第57話 口の軽い男
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西地区――外れ。
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朝靄。
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人気の少ない通り。
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石畳の端に、荷馬車が止まっていた。
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滝たちは、物陰から静かに見ている。
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コーナンが小さく言う。
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「……本当に来るんですか?」
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滝は短く答える。
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「来る」
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一昨日の夜、店から持ち出したのは空箱だった。
となると朝にまとめて食料や物資を運び込んでいるはずだ。
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そして――
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しばらくして。
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馬車が現れる。
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御者台。
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見覚えのある顔。
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スミスだった。
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「……来たな」
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サカンが笑う。
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馬車が角を曲がった瞬間。
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滝たちが前へ出る。
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「うおっ!?」
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スミスが慌てて手綱を引く。
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馬が鳴く。
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「な、なんだお前ら!」
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サカンが、にやりと笑う。
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「一昨日ぶりだな」
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スミスの顔色が変わる。
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娼館。
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あの客。
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思い出した。
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滝は静かに言う。
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「少し話をしよう」
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「い、嫌だね」
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「仕事中だ!」
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強がる。
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だが――
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声が少し震えている。
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サカンが馬車に手をかける。
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ぎし、と音。
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「仕事、ねぇ」
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目が笑っていない。
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スミスが後ずさる。
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滝が口を開く。
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「お前、自分が何を運んでるか分かってるか?」
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「は?」
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「危険な仕事だ」
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淡々と。
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「しかも、お前は喋りすぎる」
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スミスの顔が引きつる。
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「リリに話したな」
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「身請けしたいとか」
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「景気がいいとか」
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「出前先のこともだ」
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沈黙。
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図星だった。
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滝は続ける。
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「もし裏で何かやってる連中なら――」
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一拍。
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「お前みたいなのは、一番先に消される」
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スミスの喉が鳴る。
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「そ、そんな大げさな……」
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「大げさじゃねぇ」
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サカンが低く言う。
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「口の軽い運び屋なんざ、長生きできねぇよ」
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空気が冷える。
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スミスが、完全に黙る。
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滝は静かに言う。
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「助かりたければ協力しろ」
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スミスが震えながら顔を上げる。
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「……な、何をすればいい」
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滝とサカンが視線を交わす。
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そして――
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滝が、潰れた造船所の方角を見る。
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「中へ入る」
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静かに。
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だが――
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その目は、完全に仕事の目だった。




