バレちゃった(2)
「君は知らないようだから、一応伝えておくけど……。生まれ持った力を使役するのと、魔具を使って異能を無理やり自分の手足のように使うのとでは、わけが違う。無理な発現は、寿命を縮めるよ」
このままでは望みの言葉を引き出せないと悟り、彼は厳しい言葉を投げかけてくる。
こうして脅せば、私が異能を使わなくなると考えたのだろう。
だが、こちらからしてみれば「甘い」の一言に尽きる。
「構いません」
「エミリエ……?」
「私は治癒魔法すら満足に使えない、役立たずです」
「そんなこと……!」
「みなさんの役に立てるのであれば、それがたとえどんなことであろうとも――本望です」
死ぬ覚悟は、まだできてはいないけれど――。
攻略対象のためなら、命以外は差し出せる。
寿命が縮むくらいであれは、屁でもなかった。
だが、こちらの主張は彼にとっては到底受け入れがたいものであったらしい。
銀と銅のオッドアイを切なげに揺らがせ、苦しげな表情をしているのが印象的だった。
「僕は君に、これ以上自分を犠牲にしてほしくないんだ」
「たとえ殿下のお願いであろうとも、その命令は聞けません」
私に入れ込んでいるフェドクスと同じことを言うなんて、重症にも程がある。
いくらメインヒーローだからという理由があったとしても、ちょろすぎるのではないだろうか?
「魔王討伐に必要な皆様の武力を守る。それを最優先にするべきです。私のことは、使い捨ての駒程度にお考えください」
「まさか……。君はこの旅の終わりの果てに、死を覚悟しているとでも言うのかい……?」
彼は未来視を使えるが、すべての予知ができるわけではない。どんなに長くても、1時間先の未来が見える程度が精々だ。
作中では数分後が一般的で、確認できる時間は数秒だとヒロインに説明していた。
だからこそ、こちらの返答を予測できなかったのだろう。
「そんなの、絶対に許さない……!」
彼は憤慨を隠しきれぬ様子で、瞳の奥底に怒りの炎を轟々と揺らめかせ、肩を掴む。
普段の作り笑顔からは想像もつかないほどに激昂する姿は、先日左目の傷を肩代わりした際に見せた表情と寸分の狂いもない。
「僕の左目を庇うだけでは飽き足らず、心にも一生消えない傷を刻み込むと言うのか!?」
これが、彼の本性なのだろうか?
ハッピーエンドのルートはプレイしたが、バッドエンドまでは回収しきれずに人生を終えてしまったため、よくわからない。
「嫌だ。君を失うなんて、考えるだけでもどうにかなりそうだ……!」
じこファンは、心に傷を負った攻略対象たちを癒やす、恋愛シミュレーションゲームだ。
こうして彼らが錯乱状態に陥った時、ヒロインは優しい言葉をかけて抱きしめていた。
「いかないでくれ……。お願いだ……! ずっと、僕のそばにいて! いなくなるなんて……。絶対……認めない……!」
でも、残念ながら私は作中の主人公ではない。
物語の中では死ぬ予定の、モブ。
ヒロインの妹だ。
彼らを優しく包み込む資格なんて、あるはずがなくて――。
「ああ……。そうだ……。君を守るために、僕がもっと強くなればいいんだ……。そうすれば、もう二度とこんなふうに自分を卑下しようとは思わなくなる……」
苦悶の表情を浮かべる彼をただ、黙って見つめているしかない。
すると――。
狂気的な表情を浮かべたルドルフは、1人で答えに辿り着いたようだ。
瞳を潤ませ、豪語する。
「僕はフェドクスのように、四六時中一緒にはいられない。だけど……。この血筋と、魔法の才能には自信があるんだ」
両肩から手を離した彼は、こちらが直立不動のままなのをいいことに、さまざまな場所へ唇を寄せる。
「君は今まで通り、僕たちに守られていればいいんだからね」
額、頬、首筋――。
まるで愛おしくて溜まらないと言わんばかりに触れられるのは、正直不快としか言いようがない。
相手が攻略対象でなければ、「セクハラ野郎」と罵ってやりたいところだ。
しかし――。
目が死んでいる金髪男性が王子様スマイルを披露してくる姿を見たら、何も言えなくなってしまう。
「これからも、ずっと一緒にいようね」
殿下は屈託のない笑みを浮かべると、私の髪を優しく撫でつけた。
自分を嫌っていたはずの攻略対象から、まさかこんなふうに熱っぽい視線を向けられるなど思いもしなかった。
――喜んで、いいのかな……?
こうやって殿下に好意を向けられるのは、本来であればヒロインだけのはずなのに――。
先回りして横取りしているみたいで、良心が痛む。
――やっぱり、これはよくない。
私はいずれ訪れるであろう未来のため、どんなに喜ばしい出来事が起きたとしても、顔色1つ変えずに一定の距離を保って彼らと接しようと決めた。
たとえそのせいで、攻略対象たちから嫌われることになったとしても――。




