ここに至るまでの経緯(過去2)
だが――。
こんな状態で楽しく、行動をともになどできるはずがない。
ルドルフとガザン。
私とフェドクス。
2対2に別れて、不干渉を貫く。
そうすることで、しばらく衝突を防げてはいたのだが……。
いつまでも不仲と言うわけにいかない。
――どうにかして、フェドクスが2人に心を許せるようになるといいんだけど……。
男性3人が強制的に行動をともにするイベントと言えば、男湯に浸かってもらうのが一番かもしれない。
「みんなで一緒に、日々の疲れを癒やしてきたら?」
「絶対に嫌だ」
旅の途中で温泉を見かけ、幼馴染に促す。
しかし、断固拒否されてしまった。
どうやら、彼らと心を通わせるまではまだまだ時間がかかりそうだ。
――困ったなぁ。
私は頭を悩ませながら、じこファンで語られた内容を思い出す。
三英雄たちは全員、表向きエミリエを嫌っていた。
だから、彼女が魔王討伐の際に命を落とした直後は、誰も悲しんでなどいなかったようだ。
彼らが「聖女を失ってしまった」と後悔し始めたのは、世間がエミリエの存在を忘れたあとからだったはず――。
「ねぇ、フェドクス。私って、みんなから嫌われているよね?」
宿屋の一室で2人きりなのをいいことに、純粋な疑問を幼馴染にぶつける。
しかし――。
フェドクスは嫌そうな顔をするだけで、質問の答えを返してくれなかった。
私を嫌っている人たちは、最初に精神的な支配を目論む。
陰口を囁いて弱らせたあと、「お前は無価値な人間だ」と刷り込むのだ。
そこで心が折れればいいが、涼しい顔をしていると悲惨な目に遭う。
肉体的な苦痛が、始まるのだ。
――ルドルフとガザンは、いずれじこファンの主人公と恋仲になる男性たちだもの。
攻略対象が暴力も厭わないいじめっ子だという設定があったら、恋愛をするどころの話ではなくなってしまう。
――嫌味を言われたのは、最初だけ。
あとは基本、無視の状態が続いている。
これから、心ない言葉が飛び交うのだろうか……?
「心配するな。エミリエは、俺が守る」
私はこれまで、ずっと幼馴染の言葉に救われてきた。
だけど――。
今回ばかりは、甘えてばかりもいられない。
「うんん。いつもみたいに、守らなくていいよ」
「馬鹿なことを、言うな」
「表向きは、みんなと同じように嫌ってほしいの」
フェドクスは、どうして私がこんな提案をするのか理解できないと言ったように表情を歪めるが、すぐに合点がいったようだ。
これまで何度も、幼馴染が止め2人がストレス発散に私をいじめる様になってからだった。
――みんなには、親友と呼び合えるくらいに心を通じ合わせてほしい。
そのためには、共通の敵が必要だ。
「駄目だ」
「今回ばかりは、譲れないの」
「納得できない」
「2人きりの時は、今まで通りで構わないから……」
フェドクスはどさくさに紛れて、こちらの主張を拒むようにベッドへ押し倒してきた。
――彼はじこファンで、ヒロインに対して異常な執着愛を見せていた。
ここで嫌がる素振りをしたら、魔王討伐の旅を続けられなくってしまう。
相手が見知らぬ男性であれば大暴れして拒絶したところだが、相手は幼い頃からずっと一緒にいる幼馴染だ。
不安なことがあるといつもこうしてベタベタと引っついてくるのは了承済みなので、甘んじて受け入れる。
「不安にさせて、ごめんね……」
私は幼馴染の背中を優しく擦り、彼の交友関係を深めるために、自らが犠牲となる道を選んだのだった。
*
「いつまで、オレたちの旅に同行するつもりだよ。この、金食い虫が……!」
「君が僕たちの旅に同行する理由なんて、1ミリもないよね? お荷物はさっさと、退場してくれる?」
こちらに憎しみの籠もった視線を向けるガザンと、笑顔で毒を吐くルドルフ。
拳を握りしめ、2人に殴りかかりたい気持ちをぐっと堪えて険しい表情で佇むフェドクス。
彼らは私に対する憎しみを抱いて、一致団結。
旅を初めてから2年が経過してようやく、背中を預け合える仲間として認め合う。
こうして、各地に出没する雑魚敵を次々に討伐していたのだが……。
ここで、1人目の中ボスが現れた。
ルドルフが左目を失うイベントが、始まったのだ。
「ったく、キリがねぇ……! なんでこんなに、苦戦を強いられてんだよ……!」
「敵が、お荷物を狙っているせいだね」
「あんな奴なんか、放っておけばいいだろ!? なんで、庇うんだよ!」
「目の前で死なれたら、俺たちのせいになる」
ガザンは銃を乱射しながら悪態をつき、ルドルフは魔法陣を描きながら呆れたように肩を竦める。
表向きは私を嫌っている素振りを見せているフェドクスの発言は、この緊急事態でなければ「口に出すべきじゃなかったよ」と苦言を呈しているところだ。
だけど……。
付き合いの長い私だけが、知っている。
幼馴染なりに、よく考えて行動をしてくれたんだって。
私はそれをありがたいと感じるべきで、非難する資格はない。
彼が迫りくる敵の攻撃を叩き斬ってくれなければ、今頃物言わぬ躯になっていたのだから。
――こんなところで、死ぬわけにはいかない。
せっかく、この世界に転生できたのだ。
何があっても絶対に、生き残りたい……!
表向きは自己主張すらまともにできなくて、パーティーのみんなに何1つ貢献できない無能聖女。
それが私、エミリエという人間だ。
そんな汚名を払拭するためにも、みんなが悲しい結末を迎えずに済む方法は――これしかない!
こうして私は魔獣の攻撃によって左目を失ったルドルフの傷を、「窃盗」の力で肩代わりし――こうして、片目の視力を失った。




