↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
48/164

第48話 見えない痕跡

 ジュノの屋敷――エントランスロビー。


⸻


 三十人。


⸻


 全員が並んでいる。


⸻


 メイド。


 兵。


 使用人。


⸻


 表情は様々だ。


⸻


 無表情。


 不安。


 苛立ち。


 無関心。


⸻


 だが――


⸻


 “決め手”になるものはない。


⸻


 ミネーが小さく呟く。


⸻


 「……分かりませんね」


⸻


 コーナンも頷く。


⸻


 「表情では無理ですな」


⸻


 サカンは腕を組む。


⸻


 「演技も混じっている」


⸻


 コグシーは黙ったまま。


⸻


 滝だけが、前に出る。


⸻


⸻


 ジュノが言う。


⸻


 「人は集めた」


⸻


 「で、どうする」


⸻


⸻


 滝は答えない。


⸻


⸻


 代わりに――


⸻


 箱の前に立つ。


⸻


⸻


 手袋は、すでにしている。


⸻


⸻


 メイドが持ってきた小麦粉。


⸻


 そして――


⸻


 小さなハケ。


⸻


⸻


 滝は、何も言わずに粉をすくう。


⸻


⸻


 ――ふわり。


⸻


 黒い鉄の箱に、白が落ちる。


⸻


⸻


 ざわめき。


⸻


 「何を……」 「粉を……?」


⸻


⸻


 声が広がる。


⸻


 だが――


⸻


 「黙れ」


⸻


 ジュノの一声。


⸻


 空気が止まる。


⸻


⸻


 滝は、淡々と続ける。


⸻


 箱の縁。


⸻


 側面。


⸻


 角。


⸻


⸻


 箱に粉を振っていく。


⸻


⸻


 白が広がる。


⸻


 黒の上に。


⸻


 ゆっくりと。


⸻


⸻


 やがて――


⸻


 手を止める。


⸻


⸻


 滝は、箱を覗き込む。


⸻


 じっと。


⸻


 確認する。


⸻


⸻


 そして――


⸻


 わずかに。


⸻


 口元が歪む。


⸻


 ――見えた。


⸻


⸻


 振り返る。


⸻


⸻


 「まず」


⸻


 短く言う。


⸻


 「数人は除外できる」


⸻


⸻


 ざわめき。


⸻


 「なぜだ?」 「どういうことだ」


⸻


⸻


 ミネーも目を細める。


⸻


 「……根拠は?」


⸻


⸻


 滝は答えない。


⸻


 ただ言う。


⸻


 「後で説明する」


⸻


⸻


 そして男たちを見る。


⸻


 ゆっくりと。


⸻


⸻


 「確認する」


⸻


⸻


 低い声。


⸻


 「この箱に触った者はいるか」


⸻


⸻


 沈黙。


⸻


⸻


 一人。


⸻


 二人。


⸻


⸻


 全員が首を振る。


⸻


 「……いません」


⸻


 「触っていない」


⸻


⸻


 口々に。


⸻


⸻


 滝は、ゆっくりと頷く。


⸻


⸻


 そして――


⸻


 また、笑う。


⸻


 小さく。


⸻


 確信の笑み。


⸻


⸻


 「そうか」


⸻


⸻


 視線が、鋭くなる。


⸻


⸻


 「じゃあ――」


⸻


⸻


 「両手を見せてくれ」


⸻


⸻


 ざわめき。


⸻


 「手……?」


⸻


⸻


 ジュノが低く言う。


⸻


 「両手か」


⸻


⸻


 男たちが、ゆっくりと手を出す。


⸻


⸻


 滝が、一人ずつ見る。


⸻


 掌。


⸻


 指。


⸻


 爪。


⸻


⸻


 無言で進む。


⸻


⸻


 そして――


⸻


 止まる。


⸻


⸻


 一人の前で。


⸻


⸻


 若い警備兵。


⸻


⸻


 滝は静かに言う。


⸻


 「……お前だな」


⸻


⸻


 空気が凍る。


⸻


⸻


 男の顔が引きつる。


⸻


 「な、何を――」


⸻


 「違います!」


⸻


⸻


 滝は、その手を見たまま言う。


⸻


 「その指だ」


⸻


⸻


 男の顔色が変わる。


⸻


 「え……?」


⸻


⸻


 「お前だけ残っている」


⸻


 「触った跡がな」


⸻


⸻


 沈黙。


⸻


⸻


 ジュノの視線が落ちる。


⸻


 重い。


⸻


 逃げ場がない。


⸻


⸻


 男の喉が鳴る。


⸻


 目が泳ぐ。


⸻


⸻


 そして――


⸻


 崩れる。


⸻


⸻


 「……っ、俺です……」


⸻


 膝をつく。


⸻


⸻


 「箱を……開けたのは……俺です……」


⸻


⸻


 どよめき。


⸻


⸻


 ミネーが息を呑む。


⸻


 コーナンが目を見開く。


⸻


 サカンが低く笑う。


⸻


⸻


 ジュノは、ただ滝を見る。


⸻


⸻


 「……なぜ分かった」


⸻


⸻


 短い問い。


⸻


 だが――


⸻


 重い。


⸻


⸻


 滝は、ゆっくりと箱へ視線を戻す。


⸻


 白く染まった、黒い鉄。


⸻


⸻


 そして――


⸻


 口を開く。


⸻


 「簡単だ」


⸻


⸻


 その一言で――


⸻


 場が、引き締まる。


⸻


⸻


 全員の視線が集まる。


⸻


⸻


 滝は白く染まった箱を見る。


⸻


⸻


 そして――


⸻


 「証拠は、最初からここにあった」


⸻


⸻


 静寂。


⸻


⸻


 真相は――


⸻


 すでに見えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。