第61話 契約
東地区――取調室。
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石造りの部屋。
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窓は小さい。
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空気は重い。
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中央の椅子に、ジロウタが座らされていた。
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顔色は悪い。
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だが――
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もう、強気な態度は消えていた。
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正面には、滝。
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横にはジュノ。
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北と南の代表もいる。
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逃げ場はない。
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そして――
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廃造船所の捜索も、同時に進んでいた。
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憲兵隊が現場を押さえ。
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残されていた銃器。
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火薬。
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帳簿。
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運搬記録。
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次々と運び出されている。
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もう、言い逃れはできない。
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沈黙。
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やがて――
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滝が口を開く。
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「始まりから話せ」
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ジロウタは俯いたまま、掠れた声を出した。
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「……最初は、ただの酒だった」
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ジュノが眉をひそめる。
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ジロウタは続けた。
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「叔父上は厳しかった」
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「西地区の代表として甘えるなって……ずっと」
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拳を握る。
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「何をしても認められなかった」
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「だから……酒場で飲んでいた」
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一拍。
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「そこで、あの男と会った」
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空気が変わる。
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滝の目が細くなる。
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「顔に傷のある、大男か」
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ジロウタが頷く。
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「……知っているのか」
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滝は答えない。
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だが。
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脳裏には、最初にこの世界で戦った夜が浮かんでいた。
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ハギー誘拐未遂。
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あの時。
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自分を“警察官”と理解した男。
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間違いない。
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同じ相手だ。
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ジロウタは続ける。
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「そいつに……セキの総督補佐官、チョウを紹介された」
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北の代表が低く呟く。
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「総督補佐官だと……」
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ジロウタは乾いた笑いを漏らす。
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「最初は信じなかった」
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「だが、あいつらは本物だった」
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そして――
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「不満を話した」
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「叔父のことも」
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「西地区のことも」
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視線が濁る。
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「そしたら言われたんだ」
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小さく笑う。
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壊れたように。
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「“なら、お前が西を支配すればいい”ってな」
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沈黙。
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「そして最後には――」
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ゆっくり顔を上げる。
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「このガナトそのものを手に入れろ、と」
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ジュノの目が冷える。
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ジロウタは続けた。
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「奴らは力を貸すと言った」
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「その代わり、西地区の廃造船所を使わせろと」
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一拍。
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「……契約だった」
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滝は黙って聞いている。
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「最初は盗品だった」
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「ノオダやセキから流れてきた品を隠していた」
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「だが、そのうち――」
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声が低くなる。
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「銃が集まり始めた」
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コーナンが眉をひそめる。
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「猟銃だけではありませんでしたな」
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ジロウタが頷く。
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「先の大戦で廃棄された銃もだ」
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「各地から運び込まれていた」
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サカンが低く吐き捨てる。
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「戦争の残骸かよ」
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「職人も集められた」
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「鍛冶職人」
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「機械工」
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「修理工」
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「使えなくなった銃を修理し、新たな武器にしていた」
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滝が静かに聞く。
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「ジンは」
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ジロウタが目を逸らす。
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「……腕が良かった」
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「だから連れていかれた」
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滝の表情がわずかに変わる。
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だが――
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生きている可能性は高い。
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ジロウタは続けた。
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「だが、契約の終わり頃になって状況が変わった」
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「セキの総督の横領が発覚したんだ」
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ジュノたちの表情が変わる。
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「奴らは焦っていた」
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「証拠を消す必要があった」
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「だから――」
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「船と武器を持って消えた」
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沈黙。
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滝が低く聞く。
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「目的は」
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ジロウタは首を振る。
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「詳しくは知らない」
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「だが……反政府勢力が動くとか言っていた」
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そして。
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震える声で続ける。
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「各地で蜂起が始まれば――」
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「俺も西地区の兵を動かすつもりだった」
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北の代表が険しい顔になる。
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「まさか……」
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ジロウタは笑う。
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乾いた笑い。
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「隠した武器で武装して」
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「混乱の中で、残り三地区を奇襲する」
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一拍。
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「そして――」
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その目が濁る。
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「ガナトの王になるつもりだった」
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沈黙。
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「……本気だったのか」
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ジュノが低く問う。
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ジロウタは力なく笑った。
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「本気だったさ」
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「……あの頃の俺はな」
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静寂。
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誰も、すぐには口を開かなかった。
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やがて。
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滝が静かに言う。
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「だが、失敗した」
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ジロウタの肩が震える。
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滝は続けた。
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「俺たちに潰された」
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沈黙。
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その言葉だけが――
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重く、部屋に残った。




