第81話 焼け跡
ミヤーノの仮説に、誰もすぐには言葉を返せなかった。
貴族の荷に紛れ込ませたのか。
それとも、少量ずつ王都へ運び込んだのか。
どちらも現実的だった。
そして何より厄介なのは――どちらも内部協力者なしでは成立しにくいことだ。
重い沈黙が執務室を包む。
最初に口を開いたのは滝だった。
「……とりあえず、現場を見に行く」
ミヤーノが視線を向ける。
「何か見つかると?」
「分からん」
滝は正直に答えた。
「だが、机の上だけじゃ限界がある」
「現場を見ないと始まらない」
コーナンも頷く。
「私も同行します」
再び南区画へ到着した時には、朝の日差しが街を照らしていた。
だが。
まだ燻る木材から白い煙が立ち上り、焦げた臭いが鼻を刺す。
崩れた建物。
焼け焦げた瓦礫。
疲れ切った住民たち。
昨夜の惨状が、そのまま残されていた。
コーナンの部下たちも周囲を警戒しながら動いている。
滝は無言で歩く。
視線は鋭い。
焼け方。
倒壊方向。
爆心地らしき場所。
細かく確認していく。
その姿に、コーナンが期待を込めた声を出した。
「……何か分かりましたか?」
滝はしばらく黙った後、小さく息を吐く。
「正直、手詰まりだな」
コーナンの表情が曇る。
滝は焼け跡へ視線を向けたまま続けた。
「発火地点と思われる場所の焼損が酷すぎる」
「残ってる物も少ない」
「そう都合よく証拠は残ってないか」
瓦礫を足で軽く動かす。
黒く焼けた木材が崩れ落ちた。
「爆発物の痕跡を探したいが、この状況じゃ厳しいな」
コーナンは険しい顔のままだった。
滝はそんな彼を見る。
「コーナン」
「はい?」
「指揮官が不安そうな顔を見せると、部下も不安になる」
コーナンが目を瞬かせる。
「現場じゃ特にな」
滝は周囲を見る。
疲弊した憲兵。
不安げな住民。
すすり泣く子ども。
「みんな、あんたを見てる」
コーナンは少し黙り込み、姿勢を正して、やがて真面目な顔で頷いた。
「……覚えておきます」
その時だった。
「炊き出しが来たぞー!」
遠くから声が上がる。
住民たちがざわめき始めた。
滝たちもそちらを見る。
広場の一角。
そこには見慣れた王家の旗が立っていた。
そして――。
ハギーとミネーの姿があった。
二人とも簡素な服へ着替えている。
豪華な装飾はない。
だが、それでも人目を引いた。
ハギーは穏やかな笑顔で住民へスープを配っている。
「無理はなさらないでくださいね」
「こちらもあります」
疲れた住民たちが恐縮した様子で頭を下げていた。
「もったいない……」
「皇女殿下自ら……」
だが、その顔には確かな安堵もある。
食べ物だけではない。
自分たちは見捨てられていない。
そう感じている顔だった。
その横では、ミネーも忙しそうに動いている。
髪をまとめ、袖をまくった姿は、いつものドレス姿とはまた違う美しさがあった。
滝は思わず見入る。
すると。
ミネーがこちらに気づいた。
一瞬だけ目が合う。
そして、ふわりと柔らかく笑った。
滝は少しだけ視線を逸らした。
その後。
滝たちも炊き出しを手伝うことになった。
だが――。
ハギーとミネーの前には長蛇の列。
一方。
滝の前には、誰も並ばない。
コーナンの部下たちが気まずそうに視線を逸らす。
滝は苦笑した。
「まあ、そりゃそうだ」
外国人の中年男より。
皇女と伯爵令嬢の方へ並ぶに決まっている。
滝は邪魔にならないよう少し離れた場所へ移動した。
瓦礫の脇へ腰を下ろす。
人目につかないよう、炊き出しのスープを静かにすすった。
熱い。
だが、疲れた体にはありがたかった。
その時だった。
「おい!!」
突然、叫び声が響いた。
「生きてるぞ!!」
空気が変わる。
「瓦礫の下に生存者がいる!!」
滝は即座に立ち上がった。




