真面目な話
「なんだか、すごい移動の仕方だね。羨ましいなぁ……」
「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません。1人で歩くのは、不安がありまして……」
「僕も今度、手伝わせてくれるかい?」
「もちろんです!」
ルドルフはこちらの姿を目にするなり、なぜか羨ましがった。
ここで彼だけを仲間外れにするのはどうかと思って元気よく返事したあと、椅子に座ろうとした時だった。
後方から、バタバタと慌ただしい足音が響く。
「エミリエ……!」
「お帰り。早かったね?」
「どうして、俺の隣じゃないんだ」
「さっきまで、独り占めしていたんだろう? 今だけ、許してくれないか」
フェドクスはいつの間にか私達が脱衣所からいなくなっているのに気づいて、かなり焦ったようだ。
露骨にほっとした様子を見せたあと、開いている席がルドルフとガザンの間しかないのに気づいて不満を露わにする。
――殿下の命令だったら、従ってくれるよね?
私は我関せずを貫くつもりだったんだけど……。
なんの前触れもなく、ひょいっと己の身体が宙に浮く。
その後、彼は当然のように大きな図体を滑り込ませ、私を膝の上へ座らせた。
ぎゅうっと逃げられないように抱きしめてくるあたり、幼馴染の執念には恐ろしい物がある。
――嫌がったら、きっと血の雨が振る……。
私は渋々、彼のスキンシップを受け入れた。
「全員揃ったし、真面目な話をしようか」
ガザンとともに呆れたようにこちらの様子を観察していた殿下は、このまま声を発さなければ一生このイチャイチャを見せつけられると悟ったのだろう。
真剣な表情で声を発した瞬間、全員に緊張が走る。
――これからのことを、話し合うのかな?
私も心の中で「聞き漏らさないようにしなければ」と気合を入れ直し、彼の言葉を待った。
「フェドクスを倒すために、ヴィクトリーは己の身を捧げて魔王復活を目論んだが、失敗した」
「そりゃ、見てりゃわかんだろ」
「問題は、ここからだよ。成れの果てはエミリエを狙っていたように見えたんだ」
ガザンは「わざわざ前提の話なんてする必要はない」と、難色を示す。
そんな彼も、ルドルフから私の話が出た瞬間、興味深そうに口元を綻ばせた。
「なぜ、彼女が狙われるのか。フェドクスは、知っているんじゃないかい?」
全員の視線が、一斉にこちらへ集まってくる。
私は己を抱きしめる幼馴染の顔色を伺うため、上空を見上げた。
――フェドクスはまるで能面のように、表情が抜け落ちていた。
どうやらこの話は、話題にもされたくないような内容だったらしい。
「僕たちはこれから、魔王を討伐する。エミリエを狙っている理由がわからなければ、対策を練れないんだ。どうか、教えてくれないか」
――この場で怒り出して、仲間たち
に襲いかからなきゃいいけど……。
私は「嫉妬を拗らせて暴走するんじゃないか」と内心ハラハラしていたのだが、どうやらその必要はなかったようだ。
幼馴染はこちらの腹部に回した両腕の力を強め、重苦しい口をゆっくりと開いた。
「俺は、ハルル村の出身だ」
「それって、ハルル村の悲劇が起きた場所だよね?」
「ああ。エミリエは、魔王復活のために神殿からあの村へ連れて来られた、生贄だった」
――フェドクスがみんなに打ち明ける内容を聞き、彼の表情が普段と異なっていた理由をようやく悟る。
私たちの過去は、一般的には知られたくないものなのだ。
ハルル村と神殿での暮らしは自分にとって、どこか他人事のように思える時間だった。
だから、こうやって幼馴染の口から当時起きた出来事を語られるのは、なんだか不思議で仕方なかった。
「生贄と村人全員の命を天秤にかけた結果、後者を捧げて魔王が復活した」
「つまり……。あの化物がエミリエを狙う理由は、元々魔王に捧げられる生贄だったからってことか?」
「ああ」
護衛騎士の肯定を受け、どうやら私が異形の化け物に狙われる理由に納得できたようだ。
ルドルフは口元に手を当て、警鐘を鳴らす。
「なるほどね……。エミリエは、1人では逃げられない状態だ。今後、彼女を戦場に連れて行くのは、どうかと思う」
「1人にするほうが、危険だ。エミリエは、俺が守る」
殿下も幼馴染も、私の身を案じて意見をぶつけ合っている。
このまま2人に任せておいたら、最終的には喧嘩へ発展しそうだ。
――私もちゃんと、意思表示をしなくちゃ。
そう考え、声を発した。
「私も、一緒に行きたいです」
「いいのかよ?」
「お役に立てることが、きっとあると思うので……」
ガザンも先程まで黙ってはいたが、親友と同じ気持ちだったようだ。
こちらの気持ちを聞いたあと、露骨に嫌そうな顔をしていたが……。
最終的には、ルドルフと顔を見合わせて頷き合う。
「わかった。僕たちの勝利条件は、エミリエを守り魔王を討伐すること」
「皆さんが五体満足で帰るというのも、重要視するべきです」
「そうだね……」
ルドルフはどこか遠くを見つめたあと、どこか冷え冷えとした印象を与えるオッドアイの瞳をこちらへ向け、静かに声を発した。
「今まで以上に、厳しい戦いになると思う。フェドクスは単独で戦うのが、癖になっているよね? あまり時間はないけど、連携を強化したほうがいいんじゃないかな」
「必要ない」
「うんん。重要だよ」
幼馴染は2人からの提案を「これ以上信頼し合う必要はない」と突っぱねてしまった。
私は慌てて頭を下げ、仲間たちのありがたい提案を後押しした。
「殿下、ガザン。フェドクスを、よろしくお願いします……」
「おう。任せとけ」
「一緒に頑張ろうね」
フェドクスは最後まで彼らと視線を合わせなかったが、私に命じられたら拒否権がないと理解しているからだろう。
渋々、頷いてくれる。
――よかった……。
この特訓を通じて原作みたいに信頼し合える、三英雄の関係を構築してくれたら、いいんだけど……。
私はうまくいきますようにと願いながら、彼らの様子を見守ると決めた。




