第57話 口の軽い男
西地区の外れ。
朝の霧が、まだ街道に残っていた。
人通りは少ない。
遠くから、馬車の音が近づいてくる。
滝たちは物陰に身を隠し、その様子を見ていた。
「本当に来るんですか?」
コーナンが小声で尋ねる。
「来る」
滝は短く答えた。
理由はある。
一昨日の夜、店から持ち出したのは空箱だった。
あの店で何かを運び出しているなら、箱の中身を別の場所へ運ぶ必要がある。
空になった箱を戻したということは、逆に言えば――別の場所へ物資を運び込んでいる可能性が高い。
しかも、夜に店から持ち出すのではなく、朝にまとめて運び込んでいる。
滝はそう読んでいた。
「来たな」
サカンが呟く。
霧の向こうから、一台の荷馬車が姿を現した。
御者台に座っている男。
酒場で見た男だった。
スミス。
滝は立ち上がる。
「行くぞ」
三人は物陰から出た。
馬車の前へ回り込む。
「止まれ」
スミスが驚いて手綱を引いた。
「お、お前たち……」
見覚えがある。
酒場で一緒になった客たちだった。
「少し話を聞きたい」
滝が言う。
「いや、こっちは仕事中で……」
「何を運んでいる?」
スミスの顔が固まる。
「そ、それは……」
「自分が何を運んでいるのか、分かっているのか?」
滝の声は低かった。
「危ない仕事だぞ」
「……」
「それに、お前は少し口が軽すぎる」
スミスが目を逸らす。
「リリに話したな」
「……」
「身請けしたい。最近は景気がいい。仕事も増えた。どこへ荷物を運んでいるかも話した」
スミスの顔から血の気が引いていく。
「もし犯罪組織が絡んでいるなら――」
滝は一歩近づいた。
「最初に消されるのは、お前みたいな奴だ」
「……!」
サカンが低く言った。
「口の軽い運び屋なんざ、長生きできねぇよ」
スミスはしばらく黙っていた。
やがて、観念したように肩を落とす。
「……分かった。話す」
「最初からそうしてくれ」
滝は馬車の荷台へ目を向けた。
そして、その先にある廃造船所を見る。
「中へ入る」
滝の目が、捜査する者の目に変わった。




