7歳から17歳まで(過去1)
――私がリジェンタス王国のハルル村へ身を寄せることになったのは、7歳の時だ。
「今日から私たちが、あなたのお父さんとお母さんよ」
口元だけに笑みを浮かべる大人たちの目が笑っていない理由は、幼い自分にもすぐに理解できた。
彼らは魔に魅入られた、悪魔なのだ。
神の名の下に、好き勝手暴れ回る獣。
私を立派な聖女に育て上げるため、殴る蹴るの暴行だけではなく、さまざまな実験を行った。
「私たちが、手塩にかけて育てたのよ! 無能なんて、呼ばせないわ!」
「なんとしてでも、異能を目覚めさせるのだ……!」
魔獣の生き血を、体内に注ぎ込まれる。
――異能は開花しなかった。
魔力が駄目なら、信力ならばどうだろうかと、今度は神獣の体液を摂取させられた。
――体調不良に陥り、一日中吐き気に見舞われた。
それが覚醒の合図だと大喜びしていた育ての両親たちは、すぐに落胆する。
ああでもない、こうでもないと永遠に続く人体実験。
文句も言わずにそれを耐え忍び続けていられたのは、隣に済む1つ年上のフェドクスが、私の痛みに寄り添ってくれたからだった。
「俺は何があっても、エミリエのそばにいる」
不慮の事故でハルル村が焼け野原になったあとも、私たちはずっと一緒だった。
フェドクスは、聖騎士見習い。
私は、聖女見習い。
育ての両親が命を落としても、私の境遇は変わらなかった。
いや……。
むしろ、悪くなったかもしれない。
「シーツを洗うのに、一体いつまでかかっているのよ!?」
昼間は癒やしの聖女として名を馳せたマリラさんからくだらない雑用を押しつけられ、罵倒の嵐。
そして、夜は――。
「異能を発現させるまで、一体何年かかっておるのだ!?」
司祭から痛めつけられ、時には地下牢に幽閉された。
――このまま、死んでしまうのかな……。
命の危機を感じる度に、いつだって助けてくれた。
幼馴染は私の、ヒーローだった。
「逃げよう」
こんな境遇で暮らし続けるべきではないと、フェドクスは何度も私に言った。
――本当は、彼の提案に頷きたい。つらくて苦しい日々から逃れたかった。
だけど……。
ここから逃げ出したら、じこファンで語られた通りに物語が進まなくなってしまう。
せめて、メインの攻略対象たちが一堂に介する、魔王討伐隊が結成されるまでは待つべきだ。
「大丈夫だよ」
――私は笑顔で、嘘をつく。
そうやって必死に耐えていたら、いつしか痛みに鈍くなってしまった。
でも、悪いことばかりじゃない。
そのおかげで、私は自分だけの異能を手に入れた。
神殿の聖女にはふさわしくない力。
それは――。
他人から異能を奪い取る。
いわば、「窃盗」だ。
それが私の生まれ持っていた能力なのか、後天的に植えつけられたものなのかは判断がつかない。
じこファンに登場するエミリエは、異能を使用している際の描写がなされないまま、死んでしまったからだ。
本当は信頼のおける大人に相談したかったが、この力を持っていることが知られたら今よりもっと酷い目に遭うかもしれない。
私はあえて、無能聖女と罵倒され続ける道を選んだ。
「エミリエ……っ」
ありとあらゆる人々から蔑まれ、厄介者扱いされる幼馴染を見ていることしかできなかったせいか。
初めて出会った時から私に対する庇護欲が強かったフェドクスは、やがてその感情を歪んだ執着へと変化させた結果、彼は私を守るために立派な聖騎士となった。
「いつまでもその地位に甘んじていないで、我々を率いてくれないだろうか」
「断る」
現役の聖騎士団長をたった一振りで負かしたほどの実力を持つ幼馴染は何度も同僚たちから懇願を受けたが、考える暇もなく即答し続けた。
「俺の剣は、エミリエを守るためにある。神殿に力を貸すつもりはない」
その結果、聖騎士団にすら睨まれる羽目となったのだが――。
力のない私はこれまで通り、歯を食いしばって耐えるしかない。
こうして私たちは、10年間神殿で身を寄せ合い続けた。
*
地獄のような日々が終わりを告げたのは、私が17歳の時だった。
魔王討伐隊の一員として、フェドクスが選ばれたのだ。
「フェドクス様! 旅のお供を務めさせていただく、マリラと――」
「エミリエが一緒じゃなければ、行かない」
当初、治癒役として任命されたのは癒やしの聖女と呼ばれたマリラさんだった。
しかし、フェドクスは皇帝の前で駄々を捏ねた。
第二王子のルドルフ、彼の友人でもある若き辺境伯のガザンが、魔王討伐隊のメンバーとしてすでに選抜されているのだ。
神殿側はどんな手段を講じても、人員を送り込みたいに違いない。
それに――。
ここでフェドクスが旅立ちを断固拒否したら、原作通りに物事が始まらなくなってしまう。
じこファンの原作は、魔王討伐を終えたあとから始まる。
私の幼馴染は、攻略対象の1人なのだから――。
「不良品を、旅に同行させるだと!? 正気か!?」
当然、司祭には驚かれたし、マリラさんには「お前さえいなければ」と憎しみの籠もった目で睨みつけられた。
しかし、それくらいはどうってことない。
私は原作通りに攻略対象を引き合わせるため、幼馴染の望みを叶えてやった。
「君、神殿では無能聖女って呼ばれていたんだって?」
「なんでそんなお荷物を、ヒーラーとして抜擢するかねぇ。これって、遠回しに死ねって言われてねぇか?」
「……」
ルドルフは初対面から私を小馬鹿にしたような態度を取り、ガザンは自分たちが捨て駒扱いされているのではないかと憤慨。
人前では口数の少ないフェドクスは、無言を貫いた。
「みなさん。これから、よろしくお願いします」
明らかに歓迎されていない雰囲気を感じ取りながら、私は作り笑顔を浮かべて挨拶をする。
こうして、4人の魔王討伐旅が始まりを告げた。




