第48話 見えない痕跡
ジュノの屋敷――エントランスロビー。
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三十人。
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全員が並んでいる。
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メイド。
兵。
使用人。
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表情は様々だ。
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無表情。
不安。
苛立ち。
無関心。
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だが――
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“決め手”になるものはない。
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ミネーが小さく呟く。
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「……分かりませんね」
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コーナンも頷く。
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「表情では無理ですな」
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サカンは腕を組む。
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「演技も混じっている」
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コグシーは黙ったまま。
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滝だけが、前に出る。
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ジュノが言う。
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「人は集めた」
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「で、どうする」
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滝は答えない。
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代わりに――
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箱の前に立つ。
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手袋は、すでにしている。
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メイドが持ってきた小麦粉。
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そして――
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小さなハケ。
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滝は、何も言わずに粉をすくう。
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――ふわり。
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黒い鉄の箱に、白が落ちる。
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ざわめき。
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「何を……」 「粉を……?」
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声が広がる。
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だが――
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「黙れ」
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ジュノの一声。
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空気が止まる。
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滝は、淡々と続ける。
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箱の縁。
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側面。
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角。
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箱に粉を振っていく。
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白が広がる。
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黒の上に。
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ゆっくりと。
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やがて――
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手を止める。
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滝は、箱を覗き込む。
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じっと。
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確認する。
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そして――
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わずかに。
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口元が歪む。
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――見えた。
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振り返る。
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「まず」
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短く言う。
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「数人は除外できる」
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ざわめき。
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「なぜだ?」 「どういうことだ」
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ミネーも目を細める。
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「……根拠は?」
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滝は答えない。
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ただ言う。
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「後で説明する」
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そして男たちを見る。
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ゆっくりと。
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「確認する」
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低い声。
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「この箱に触った者はいるか」
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沈黙。
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一人。
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二人。
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全員が首を振る。
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「……いません」
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「触っていない」
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口々に。
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滝は、ゆっくりと頷く。
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そして――
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また、笑う。
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小さく。
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確信の笑み。
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「そうか」
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視線が、鋭くなる。
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「じゃあ――」
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「両手を見せてくれ」
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ざわめき。
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「手……?」
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ジュノが低く言う。
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「両手か」
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男たちが、ゆっくりと手を出す。
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滝が、一人ずつ見る。
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掌。
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指。
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爪。
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無言で進む。
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そして――
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止まる。
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一人の前で。
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若い警備兵。
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滝は静かに言う。
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「……お前だな」
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空気が凍る。
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男の顔が引きつる。
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「な、何を――」
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「違います!」
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滝は、その手を見たまま言う。
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「その指だ」
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男の顔色が変わる。
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「え……?」
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「お前だけ残っている」
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「触った跡がな」
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沈黙。
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ジュノの視線が落ちる。
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重い。
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逃げ場がない。
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男の喉が鳴る。
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目が泳ぐ。
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そして――
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崩れる。
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「……っ、俺です……」
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膝をつく。
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「箱を……開けたのは……俺です……」
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どよめき。
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ミネーが息を呑む。
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コーナンが目を見開く。
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サカンが低く笑う。
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ジュノは、ただ滝を見る。
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「……なぜ分かった」
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短い問い。
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だが――
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重い。
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滝は、ゆっくりと箱へ視線を戻す。
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白く染まった、黒い鉄。
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そして――
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口を開く。
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「簡単だ」
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その一言で――
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場が、引き締まる。
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全員の視線が集まる。
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滝は白く染まった箱を見る。
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そして――
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「証拠は、最初からここにあった」
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静寂。
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真相は――
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すでに見えていた。




