第55話 夜明け
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夜明け。
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西地区の空が、白み始める。
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娼館の灯りも、少しずつ落ちていた。
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入口の前。
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最初に出てきたのはサカンだった。
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「……眠い」
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珍しく、心底疲れた顔。
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後からコーナンも出てくる。
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髪が少し乱れている。
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「朝まで話を聞かされました……」
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遠い目。
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サカンが鼻で笑う。
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「俺は筋肉自慢を延々聞かされた」
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「拷問かと思った」
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コーナンが吹き出す。
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そこへ――
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滝が出てくる。
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そして。
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明らかに腰を押さえていた。
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サカンが目を細める。
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「……お前も大変だったか」
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滝はしかめ面のまま言う。
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「椅子で寝た」
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「腰が痛い」
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沈黙。
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コーナンが瞬きをする。
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「……は?」
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滝は面倒そうに続ける。
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「ガキみたいなのが来たから、ベッド使わせた」
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「俺は椅子だ」
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サカンが呆れた顔をする。
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「お前な……」
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だが。
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少しだけ笑っていた。
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その時。
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娼館の主人が出てくる。
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にやにやしている。
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「いやあ、お客さん方」
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「昨夜はどうでした?」
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サカンとコーナンが微妙な顔をする。
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滝は平然と答える。
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「……良い夜だった」
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一瞬。
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サカンが吹き出しかける。
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コーナンは顔を逸らした。
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主人は満足そうに頷く。
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「それは何よりで」
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滝は、懐から金を出す。
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ジュノから渡されていた経費。
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それを、無造作に置く。
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主人が目を細める。
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「……追加ですか?」
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滝は短く言う。
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「ミリを身請けする」
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空気が止まる。
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サカンが目を見開く。
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コーナンも固まる。
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主人は滝を見つめる。
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値踏みするように。
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そして――
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金を見る。
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十分だった。
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「……毎度あり」
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主人が笑う。
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少しして。
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奥からミリが出てくる。
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状況を理解できていない顔。
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滝を見る。
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「……え?」
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滝は歩き出しながら言う。
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「行くぞ」
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ミリが固まる。
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「え……?」
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「な、なんで……」
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滝は振り返らない。
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「情報をもらった」
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「もっと良い働き口がある」
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「ここにいるよりはマシだ」
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ミリは言葉を失う。
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サカンが小さく笑う。
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「……相変わらずだな」
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コーナンも苦笑する。
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「でしょうな」
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朝の西地区。
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夜の熱が、少しずつ消えていく。
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その中を――
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四人は歩く。
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向かう先は。
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ジュノの屋敷。
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そして――
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次の捜査だった。




