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第54話 夜の部屋

第54話 夜の聞き込み


 それぞれの部屋。



 サカンの部屋。



 「……なんだこれは」



 目の前にいるのは――



 やたらと筋肉質な女。



 腕が太い。



 視線が強い。



 妙に距離が近い。



 「任せときな!」



 豪快な声。



 サカンが、わずかに引く。



 「……外れだな」



 ぽつりと呟く。




 コーナンの部屋。



 「よろしくお願いします〜」



 入ってきたのは――



 酒を飲みながらやたらと喋る女。



 座る前から話し続けている。



 止まらない。



 「それでですね〜、昨日のお客さんが〜」

 「お客さんも飲んでよ」



 酒を注がれながらコーナンが遠い目になる。



 「……これはこれで」



 小さく息を吐く。



 「外れですな」




 そして――



 滝の部屋。



 扉が閉まる。



 外の喧騒が、遠くなる。



 静かな空間。



 滝は、椅子に腰を下ろす。



 少しして――



 控えめな足音。



 扉が開く。



 入ってきたのは――



 少女だった。



 ハギーと、そう変わらない年頃。



 どこか怯えた目。



 無理に作った笑顔。


 痩せており、血色が良くない。



 滝は、何も言わず見ている。



 ――どこの世界でも同じか。



 ふと、思う。



 こういう場所に来る女性は、



 だいたい“理由”がある。



 選んだのか。



 選ばされたのか。



 事情はそれぞれ違う。



 だが――



 楽な人生だった者は少ない。



 滝は、小さく息を吐く。



 少女が口を開く。



 「……あの」



 だが声が続かない。



 滝は、静かに言う。



 「座ろうか」



 短く。



 命令でもなく、


 拒絶でもない。



 少女は戸惑いながらも座る。



 滝は、懐から包みを取り出す。



 酒場で余った料理。



 それを、無造作に差し出す。



 「食うか」



 少女が目を見開く。



 「……いいんですか?」



 滝は肩をすくめる。



 「余りだ」



 少女は、少し迷ってから受け取る。



 そして――



 小さく、食べる。



 ゆっくり。



 噛みしめるように。



 その様子を、滝は何も言わず見ていた。



 やがて。



 少女の肩の力が、少し抜ける。



 滝が聞く。



 「名前は」



 「……ミリ」



 小さな声。



 滝は頷く。



 それ以上は聞かない。



 ミリが、少しだけ不思議そうに言う。



 「……あの」



 「しないんですか」



 遠回しな言い方。



 滝は即答する。



 「そういう趣味はない」



 あっさり。



 ミリが、少しだけ笑う。



 初めて、自然に。




 滝は本題に入る。



 「リリの客について聞きたい」



 ミリの表情が少しだけ変わる。



 「……よく来る男の人ですか?」



 滝は黙って頷く。



 ミリが小さく口を開く。



 「……スミスさん?」



 滝は黙って続きを待つ。



 ミリが話し始める。



 「酒場の人です」



 「リリちゃんのこと、すごく気に入ってて……」



 少し考える。



 「ぞっこん、ってやつです」



 滝は表情を変えない。



 ミリは続ける。



 「最近、よく来ます」



 「景気がいいみたいで……」



 「身請けしたいって言ってました」




 ――金回りが変わった。



 滝の中で、線が伸びる。




 「仕事の内容は」



 短く聞く。



 ミリは首を振る。



 「そこまでは……」



 そして。



 言いかけて止まる。



 視線が揺れる。



 滝は急かさない。



 ただ待つ。



 ミリは俯いた。



 「……言わない方がいいと思います」



 小さな声。



 だが――



 その顔には迷いがあった。



 「リリちゃんが心配なんです」



 ぽつりと漏らす。



 「最近、変な人たちと関わってるみたいで……」



 そして周囲を気にするように視線を動かした。



 「出前で、よく外に行ってるって」



 滝の目がわずかに動く。



 「どこだ」



 ミリはさらに声を落とす。



 「西の外れの……古い波止場です」



 「潰れた造船所」




 空気が、わずかに変わる。




 「でも……」



 ミリが続ける。



 「詳しくは、言っちゃダメって」



 「口止めされてるって、聞きました」




 沈黙。




 滝は、ゆっくりと頷く。



 十分だった。




 ミリが、不安そうに言う。



 「……あの人」



 「変なことに巻き込まれてなければいいんですけど」




 滝は、少しだけ目を細める。



 答えない。




 ただ――



 確実に、“場所”は見えた。




 部屋の外では、



 まだ夜が続いている。



 だが――



 動く準備は、整いつつあった。

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