第43話 ガナトの人探し
船は、ゆっくりと港へ入っていく。
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朝の光。
ざわめく人の波。
積荷の掛け声。
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――ガナト。
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国の中央に位置する、最大の港湾都市。
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古くから栄えたこの港は、国一番の物流拠点。
憲兵隊が駐屯しているものの、街の行政は――
有力商人たちによる合議で動いている。
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国に一定の税を納めることで、自治を許された街。
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先の戦でも。
改革派がこの街を味方につけたことが、勝敗を分けたとも言われている。
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人も、物も、金も。
すべてが流れ込み、そして流れ出ていく場所。
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「……助かった」
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コーナンが、ようやく壁から身体を離す。
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「地面が……動いていない……」
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サカンが真顔で呟く。
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コグシーは何も言わないが、
腕を組み直すその仕草に、余裕が戻っていた。
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男たちは、ようやく復活していた。
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一方――
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「……人、多いですね」
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ハギーが素直に声を漏らす。
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船縁から見下ろす街は、セキとは比べものにならない。
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コーナンが頷く。
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「物流の中心ですからな」
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コグシーが周囲を見渡す。
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「……紛れるには、都合がいい」
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短く言う。
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滝は何も言わず、港の様子を見ていた。
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人の流れ。
荷の動き。
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――覚えておく。
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その時。
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「……あの」
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後ろから声。
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振り向く。
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船で助けた女だった。
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年は三十前後。
庶民的な装い。
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旅慣れているようには見えない。
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だが。
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人目を引く女性だった。
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「お願いが、あります」
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少し躊躇いながらも、まっすぐこちらを見る。
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滝は何も言わない。
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女は、息を整えてから続ける。
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「夫を……探してほしいんです」
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静かな声。
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「ガナトに、仕事があるって言って……」
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「それで来たまま……帰ってこなくて」
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「……他に、頼れる人がいないんです」
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沈黙。
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その空気を――
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「もちろんです」
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ハギーが受け止めた。
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迷いはない。
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「困っている方を放ってはおけません」
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やわらかな声。
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女が顔を上げる。
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「人を探すのでしょう?」
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「でしたら、お手伝いします」
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その一言で場は決まる。
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女の目に涙が浮かぶ。
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「……ありがとうございます」
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深く頭を下げる。
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「お名前は?」
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ハギーが丁寧に尋ねる。
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「……モナです」
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「夫は……ジンといいます」
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滝の視線がわずかに動く。
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ジン。
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頭の中に置く。
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ハギーは頷く。
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「モナさん」
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「一緒に探しましょう」
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自然な一言。
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それで、すべてが決まる。
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ミネーの表情が、わずかに曇る。
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視線が――モナに向く。
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一瞬だけ。
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すぐに外す。
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だが、そのわずかな間に感情はあった。
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滝が横目で見る。
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――分かりやすい。
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小さく息を吐く。
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「……少し」
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短く言って、位置をずらす。
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コグシーたちも自然に合わせる。
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モナに聞こえない距離。
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滝が低く言う。
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「都合がいい」
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全員の視線が集まる。
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「人探しなら、どこを回っても不自然じゃない」
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「港も、倉庫も、船もな」
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一拍。
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「ジンを探す」
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「そのついでに――」
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わずかに声を落とす。
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「不審な船や荷も探せる」
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ミネーの目が揺れる。
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理解した顔。
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コーナンが頷く。
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「表向きは人探し……」
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サカンが続く。
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「裏は密輸の調査、ですな」
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コグシーが小さく笑う。
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「合理的だ」
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ミネーは一度だけモナを見る。
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そして何も言わず視線を外した。
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完全には納得していない。
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だが、止めもしない。
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滝が一つ頷く。
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それで十分だった。
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元の位置へ戻る。
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ハギーが嬉しそうに言う。
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「両方、助けられますね」
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モナも、小さく頷く。
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まだ知らない。
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その“両方”の意味を。
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滝は短く言う。
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「行くぞ」
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誰も異論はない。
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ガナトの喧騒の中へ。
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人探しの名目で。
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その奥へ。
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静かに、踏み込んでいく。
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滝は港の奥を見る。
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人も。
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荷も。
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金も。
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すべてが集まる街。
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情報も例外ではない。
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まずは有力商人だ。
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滝は静かに歩き出した。




