表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
47/90

第47話 黒い箱

 ガナト――ジュノの屋敷。



 エントランスロビー。



 中央の台座。



 ――これみよがしに。



 黒い鉄の箱が置かれていた。



 三十センチ四方。



 無骨な塊。



 飾り気はない。



 だが――



 “見せるために置かれている”。



 そんな存在感だった。



 滝は、無言で近づく。



 しゃがむ。



 視線を落とす。



 ミネーが小さく言う。



 「……鍵は?」



 コーナンが首を振る。



 「見当たりませんな」



 サカンが続ける。



 「破壊の痕跡もない」



 コグシーが低く言う。



 「つまり――普通に開けて、普通に持ち出した」




 ミネーが周囲を見る。



 「出入りは?」



 部下が答える。



 「敷地内に入れば、このロビーは自由です」



 「客も、使用人も、兵も」




 沈黙。



 コーナンが息を吐く。



 「最悪ですな」



 サカンが薄く笑う。



 「誰でも触れられる」



 ミネーも頷く。



 「目撃も期待できません」




 ――完全に行き詰まり。



 そう見えた。



 だが。



 滝だけは違う。



 動かない。



 ただ、箱を見ている。



 じっと。



 細部まで。




 やがて――



 滝はポケットに手を入れる。




 取り出したのは――



 白い手袋。



 鑑識用。




 ――刑事時代からの習性だった。



 現場では、必ず持ち歩く。



 この世界に来てから使うのは初めてだ。



 ……久しぶりだ。




 ミネーがわずかに眉を動かす。



 「……それは」



 滝は答えない。



 静かに手袋をはめる。




 そして――



 箱に手を伸ばす。



 触れる。



 角を。



 慎重に。




 持ち上げる。



 ほんのわずかに。




 重い――



 ほどではない。



 だが、軽くもない。



 中身が消えたにしては――



 “妙に重さが残っている”。




 滝の目が細くなる。




 箱の縁。



 側面。



 底。



 ゆっくりと確認する。



 まるで――



 “触れた跡”をなぞるように。




 戻す。



 元の位置へ。



 正確に。




 立ち上がる。




 「……ジュノ」



 低い声。



 「箱、触らせてもらった」




 ジュノは興味なさそうに言う。



 「好きにしろ」



 「箱に価値はない」




 滝は小さく頷く。




 そして――



 「……なるほどな」



 ぽつり。




 空気が変わる。




 ミネーが鋭く見る。



 「何か分かったんですか」




 滝は答えない。




 代わりに言う。



 「全員、集めてくれ」




 コーナンが眉を上げる。



 「……三十人を?」




 「全員だ」




 迷いはない。




 ジュノが滝を見る。



 値踏み。



 そして――



 わずかに笑う。



 「いいだろう」




 命令が飛ぶ。




 その間に――



 滝は近くのメイドに声をかける。



 「……小麦粉を持ってきてくれ」


 「それとハケを」




 メイドが戸惑う。



 「小麦粉とハケですか……?」




 「あるだけでいい」




 ジュノが短く言う。



 「用意しろ」




 メイドが去る。




 静寂。




 ミネーが小さく言う。



 「……何をするつもりですか」




 滝は、わずかに笑う。



 「確認だ」




 サカンが目を細める。



 「簡単には見えんな」




 コーナンは腕を組む。



 「ですが……何か見えている」




 滝は答えない。




 ただ――



 黒い箱を見る。




 その目はすでに、



 “ひとつの仮説”を捉えていた。




 やがて――



 人が集まる。



 三十人。



 全員。




 そして。



 静かに――



 選別が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ