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第45話 値踏み

 ガナト――有力商人ジュノの屋敷。



 「帰れ」



 門番は、一切迷わなかった。



 「御用商人だと?」


 鼻で笑う。



 視線が、一行を舐めるように動く。



 美女が三人。


 場違いなほど整った若い男。


 目つきの悪い男。


 無言のハゲた小柄なオヤジ。


 そして――


 妙な服の中年。



 「……商人に見えるか?」



 吐き捨てる。



 滝は、何も言わない。



 予想通りだった。



 だが――



 「……少し待て」



 コグシーが前に出る。



 紙と筆を取り、


 迷いなく、短く書きつける。



 折る。



 封じる。



 そして――



 門番に差し出す。



 「これを渡せ」



 門番は、露骨に嫌な顔をする。



 「そんなもの――」



 コグシーの目が、わずかに細くなる。



 空気が変わる。



 言葉はない。



 だが――



 圧がある。



 門番は、舌打ちを一つ。



 「……待ってろ」



 手紙を受け取り、中へ消える。



 静寂。



 モナが、小さく呟く。



 「……大丈夫、なんですか」



 滝は肩をすくめる。



 「さあな」



 その時――



 門が、開いた。



 先ほどとは別の男。



 態度が違う。



 明らかに。



 「……こちらへ」



 低く言う。



 門番の顔が、強張る。



 滝は、一瞬だけコグシーを見る。



 何も言わない。



 だが――



 分かる。



 “通った”。




 屋敷内。



 豪奢。



 だが、無駄はない。



 力のある人間の空間。



 通された客間。



 そして――



 「……久しいな」



 男がいた。



 ジュノ。



 鋭い目。


 笑っていない口元。



 だが――



 その視線が、コグシーに止まる。



 一瞬。



 ほんの一瞬だけ。



 空気が緩む。



 「生きていたか」



 コグシーが鼻で笑う。



 「お前こそな」



 それだけ。



 だが――



 十分だった。



 義兄弟。



 言葉にしなくても、分かる関係。



 ジュノが椅子に座る。



 指を組む。



 そして――



 一行を、改めて見る。



 「……面白い連中を連れてきたな」



 順に視線が動く。



 ハギーで、一瞬止まる。



 ミネー。



 モナ。



 滝。



 サカン。



 コーナン。



 ユダ。



 そこで僅かに目が細くなる。



 只者ではない。



 そんな視線だった。



 ポリス。



 最後に、またハギー。



 「商人、か」



 わずかに笑う。



 「冗談だろう」



 コグシーは答えない。



 ジュノは続ける。



 「だが……」



 一拍。



 「ただ者ではないな」



 特に――



 ハギーを見る。



 目が細くなる。



 「そこの娘は」



 ハギーは、ただ微笑む。



 何も言わない。



 それで――



 十分だった。




 「用件を聞こう」



 ジュノが言う。



 コグシーが口を開く。



 「人を探している」



 短い。



 「ジンという男だ」



 ジュノの視線がモナへ向く。



 「……その女が依頼人か」



 モナが小さく頭を下げる。



 「はい……主人です」



 ジュノは無言で頷く。



 そして再びコグシーを見る。



 「……他は」



 「それだけでいい」



 コグシーが言い切る。



 ジュノは、しばらく沈黙する。



 そして――



 「本来なら協力したいところだ」



 静かな声。



 「お前の頼みだからな」



 コグシーは何も言わない。



 ジュノは続ける。



 「だが今の屋敷は少々面倒な問題を抱えている」



 空気が変わる。



 「まずは、それを解決してもらおう」



 一拍。



 「それが済めば、俺も全力で協力する」



 そして――



 「屋敷内で、盗みが起きている」



 「犯人は不明」



 「内か、外かも分からん」



 一拍。



 「それを解決しろ」



 静かに。



 だが――



 重い。



 「それくらい出来ない連中に、俺は協力しない」



 言い切る。



 試し。



 値踏み。



 そして――



 線引き。



 滝は、わずかに笑う。



 「いい条件だ」



 ミネーが横目で見る。



 コーナンは無言で頷く。



 サカンは目を細める。



 コグシーは、何も言わない。



 任せた。



 そういうことだ。



 その時――



 「……あの」



 モナの声。



 不安そうに、こちらを見る。



 「ジンは……」



 ジュノの視線が、一瞬だけモナに向く。



 そして――



 何も言わない。



 滝が一歩前に出る。



 「まずはこっちだ」



 短く言う。



 モナは、小さく頷く。




 ジュノが、最後に言う。



 「……一つだけ教えてやる」



 全員の視線が集まる。



 「そのジンだがな」



 一拍。



 「“普通の仕事”はしていない」



 沈黙。



 空気が、わずかに変わる。



 滝の目が鋭くなる。



 ミネーも、わずかに顔を上げる。



 コグシーは動かない。



 ジュノは続けない。



 それ以上は――



 「条件を果たせ」



 それだけ。




 外へ出る。



 ガナトの喧騒。



 変わらない。



 だが――



 確実に、一歩踏み込んだ。



 「……面倒なの来たな」



 滝が呟く。



 ミネーが、わずかに笑う。



 「いつも通りです」



 ハギーは真っ直ぐ前を見たまま言う。



 「事件ですね」



 一拍。



 「放っておけません」



 その一言で。



 空気が、少しだけ軽くなる。



 だが――



 誰も気づいていない。



 この“盗難”が、



 思っていたより面倒な話になることを。



 そして――



 ジンという男に、



 確実に近づいていることを。



 静かに、物語は深く潜っていく。

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