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嫌われ転生聖女は、攻略対象の想い人 死亡フラグを回避するために欠損を肩代わりしただけなのに、どうして曇った三英雄が執着してくるのですか?  作者: 桜城恋詠
【第一章・魔王討伐編】

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日常を守るために

「エミリエ!」

「お帰り、フェドクス」


 彼は挨拶すらもする余裕がないようで、半泣きになりながら怒声を響かせる。


「ベッドから起き上がりたい時は、俺を呼べと言っただろう……!」

「殿下に、確かめたいことがあったの」

「俺には、聞かれたくない話か」

「うんん。そうじゃ、ないんだけど……」


 幼馴染へ正直に伝えてもいいのだろうかと迷っていると、ガザンがベランダから姿を見せた。

 三英雄が、全員揃った瞬間だ。

 辺境伯は普段通りの明るい表情とともに、声をかけてきた。


「こっち、来いよ。星、綺麗だぜ!」


 隣の部屋へ移動するために進むべき廊下は前方、ベランダは後方にある。

 殿下の肩を借りてもう一度あちらの方向に行くのは面倒だと思っていたら、フェドクスの手が伸びてきた。

 抱き上げて移動すれば、誰にも文句を言われることなく堂々と、私に触れ合えると考えたのだろう。


「いいよ。寒いし……」

「何、遠慮してんだよ。オレたちがこうやって一緒にいられる時間は、もうすぐ終わりなんだぜ?」

「見て、エミリエ。流星群だよ。お願いごとはしなきゃ、損じゃないかな?」

「行こう」


 3人がかりで説得されては、どうしようもない。

 私はなすすべもなく幼馴染に抱き上げられ、三英雄とともにベランダへと移動した。


 ――殿下の言う通り、夜空からキラキラと光り輝く星々が地上へとものすごい勢いで流れ落ちていく。


 このような幻想的な光景を目撃できるとは思わず、魅入ってしまった。


「このままみんなで、ずっと一緒にいられたらいいのに……」


 ポツリと呟いた言葉を拒絶するかのように、私を抱きしめるフェドクスの力が強まる。

 その感覚によって、頭の中で考えていた出来事を声に出してしまったようだ。

 私は慌てて彼を慰めるために、胸元を握りしめたのだが――。


「駆け落ち、するか?」


 ガザンから思いがけない提案を受け、慌てる。

 幼馴染の機嫌が急降下しているのは、明らかだ。

 ここで「いいですね」なんて同意を示そうものなら、ヤンデレ監禁コースへ進んでしまう。


 ――どうにかして、話題を逸らさなきゃ。


 私は引き攣った笑みを浮かべ、辺境伯に告げた。


「む、無理ですよ。お2人は私たちとは違って、帰る場所があるのですから……」

「絶対に、帰らなきゃいけねぇってわけじゃねぇぞ?」

「そうだね。この国は、兄上が継ぐだろうし……」

「辺境伯は、このまま弟に任せておけばいいもんな?」


 殿下が第二王子というのは周知の事実ではあるが、彼に弟がいるなんて話は聞いたことがなかった。

 じこファンのガザンルートでも、こうした記述はないはずなのに……。


 一体、どういうことなのだろうか?


「弟さんが、いらっしゃるのですか?」

「おう」

「僕たちに比べたら、仲はいいほうだよね」

「まぁ、殺伐とはしてねぇな」

「兄弟……」


 私はポツリと呟き、ある光景を思い出す。


『エミリエ!』


 他者から虐げられた、つらく悲しい過去の中にも、彼女と過ごした日々だけは、今もなお昨日のことのように思い出せる。


 ハルル村で暮らすようになった時に初めて出会った育ての良心は、私が幼少期の記憶を失っていると考えていたようだが――。


 私は彼らしか知らない己の出自を、自覚している。


 原作のヒロインは、ティルタラーテ王国の第一王女ルティア。

 そして私は、彼女の妹。

 第二王女であり――2人は、血縁関係のある姉妹だった。


 原作ではこの段階で、エミリエは命を落としている。

 三英雄は嘆き悲しみ、魔王討伐を果たしたとは思えぬほどに暗い顔で国王から賞賛を受けていた。


 そんな彼らがヒロインと初めて顔を合わせるのは、凱旋パレードを終えたあと。

 祝賀会の、最中だ。


 そこで彼女の見せる反応次第で、私の歩むべき未来は大きく変わるだろう。


 ――作中でヒロインは、「妹をずっと探していた」と語った。


 じこファンをプレイしただけでは、どのタイミングで生き別れの妹がいると知ったかまでは、わからなかったが――。


 彼女の妹として転生し、幼少期をともに過ごしてきた自分は、原作では語られなかった内容を知っている。


 ――溺愛していた妹が、ある日突然姿を消したのだ。


 彼女の悲しみは原作で語られていたが、言葉では言い表しきれないほどに深い傷となっている様子が見受けられる。

 そんな姉が、妹の生きている姿を目にしたら、どんな行動を取るか――。


 それは容易に、想像がつく。


 三英雄の動向、神殿、ヒロイン。

 身体が不自由な状態で気にするべきターゲットが山程いるなど、キャパオーバーもいいところだ。

 流星群が見られてよかったという喜びなど吹き飛ぶくらい、気分が落ち込んだ。


「なんだよ、その顔は。兄弟と、死別でもしたのか?」

「いえ……。そういうわけでは、ないのですが……」


 実は敵国の王家に生き別れの姉がいますなんて打ち明けたら、大騒ぎになるのは間違いない。

 下手をしたら、平民として暮らしているフェドクスとも一緒にいられなくなってしまう。


 ――無事に王都へ戻れば、三英雄は英雄伯を国王から賜る。


 じこファンの流れ通りなら、フェドクスも家名を名乗れるようになるのだ。


 少なくともそれまでは、秘密を暴露するべきではない。


 そう考えて言葉を濁したところ、思いがけない提案を受けて固まった。


「オレがあんたの兄ちゃんになってやっても、いいぜ?」

「率先して立候補するなんて、珍しい

 ね。兄のように慕ってもらったら、真っ先に恋愛対象からは外れてしまうのに」

「微妙な距離感で二進も三進もいかねぇ今よりは、ずっといいだろ?」


 普段であれば私に独占欲を滲ませるフェドクスが、なんの反応も示さないなんて珍しい。


 一体、どうしたんだろう?

 不思議に思いながら、彼を見上げる。


 フェドクスはぐっと唇を噛み締め、何かを堪えているようだ。

 恐らく、その表情を見られたくないから、じっと黙っていたのだろう。


「フェドクス。大丈夫……?」


 こちらが声をかければ、ビクリと一瞬怯えた表情を見せたあと、抱きしめる力を強めた。


 ――ぎゅうぎゅうと抱きしめられる息苦しささえ我慢すれば、幼馴染のつらくて悲しい気持ちがどこかへ飛んでいくのなら、安いものだ。


 持ち前の自己犠牲精神を遺憾なく発揮したところ、その様子を目にした2人の声が聞こえてきた。


「やっぱ、幼馴染には勝てねぇな」

「ライバルが手強いほど、燃え上がるよね」


 彼らは真逆の反応を示すと、口元を綻ばせる。

 どうやら魔王討伐の旅が終わったとしても、私から離れる気はないようだ。


 ――これからもずっと、みんなと一緒にいたい。


 その願いが叶うかどうかは、今後の流れ次第だ。


 彼らと幸せに暮らせる最善策を選び取るためには、神殿との戦いは避けられない。


 ――痛いから、苦しいから嫌なんて、言っている場合じゃないよね。


 私も、もっともっと頑張らなければいけない。

 この、絶対に手放したくないと思う日常を、守るために――。

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