第46話 全員容疑者
ガナト――ジュノの屋敷。
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客間。
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ジュノが、ゆっくりと口を開く。
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「盗まれた場所は、屋敷のエントランスロビーだ」
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滝は黙って聞く。
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「中央に、黒色の鉄の小箱が置いてある」
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コーナンが小さく頷く。
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「来客の目にも入る場所ですな」
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「そうだ」
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ジュノは即答する。
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「目立つように置いてある」
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一拍。
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「だが――」
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指を組む。
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「箱には触るなと、屋敷の者全員に言ってある」
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静かな圧。
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サカンが低く言う。
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「従わなかった者がいる」
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ジュノは否定しない。
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「最終確認は今朝だ」
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「毎朝、俺が確認している」
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滝が口を開く。
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「盗まれたのは一つか」
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「……ああ」
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一瞬の間。
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「だが、中身は言えん」
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空気がわずかに張る。
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ミネーが視線を上げる。
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「なぜですか」
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ジュノは静かに答える。
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「盗まれた物の正体は、この件を解決した後に話す」
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「今は聞くな」
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短く切る。
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線引き。
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完全な“試し”。
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滝は何も言わず、わずかに息を吐く。
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「容疑者は?」
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「全員だ」
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即答。
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「屋敷の者、使用人、兵」
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「合わせて三十人」
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コーナンが眉を寄せる。
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「絞り込みは難しいですな」
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ジュノがわずかに笑う。
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「だから条件にした」
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コグシーが静かに言う。
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「……変わらんな」
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「人を試すのが好きな男だ」
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ジュノは否定しない。
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それが答えだった。
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滝は視線を落とす。
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・場所は開けている
・出入りは多い
・中身は不明
・容疑者は全員
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そして――
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「……厄介だな」
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ぽつりと呟く。
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ミネーが横目で見る。
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滝は続ける。
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「条件としては、最悪に近い」
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ジュノの口元が、わずかに上がる。
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滝はさらに言う。
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「しかも――」
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一拍。
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「俺たちもロビーを通っている」
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空気が止まる。
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コーナンが目を細める。
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サカンが低く笑う。
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「……そういうことか」
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モナは不安そうに周囲を見回した。
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滝は静かに言う。
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「理屈でいえば」
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「俺たちも容疑者だ」
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沈黙。
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ジュノは何も言わない。
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だが――
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否定もしない。
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ミネーが小さく言う。
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「完全に試されていますね」
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滝は頷く。
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「だな」
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ジュノが最後に言う。
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「ロビーはそのままにしてある」
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「誰も触らせていない」
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滝が頷く。
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「助かる」
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一行が立ち上がる。
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客間を出る。
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長い廊下。
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屋敷の奥。
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そして――
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エントランスロビー。
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広い空間。
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中央に置かれた――
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黒色の鉄の小箱。
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蓋は開いている。
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中は、空。
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周囲には、屋敷の者たち。
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視線。
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疑い。
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警戒。
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そして――
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“値踏み”。
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滝は箱の前で足を止める。
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しゃがむ。
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蓋。
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鍵穴。
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表面の傷。
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まず見る。
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それが基本だった。
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ゆっくりと全体を見る。
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動線。
距離。
配置。
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何一つ、単純ではない。
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「……簡単じゃないな」
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小さく呟く。
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ミネーが隣に立つ。
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「はい」
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短く、同意する。
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見えない中身。
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広すぎる容疑者。
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そして――
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自分たちも、その中にいる。
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滝は静かに息を吐く。
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「……面白い」
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低く。
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誰にも聞こえないように。
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難しい。
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だからこそ――
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崩しがいがある。
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静かに。
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捜査が、始まる。




