今後の相談(1)
「な、何を……っ」
「暗い顔をしている、あんたが悪いんだろうが。美人が台無しだぜ?」
さり気なく口説こうとしてくるあたりが、彼らしい。
どさくさに紛れて好感度を稼ぐガザンの姿を目にしたフェドクスが我慢できずに、己の髪に触れた手を叩き落とす姿もまた、普段通りの光景だと言える。
――ようやくみんなが、平常心を取り戻した。
これからどうするかを、考える時が来たようだ。
「恐れていた事態が起きた以上、暫く身を隠したほうがいいかもしれないね」
「おっ。ついに、俺の出番か?」
「うん。王女様が兄上と婚約したのは、王城へ潜り込む大義名分が欲しかっただけだ。ここで鉢合わせて戦闘になるくらいだったら、辺境伯で問題を起こしてくれたほうがいい」
「そりゃ、そうだ。あっちなら、いくらでも誤魔化せるもんな?」
ティルタラーテとは一時休戦中とはいえ、辺境伯は何かと争いが絶えない場所だ。
実力者同士の小競り合いが起きたところで、問題にはならない。
「殿下は……」
「僕は残るよ」
「お姉様は私がいなくなったら、怒りの矛先を殿下に向けるのではないでしょうか……」
「大丈夫だよ。僕たちは、王族同士。対等な立場だ。話術では、負けない」
「ですが……」
「君だって、醜い王位継承争いになんかには巻き込まれたくないだろう?」
私は何度か、王太子に命を狙われている。
前回助けてもらった時は、傷1つなく生還できたが――いつかは最悪の結末を迎えるだろう。
――私だって、できることなら死にたくない。
だけど……。
サドルーブがルティアと婚約を結ぶ羽目になったのは、間違いなく私が生きているせいだ。
「これは、殿下だけの問題ではありません。私の問題でもあります」
「エミリエ……」
「1人より2人のほうが、効率的に困難を乗り越えられるはずです」
私たちだけ、安全な場所へ避難するわけにはいかなかった。
――殿下は、まさか自分がこんなふうに王太子へ立ち向かう意思を示すとは思っていなかったようだ。
不思議そうに、問いかけてきた。
「いいのかい?」
「はい。殿下は私にとって、かけがえのない友人ですから」
私にとって攻略対象は、魔王討伐隊の一員として旅をし、信頼して背中を預け合える、大事な友人だ。
恋愛対象では、ない。
こうして素直な気持ちを打ち明けたところ、ルドルフからは微妙な反応をされてしまった。
「それはちょっと、傷つくな……」
「そうか? 顔見知りって呼ばれるよりは、よほどマシだろ」
「エミリエの恋人になる資格があるのは、俺だけだ」
彼らは一斉に、三者三様の反応をする。
みんな、ブレないなぁ……。
――こちらから謝罪をするなら、このタイミングしかないだろう。
私はフェドクスの胸に抱かれたまま、頭を下げた。
「今まで私の出自を黙っていて、申し訳ありませんでした」
私がティルタラーテ王国の第二王女だという疑惑は、三英雄の間で上がっていた。
今さら疑惑が確信に変わったところで、大した問題にはならなかったようだ。
彼らは「気にするな」と言ってくれた。
――この感じなら、幼馴染にしか話をしていないことを、打ち明けてもいいかもしれない……。
「話しても、いい?」
「少しだけなら」
私はフェドクスの許可を得てから、語り出す。
母国に居場所がないと感じる、理由を――。
「両親が望んでいたのは、男児でした。女児である私は、不要な存在だったんです」
「王女が2人いると、王家が揺れる――それが、ここにいる理由なんだね」
ルドルフの問いかけにはどう答えるか迷ったが、詳細を語った場合、幼馴染が怒るかもしれない。
私は小さく頷くだけに留め、ヒロインと今後どうしたいかを伝えた。
「お姉様とは一度、冷静に話し合いたいと思っています」
「王女の考え次第では、僕たちを捨てるつもりかい?」
「駄目だ!」
「大丈夫だから、落ち着いて」
「俺は手足がもがれようとも、エミリエと一緒にいる……!」
ようやく平常心を取り戻したはずのフェドクスが、再び情緒不安定になってしまった。
私は彼を慰めながら、彼女が自分を追い求める理由を考察する。
彼女が好きなのは、幼い頃の朧げに残った記憶に存在する、純粋無垢な私だ。
左半分が使えなくなり、左目に魔王の魂を宿した、化物などではない。
彼女の望み通り一緒にいたところで、きっと幻滅されてしまうだろう。
それに――。
私たちは本来であれば、三英雄を奪い合うライバルなのだ。
本来であれば、姉妹仲良く暮らす資格などなかった。
「よほどのことがない限り、母国に戻ることはありませんので、ご安心ください」
「たとえば?」
「――国が滅びる、とか……」
「つーか、むしろそのほうがよくねぇか?」
ガザンはおどけたように、その思惑が現実となった際のメリットを語る。
「俺はお役御免。こいつは今まで通り、ルドルフは捕虜としてエミリエの庇護を受けるだろ? あんたはティルタラーテ王国の第二王女として、姉に寵愛される――完璧じゃねぇの」
自国を守るためにこれまで尽力してきた辺境伯が、滅びたほうがいいなどと宣言するなど、あり得ない。
冗談でも、言っていいことと悪いことがあるだろう。
私は信じられない気持ちでいっぱいになりながら、軽口を叩き続けるガザンの真意を探る。
「バチバチに争って、国同士消耗戦を仕かけるより、さっさと全面降伏を宣言したほうがよくねぇか?」
お姉様は私を取り戻しさえすれば、それで構わないのだ。
1人ではなくみんなで協力して寝返ったら、被害は最小限で済む。
それは、わかるけど……。
リジェンタス王国で暮らす人間が全員、現状に不満を持っているわけではない。
敗戦国の国民となってしまった人々がこれまで通りに暮らせる保証がなければ、三英雄が売国奴と罵られる可能性が高いだろう。
リスクを犯してまで、ガザンの提案を受けるべきではない。
そう、思うのに――。
「そのためには、父上と兄上をなんとかしないといけない」
「王座から引きずり下ろして、ルドルフしか王位継承者がいない状態を作る。そんで、王座は空席のまま滅亡。これが理想だな」
「王女とも、口裏合わせをしなくちゃいけないね」
意外にも、ルドルフは乗り気な様子を見せた。




