今後の相談(2)
――本当に、この作戦を決行してもいいの?
どうにかして、止めたほうがいいんじゃ……。
「それは、心配ねぇだろ。エミリエに説明させりゃいい」
「駄目だ!」
「なんでだよ」
「あの女は、俺からエミリエを奪い取ろうとした! 冷静な話し合いなど、できるはずがない!」
「そりゃ、あんたの話だろ……」
こちらが口を挟むべきか迷っていると、独占欲を露わにしたフェドクスが吠える。
ガザンの冷静な突っ込みを受けても反抗的な態度を取る幼馴染の姿を見かねて、ルドルフが彼を脅した。
「あんまり騒ぎ立てるようなら、王女様とエミリエが顔を合わせる時は、下がってもらおうかな」
「絶対に、嫌だ」
「じゃあ、キャンキャンと無駄吠えするのはやめようか」
「く……っ!」
殿下から犬扱いされ、フェドクスは悔しそうに唇を噛み締めた。
彼は内心、屈辱を受けた憎しみを募らせていることだろう。
このまま放置していたら、危険かも……。
私は興味本位で、彼に手を差し出した。
「わんちゃん。お手」
幼馴染は「悪乗りするな」と目線でこちらを非難しつつ、無言で私の右手に触れた。
その姿を目にしたガザンは、お腹を抱えて笑い出す。
「ギャハハハ! エミリエの言うことは聞くのかよ!」
「あとで、殺す……」
「こらこら。身内同士で啀み合わないの。今日は、ひとまず休もう」
フェドクスが憎しみの籠もった声で、ガザンに敵意を向けたからか。
このまま会話を続けたところで、喧嘩になるだけだと判断したのだろう。この場は、お開きとなった。
「そうだな」
ガザンは気を利かせて「風呂に入ってくるわ」と言い残し、姿を消した。
フェドクスは私の手から指を離すと、寝台の上に下ろした。
その後、己の上半身に抱きついたまま目を閉じる。
当然、殿下も「邪魔をするわけには行かない」と席を立ったが――。
「殿下。少しだけ、よろしいでしょうか」
あえて、引き止めた。
「僕は、構わないけど……」
ルドルフはちらりと、フェドクスの姿を確認する。
彼は会話が聞こえているだろうに、微動だにしなかった。
つまり、「黙認する」と言うことだ。
「作戦を始める前に――殿下の真意を、確かめたいのです」
私はこれ幸いとばかりに、殿下へ問いかける。
戦争を防ぐ方法を――。
「私たち姉妹のうちどちらかを、娶る気はありませんか」
私の口から発されたあり得ない提案を受けて、2人は目を丸くする。
本当だったらこんな提案など、したくもなかった。
だけど……。
両国を揺らがす大問題に発展しているのは、自分のせいだから。
念の為、確認しておきたかったのだ。
「本気で、言っているのかい?」
「ええ」
「僕と、結婚するんだよ」
「はい」
「夫婦になったら、王家の血を絶やさぬためにも、子どもが必要だ」
「意味が理解できないほど、子どもではありません」
現代社会において、想いを通じ合わせた相手と幸せな一夜を過ごすという状況はかなりのレアケースだ。
大抵が妥協をして、結婚相手を決める。
――私は、ティルタラーテ王国の第二王女だ。
母国に戻れば、政略結婚は避けられない。
彼は王族だから、身分も問題ないだろう。
ただ……。
私がこうして結婚相手に名乗りを上げた場合、ヒロインと恋仲になる攻略対象としての役割を奪ってしまう。
それは、気がかりではあるのだが……。
今のところ、お姉様に対する好感度が高いのはガザンだ。
もしも殿下がこの提案を呑むのであれば、お姉様とガザンの恋路を応援するキューピッドになればいい。
――ヒロインに出会ったら、みんなと別れるつもりだったのに……。
こんな展開になるとは、想いもしなかったな……。
そんなふうに感慨深い思いに包まれていたところ、静観していたはずの幼馴染が吠えた。
「約束が、違う!」
「うんん。破ってないよ」
「なら、なぜ……! そんな提案を、俺ではなくそいつにする!?」
ルドルフがこの国に君臨する王となるのであれば、当然彼を支える王妃の存在が必要不可欠だ。
私やお姉様以外の人間が彼と恋仲になれればいいのだが、今すぐ調達するのは現実的ではない。
「見返りは求めないって言っていたくせに。私と結婚は、したいんだね」
「当然だ……!」
この提案をしたら、こうしてフェドクスと揉めるのも織り込み済みではある。
ただし、彼と夫婦になれない理由を「元平民だから」と言う気には、どうしてもなれなかった。
ただでさえ幼馴染は、不安定な状態なのだ。
ここで「逆立ちしたって殿下には勝てない」と突きつけようものなら、泣き喚くだけでは済まない。
私は彼の背中を擦って落ち着くように促しながら、ルドルフに条件を提示する。
「ただし、愛のない政略結婚でもよければの話ですが……」
「殺してやる……!」
フェドクスは怒りで我を忘れ、仲間に対する殺害予告まで飛び出してしまった。
さすがにこの場でこちらの申し出へ乗り気な様子を見せたら、本気で殺されてしまうと恐れたのだろう。
殿下はどこか困ったように、肩を竦めた。
「番犬が見ている前でその条件を呑むほど、勇敢ではないよ。僕はまだ、死にたくないからね」
「彼のことは、気にしないでください。納得させますから」
「あり得ない!」
彼がヒロインを選ぶに越したことはないが、己の犠牲で無駄な争いをしなくて済むのであれば、そのほうがいい。
幼馴染の説得などお安い御用だとやる気を見せたところ、フェドクスの大反対を受けた。
――ここで殿下に断られたら、私は一生結婚できないかもしれないな……。
元々異性と夫婦になるつもりはなかったので、別に悲観するようなことではないのだが……。
結婚適齢期真っ最中の身としては、いろいろと複雑な気持ちを抱いてしまう。
「僕はごめんだ。愛のない結婚を了承して、君の大事にしている飼い犬に噛み殺されるなんて……」
そんなこちらの思考を読み取ったのか、ルドルフは再び私と結婚する気はないと断言してしまった。
彼は2つ返事で了承すると思っていたため、この展開はかなり意外だ。




