バレちゃった
――野宿もすっかり、慣れたものだ。
パチパチと音を立てて燃え上がる焚き火の前に座り込み、幼馴染と肩を寄せ合ってうとうとと微睡む。
こんなところをガザンに見られたら、「何、いちゃついてんだよ。平民はこれだから……」とまるで汚物を見るような目を向けられてしまうだろう。
しかし、彼はテントを張ったらよほどのことがない限りは外へ出てこない。
そう言われる心配は、恐らくなかった。
――どれほど険悪な雰囲気になったとしても――。
ガザンが心の底から気を許せる相手は、殿下だけ。
きっと私たちのように、積もる話があるのだろう。
だから、こうして自分たちもリラックスした状態でぴとりと互いの体温を確かめ合える。
――幼馴染と2人きりでいる時だけは、命の危機に怯えなくて済むから楽だ。
彼が不在の日々を考えるだけでも、憂鬱になるくらい――。
フェドクスは、私の人生には欠かせない人だった。
この生活は、長くは続かない。
魔王を倒したら、私だけの護衛騎士ではなくなってしまう。
だから、それまでは――。
思う存分堪能しても、いいよね?
枕にするにはちょっと硬い肩に頭を乗せ、寝苦しくて身動ぎをする。
フェドクスはそんな私を安心させるように、手櫛で髪を梳いた。
束の間の休息を堪能していると、どこからともなく足音が聞こえてきた。
私もパチリと瞳を開き、幼馴染とほぼ同時にそちらへ視線を移す。
すると、そこにいたのは――。
「相変わらず、仲良しだね。羨ましいなぁ……」
「殿下」
「僕も、仲間にいれてくれないか?」
「断る」
普段であれば、テントから引き籠もって出てこないはずのルドルフが颯爽と姿を見せたかと思えば、口元だけを綻ばせてフェドクスと睨み合いを初めてしまった。
――この2人が喧嘩なんて、珍しい。
一体どういう風の吹き回しだろう?
「そう言うと思ったよ。君は本当に、過保護だね」
「何が目的だ」
「エミリエと、話がしたいんだ。2人きりで」
こちらが不思議に思っている間も、殿下の暴走は続く。
――あ。
地雷を踏んだ。
ルドルフの口から笑顔で発された内容を聞いて、戦々恐々とするのは無理もない。
私に対するフェドクスの執着心は、異常の一言に尽きる。
24時間365日、目の届くところに置いておきたいタイプの男が、奪い取りたいと宣言されたらどうなるか――。
「許すと思うか」
「君はただの護衛騎士。主君の命令には逆らえない。そうだろう?」
相手がどれほど敬うべき人間相手であったとしても、牙を剥く。
しかし、殿下も「私が断るわけない」と、余裕の表情を崩さなかった。
身分差がなければ、「なんて傲慢な人なのだろうか」と憤慨していたところだ。
しかし――。
今回ばかりは、フェドクスではなくルドルフのほうが正しいのだから、仕方なかった。
「フェドクス。いいの」
幼馴染は殿下に渡すものかと、最後まで私の腰に己の腕をきつく巻きつけてた。
だが――。
こちらが意固地になる必要はないと合図を送れば、諦めたようだ。
幼馴染は渋々手を離し、私を送り出す。
「懸命な判断だね」
その光景を満足そうに眺めた殿下は、こちらへ手を差し出した。
「僕のテントに、案内するよ。お手をどうぞ? 聖女様」
ルドルフはこれまで嫌悪していたのが嘘のように、平民の私を聖女と崇め、エスコートまでしてくれた。
――明日は、雪でも振るのかな……?
ここで手を跳ね避けようものなら、不敬罪だと大騒ぎされかねない。
私は渋々、彼と一緒にテントの中へと入室した。
「今まで、本当にごめん。いくら平民だとしても、君は嫁入り前の女性だ。あんなところで野宿なんて、させるべきじゃなかった」
「いえ……。フェドクスも一緒にいてくださるので、問題ありません」
「羨ましいな。護衛騎士と言うだけで、彼は君とずっと一緒にいられる……」
彼は何度目かわからぬ謝罪を口にしたあと、フェドクスに対する嫉妬心を滲ませる。
その姿は、じこファンで語られていた殿下らしくなかった。
「フェドクスは、それが仕事ですから。忠実に、職務を全うしているだけですよ」
「エミリエは、優しいね。さり気なく、彼が悪く思われないように庇っている」
「はい……?」
「君から信頼してもらえるように、僕も頑張らないといけないね」
――な、何……?
唇が触れ合いそうなほどに顔を近づけられ、戸惑いを隠せない。
ここまで密着する必要が、一体どこにあると言うのだろう?
その疑念は、すぐに解消される。
「うん。やっぱり、混ざっている」
「一体……」
「このおぞましい力には、見覚えがあるよ」
「何が……」
「この間僕達が訪れた村で、女性を食い物にしていた男が捕まったそうだ。そいつは幻惑魔法を使えたんだけど、屈強な男に奪われたと言っていた」
殿下はひと目見ただけで私が例の男から幻惑の力を奪い取ったと、確信しているようだ。
口元だけを綻ばせて、断言する。
「君が、奪い取ったんだよね?」
殿下は魔王を討伐したあと、リジェンタス王国始まって以来の最強魔法使いと名を馳せる人だ。
だからこそ、幻惑の力を奪い取った私の身体に、これまでと異なる不順な魔力の流れがあると見抜いた。
――下手に言い訳をしたら、面倒な事になりそう……。
私はひとまず、完全黙秘を貫く。




