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第92話 狙われた諸侯会議

 滝は五連橋を駆け下り、そのまま司法省へ向かった。


 昼の王都。


 行き交う人々が驚いて振り返る。


 だが、そんなことを気にしている余裕はない。


 胸の奥で、嫌な感覚が膨れ上がっていた。


 点だったものが線になる。


 そして今、その線が一つの場所へ収束し始めている。



 司法省――上級執務室。


 勢いよく扉が開く。


 書類を整理していたミヤーノが顔を上げた。


 「タキ殿?」


 思わず目を見開く。


 先程まで疲れ切っていた男とは別人だった。


 目に力が戻っている。


 いや――鋭すぎる。


 「何か分かったのですか」


 滝は机へ地図を広げた。


 サカンとコーナンも顔を上げる。


 「多分な」


 滝は深く息を吐いた。


 「これまでの事件――」


 「俺のいた国で四十年以上前に起きた大規模テロ事件と酷似してる」


 部屋の空気が変わる。



 「連続……テロ?」


 ミヤーノが眉をひそめる。


 滝は頷いた。


 「犯人は革命思想を掲げた過激派組織だった」


 「各地で無差別爆破を繰り返して警察を混乱させる」


 「その裏で仲間を増やし、武器や資金を集める」


 「そして最終的には、政府中枢を叩いて武装蜂起する計画だった」


 サカンが腕を組み、低く唸る。


 「つまり……」


 滝は地図を指でなぞった。


 「武器はセキから流れ」


 「ガナトで受け渡され」


 「不穏分子はノオダで動いていた」


 一拍。


 「そして最後は王都」


 「全部繋がっている」


 それは、これまでの捜査で何度も浮かび上がってきた線だった。


 「地方で不満分子を煽る」


 「武器や食料を集める」


 「反政府側につきそうな連中に資金を流す」


 「各地に“種”を撒いてたんだ」


 コーナンが静かに頷く。


 「そして、ジロウタやセキの総督も、その駒だった……」


 「ああ」


 滝も頷いた。


 「ハギー誘拐も、おそらく交渉材料だ」


 「決起の時、王家を揺さぶるためのな」


 室内が重く静まり返る。


 ここまでは、すでに見えていた。


 問題は――その先だった。


 滝はゆっくりと言う。


 「だが、ここから先が重要だ」


 「奴らの“最終目的”は何か」


 サカンが険しい顔で呟く。


 「……政府転覆か」


 滝は静かに頷いた。



 「そして――」


 滝は続ける。


 「奴らの最終目標は、おそらく政府要人をまとめて叩くことだ」


 ミヤーノが目を細める。


 「なぜ、そう思うのです」


 「テロの目的は混乱そのものじゃない」


 滝は答える。


 「混乱で“人を動かす”んだ」


 「治安対策」


 「緊急会議」


 「軍の招集」


 「政府は必ず、大物を一か所へ集める」


 「そこを狙う」


 その瞬間だった。


 ミヤーノの顔から血の気が引いた。



 「……まさか」


 滝が視線を向ける。


 ミヤーノは静かに言った。


 「一か月後、各地の有力諸侯を王都へ招集する諸侯会議が予定されています」


 空気が凍る。


 「今回の王都爆破事件を受けて、治安対策と反乱対策を協議するためです」


 サカンが立ち上がる。


 「待ってください……!」


 「それでは!」


 ミヤーノが頷く。


 「司法卿」


 「軍務卿」


 「財務卿」


 「有力諸侯」


 「各地の領主」


 「そして皇帝陛下もご出席になります」


 滝は低く呟いた。


 「――それだ」



 沈黙。



 誰も、すぐには言葉を出せなかった。



 コーナンが絞り出すように言う。


 「もし会議場で爆発など起これば……」


 「国が終わる」


 滝が静かに答える。


 「混乱に乗じて各地で反政府勢力が動けば、なおさらだ」


 サカンの額に汗が浮かぶ。


 「ですが、会議の場所や警備は極秘ですぞ……!」


 「内部協力者がいれば関係ない」


 滝は即座に返した。


 全員が黙る。


 貴族。


 火薬搬入。


 王都内部。


 今まで集めてきた情報が、一つの形になり始めていた。



 滝はゆっくり窓の外を見た。


 王都の空。


 穏やかな昼。


 だが、その下では確実に何かが動いている。


 「あと一か月……」


 小さく呟く。


 この計画を止められるか。


 間に合わなければ、この国は燃える。


 そして――


 今度こそ、止めなければならない。

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