表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/90

第8話  裏切りの記憶

 この国は、長くカンク家を盟主としながらも、実際には各地の領主が強い自治権を持つ――いわば寄せ集めの国家だった。


 やがて、その歪みは表に出る。


 豊かな領主はさらに富み、貧しい領主は搾取され、領民は逃げ、土地は荒れた。


 治安は崩壊し、野盗が跋扈する。


 その混乱を正そうとしたのが、カンク家を中心とした改革派だった。


 だが――


 既得権を守ろうとする領主たちとの衝突は、やがて国を二分する戦争へと発展する。



 スオーを治めるクガー家は、有力領主でありながら中立を選んだ。


 どちらにも与しない。


 それが、この街を守る最善の選択だった。


 ――はずだった。



 戦況が動いたのは、一年後。


 敗走した改革派の軍が、このスオーへと雪崩れ込んできた。


 本来なら、追い返すべきだった。


 だが――


 クガーの妹、スサーがそれを止めた。


 「人を救うのに立場は関係ありません」


 彼女は自ら傷ついた兵を看護し、総大将であるカンク17世すらも介抱した。


 その結果――


 二人は結ばれた。



 その選択が、すべてを変えた。



 中立だったスオーは、裏切り者と見なされた。


 領主連合は一斉に牙を剥く。


 街は炎に包まれた。


 クガーは敵の包囲網を命からがら突破し、援軍を求めて王都へ向かった。


 出陣前。


 カンク17世はクガーの手を取り、約束した。


 「必ず助ける」と。


 だが――


 援軍は来なかった。



 スオーは、意図せず囮となった。



 領主連合の本拠地を叩くための。



 本拠地を奪われた領主連合の敗北により、戦争は終わった。


 だが、スオーに残ったのは――


 焼けた街と、裏切られた記憶だけだった。



 戦後、新政府が樹立される。


 国は再編され、制度は整い、復興は進んだ。


 ――だが、それは同時に、


 これまでの価値観を否定するものでもあった。



 そしてスサーは、娘を産んで間もなく死んだ。


 その娘が――ハギーだ。



 「……だから、この街は王家を嫌っているんですね」


 思わず口にすると、ユダは静かに頷いた。



 「でも、それって姫には直接関係ないですよね」


 「それでも、刃は向けられる」


 「だからミネーは黙秘した。」


 短い言葉だったが、それで十分だった。



 ミネーが不安そうにこちらを見る。


 「姫様の存在を知られて何かあったら……」


 その表情は、やはり綺麗だと思った。


 こんな状況なのに。



 「大丈夫ですよ」


 「俺の国でも同じです」


 「一部の声が、全部みたいに扱われる」



 少し間を置いて続ける。


 「だからこそ、逃げちゃダメなんです」


 「姫からの伝言です」


 「何も恐れず。真実を明らかに」



 ミネーはまっすぐこちらを見て、強く頷いた。



 さて――問題はここからだ。



 ホウブ。


 そして、アガ。



 この二人の証言が、すべてを左右する。



 ユダとホウブの家へ向かったが留守だった。


 隣家の老婆に聞くと、朝から戻っていないという。


 「どうせ酒場だよ」


 老婆は呆れたように言った。



 ホウブの行きつけの酒場で聞き込みをすると、妙な話が出てきた。



 「今日はやけに羽振りがよかったな」


 「ツケも全部払って、新しいボトルまで入れてた」



 ……金。



 嫌な予感がする。



 店主は最初口を閉ざしていたが、ユダが銀貨を握らせると、渋々口を開いた。


 「女のところに行くって言ってた」


 「どこの女かまでは知らねぇ」


 ユダがもう一枚銀貨を置く。


 すると店主は周囲を気にしながら、小声で言った。


 「……思い出した」


 「アガとかいう、洋館の女だ」



 目撃者と関係者が繋がった。



 店主は、


 「独り言だからな」


 と念押ししながら、家の場所まで教えてくれた。



 アガの家へ向かう。



 到着したのは深夜だった。


 畑の中にぽつんと灯る明かり。


 ――中から、男女の声。



 踏み込もうとした瞬間、ユダが腕を押さえた。


 静かに首を振る。



 彼女は一人で近づき、耳を澄ませる。


 数分後、戻ってきた。



 「ホウブだ」



 やはりか。



 「上手くいった」


 「大金が入る」


 そんな断片的な会話が聞こえたらしい。



 「ナイフ、あの女じゃないか?」


 ユダが低く言う。



 「可能性は高いですね」


 「でも、今問い詰めても無駄です」



 口裏を合わせて終わりだ。



 それに――



 酒場のツケも払えないホウブ程度の男に、この事件は組み立てられない。



 指示役がいる。



 確実に。



 「どうする」


 ユダが聞く。



 俺は少し考えて、笑った。



 「相手が裏から来るなら――」


 「こっちも裏でいきましょう」



 ユダが覆面の奥でニヤリと笑う。


 「いいな、それ」



 ……その時。



 家の明かりが消えた。


 中から、妙に生々しい声が漏れてくる。



 「今日はもうやめときましょう」


 「さすがに、今は野暮です」



 そう言うと、ユダは肩をすくめた。



 明日の裁判に、全てをかける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ