「こんなところで襲いかかったら、フェドクスだけ英雄の称号を取り消されちゃう」
「構わない。それでエミリエの、名誉が守られるのなら……」
こちらがどれほど必死に静止したところで止まらない。
フェドクスはすでに、覚悟を決めていた。
どんなに傷ついても「痛い」と言えない私の代わりに、彼らへ罰を与えると頑なになっている。
こうなってしまったら、こちらがどれほど説得をしたって無意味だ。
好きにさせてやるしか、ないだろう。
――うーん。でもなぁ……。
いくら先に喧嘩を売ってきたのがあちらだったとしても、神殿の人間同士で内輪揉めの結果聖騎士をボコボコにした事実が回れば、最終的に罰を受けるのはフェドクスだ。
――吐いて捨てるほどいる下っ端よりも、それを取り仕切る頭を片づけたほうがいい。
神殿の最高権力者、司祭とマリラさんを引きずり降ろさない限り――。
私は一生、馬鹿にされて生き続けることになるだろうから……。
「倒すべき敵を、見誤らないで。低レベルな雑魚まで手を出していたら、きりが……」
「ぎゃあああ!」
フェドクスは、私が一生懸命説得を試みている間に剣を振るうような男じゃない。
ならばなぜ、聖騎士はなんの前触れもなく天から降り注いだ雷に撃たれて絶叫したのだろうか?
――無詠唱で魔法を発動できるのは、1人しかいない。
「あ、ごめん。手が、滑っちゃった」
「だ、第二王子!?」
まさか、殿下が私のために彼らを攻撃するなんて思ってもみなかった。
ルドルフは王子様らしいキラキラスマイルを浮かべ、地べたにみっともなく倒れ伏して転がる男へ語りかける。
「大道芸を披露した人は、不注意。だったとしても……。騒動に応じてエミリエを馬鹿にした君たちは、罰を受けて当然の人間だよね?」
「こ、こいつには……! もう二度と、聖女様の悪口は言わないと約束させます! ですから、どうか命だけはお救いください……!」
「うーん、どうしようかな?」
――原作でルドルフは表向き物腰柔らかなキラキラ王子様系だったが、実は腹黒なんて設定があったっけ……。
私に対する執着心が限界突破しているフェドクスだけを止めれば、騒動が収まるとばかり思っていたけれど――。
これからは、ルドルフのことも気にする必要があるみたいだ。
今にも爆発してしまいそうな爆弾の処理に手間取っている間、安全だと思っていた地雷が派手に作動したような気分だった。




