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第93話 もう一つの計画

 重苦しい沈黙が、司法省上級執務室を支配していた。


 諸侯会議。


 一か月後。


 もし滝の推測が正しければ――国家中枢そのものが狙われる。



 ミヤーノは険しい表情のまま口を開いた。


 「……ならば、会議そのものを中止にするべきです」


 サカンとコーナンも無言で頷く。


 当然の判断だった。


 だが――


 滝は静かに首を横へ振った。


 「それも一つの手だ」


 一拍置く。


 「だが、多分それだけじゃ終わらない」


 ミヤーノが眉をひそめる。


 「どういう意味です」


 滝は低い声で答えた。


 「俺が追っていた男の計画にも、本命が失敗した場合の”次善策”があった」



 空気が張り詰める。



 「……次善策?」


 滝は静かに頷いた。


 「人口密集地での無差別テロだ」


 全員が息を呑む。


 「街中で手当たり次第に爆弾を爆発させる」


 「駅」


 「商業施設」


 「繁華街」


 「人が集まる場所なら、どこでも狙う」


 サカンの表情が強張った。


 滝は続ける。


 「首都全体を混乱に陥れる」


 「警察だけじゃ手が回らなくなる」


 「そこで軍――俺のいた国でいう軍隊が治安維持のために動く予定だった」


 コーナンが息を呑む。


 「……まさか」


 「ああ」


 滝は頷いた。


 「だが、その治安維持に当たる部隊の一部が反旗を翻す計画だった」



 ミヤーノは絶句した。


 「軍まで……」


 「混乱を招いた政府を糾弾する」


 「そして反政府勢力が新たな政権の樹立を宣言する」


 「それが、奴の描いていた革命だった」



 静寂。



 誰も言葉を発せない。



 やがてミヤーノが、かすれた声で呟いた。


 「……そこまで緻密な計画を」


 滝は静かに頷く。


 「何年もかけて準備していた」


 「だから諸侯会議の中止くらいは、最初から想定していると考えた方がいい」


 一拍。


 「むしろ――」


 滝の声がさらに低くなる。


 「中止になった時の方が危険かもしれない」



 サカンが低く呟く。


 「無差別テロ……」


 「何の罪もない市民まで狙うというのか」


 「多分な」


 滝は静かに窓の外を見た。


 王都の街並み。


 市場へ向かう人々。


 子どもたちの笑い声。


 荷車を引く商人。


 何気ない日常。


 だが滝は知っている。


 そうした平穏が、一瞬で地獄へ変わる光景を。


 「俺のいた国では、内通者の密告という”綻び”から計画は崩れた」


 「だが今回は、それを期待しない方がいい」



 ミヤーノが静かに尋ねた。


 「では……我々は、どうすればよいのでしょう」


 滝は迷わず答えた。


 「まず情報共有を最小限にする」


 「捜査内容を知る者も必要最低限に絞る」


 「敵にこちらの動きを悟らせないことが第一だ」


 そして――


 全員を見渡した。


 「皇帝陛下には、この可能性をお伝えするべきだ」



 その場の空気がさらに重くなる。



 滝はゆっくりと言葉を続けた。


 「爆破事件で使われた火薬」


 「ジンの証言」


 「王都へ運び込まれた大量の物資」


 「そして諸侯会議」


 一つひとつ積み重ねるように言う。


 「ここまで来れば、貴族の中に内通者がいると考えるのが自然だ」


 コーナンの表情が険しくなる。


 「つまり……」


 滝は静かに頷いた。


 「敵は、もう王都の中にいる」



 部屋に沈黙が落ちる。


 誰一人として、その言葉を否定できなかった。


 そして滝は、もう一度王都の空を見上げる。


 残された時間は、一か月。


 敵が先に動くのか。


 それとも、自分たちが真相へ辿り着くのか。


 その勝負は、もう始まっていた。

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