表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
41/90

第41話 揺れる水面

 船上。


 ガナト行きの商用客船。



 甲板は、朝の光に包まれていた。



 波は穏やか。


 風も、やさしい。



 だが――



 「……っ、無理だ……」



 コーナンが顔を青くして壁にもたれる。



 サカンも同じだ。



 「想定……外です……」



 コグシーは腕を組んだまま動かないが、


 顔色は明らかに悪い。



 「……船は、慣れん」



 低く呟く。



 男たちは、ほぼ全滅だった。



 一方――



 ハギーは、船縁に立っていた。



 海を見ている。



 ただ、それだけ。



 「……綺麗ですね」



 子どものような声。



 風に髪が揺れる。



 ポリスが横に座り、


 ユダは、そのすぐ後ろ。



 一歩も離れない。



 視線は、常に周囲へ。



 警戒は解かない。



 その少し離れた場所。



 滝の横に、ミネーが並ぶ。



 沈黙。



 波の音だけが続く。



 やがて――



 「……平気なんですね」



 ミネーが、ぽつりと言う。



 滝は肩をすくめる。



 「昔、少しな」



 それだけ。



 ミネーは、小さく頷く。



 「私は……久しぶりです」



 一拍。



 視線は海のまま。



 「昔は、よく見ていました」



 滝は何も言わない。



 ただ、聞く。



 「……昔、婚約していた方がいました」



 静かな声。



 「結婚するはずだったんです」



 波が、船体を叩く。



 「でも――」



 一瞬だけ、言葉が止まる。



 「スオーの戦いで」



 「帰ってきませんでした」



 風が、強く吹く。



 それ以上は言わない。



 だが、それで十分だった。



 滝は、視線を落とす。



 「……そうか」



 短い言葉。



 軽くはない。



 ミネーが、少しだけ笑う。



 「式の前だったんです」



 「だから――」



 言葉を探す。



 「妻にも、未亡人にもなれなくて」



 風に消えそうな声。



 滝は、ゆっくり息を吐く。



 「俺は――」



 一瞬、言葉を止める。



 それでも、続ける。



 「結婚してた」



 ミネーが、わずかに視線を向ける。



 「でも、仕事ばっかでな」



 苦く笑う。



 「家にいなかった」



 「気づいたら――」



 一拍。



 「いなくなってた」



 風が、静かに抜ける。



 「今は、一人になった」



 短く言う。



 そして――



 「俺が悪い」



 一拍。



 「……後悔してる」



 落とすような一言。



 ミネーは、何も言わない。



 ただ――



 少しだけ、距離が近くなる。



 肩が、触れそうなほどに。



 言葉はない。



 だが。



 同じものを、見ている。



 海を。



 その時――



 「……きゃっ!」



 怯えた悲鳴。


 押し殺したような、小さな声。



 空気が、一変する。



 甲板の向こう。



 人が集まり始めている。



 ざわめき。


 低い男の声。



 ただの喧嘩ではない。



 ユダの視線が動く。



 すでに、位置を変えている。



 ハギーの前に入る。



 滝も動く。



 表情が変わる。



 さっきまでの空気は、消えていた。



 ミネーも一歩下がる。



 いつもの距離。



 だが――



 ほんの少しだけ、違っている。



 「……行くか」



 滝が言う。



 ミネーが頷く。



 「はい」



 二人は、同時に動く。



 揺れる甲板。



 騒ぎの中心へ。



 距離は――



 まだ離れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ