第82話 瓦礫の下
「生きてるぞ!!」
叫び声が響いた瞬間、現場の空気が変わった。
「瓦礫の下だ!!」
「まだ人がいる!!」
憲兵と町の男たちが、一斉に瓦礫へ駆け寄る。
誰もが必死だった。
だが――。
「待て!!」
滝の声が飛ぶ。
全員の動きが止まった。
「闇雲に触るな」
滝は崩れた建物を鋭く見上げる。
焼け落ちた梁。
重なった瓦礫。
今にも崩れそうな柱。
「下手に動かせば二次倒壊する」
「生き残ってる空間を潰す可能性もある」
町の男が焦った声を上げる。
「でも早く助けねぇと!」
「だから慎重にやるんだ」
滝は即座に返した。
「急いで殺したいなら別だがな」
その一言で、男たちは黙る。
滝は周囲を見回した。
「ノコギリはあるか」
「木材を切る」
「支柱になる長い木も持ってこい」
コーナンがすぐ部下へ命令を飛ばす。
「聞いたな! 急げ!」
憲兵たちが一斉に動き始めた。
町の人々は戸惑っている。
一刻も早く助け出したい。
その気持ちは全員同じだった。
だが、昨夜の火災で滝の指揮を見ていた憲兵たちは違った。
誰も逆らわない。
滝の指示通り、慎重に動き始める。
滝は瓦礫の隙間を覗き込んだ。
わずかだが空間がある。
「……生きてるな」
小さく呟く。
脳裏に、日本での震災現場が浮かんだ。
倒壊した建物。
泣き叫ぶ声。
瓦礫の臭い。
若き日に機動隊員として昔見た光景だった。
あの時と同じだ。
「そこ、梁を切るぞ」
「一気にやるな。ゆっくり支えろ」
ギシ、と嫌な音が鳴る。
周囲が息を呑んだ。
「支柱入れろ」
「そのまま固定」
慎重に。
本当に少しずつ。
瓦礫をどかしていく。
やがて。
「いた!!」
憲兵の声が上がった。
瓦礫の隙間。
三十歳前後の男が横たわっている。
顔は煤だらけだった。
だが――生きている。
「引き上げます!」
「待て」
滝が止める。
「首と足を固定しろ」
「骨折してる可能性が高い」
憲兵たちが慎重に男を運び出す。
周囲から歓声が上がった。
「助かったぞ!!」
「生きてる!!」
泣き出す女までいる。
滝は男の状態を確認した。
火傷。
骨折。
だが、大きな出血はない。
「……助かるな」
滝は小さく息を吐く。
周囲を見回した。
倒壊した瓦礫と瓦礫が重なり、偶然に空間ができていた。
さらに火元から少し離れていた。
近くには、砕けた水樽の破片。
周囲の地面は濡れている。
あの水が延焼を多少防いだのだろう。
奇跡だった。
本当に運が良かった。
男は意識が朦朧としている。
滝は水を口へ含ませた。
「……名前は?」
男の唇がわずかに動く。
「……ジン……」
滝の目が細くなる。
その名前には、聞き覚えがあった。




