第34話 選ばれた客
夜。
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宿の一室。
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灯りは落とされ、空気は静かだ。
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だが――
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視線だけが、集まっている。
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ユダ。
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覆面を外した、その姿に。
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短く整えられた髪。
無駄のない輪郭。
静かで、鋭い美しさ。
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作り物ではない。
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研ぎ澄まされた、“実戦の形”。
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誰も、すぐには言葉を出さない。
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やがて――
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コーナンが、低く呟く。
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「……なるほど」
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サカンも頷く。
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「これなら表に出しても問題ない」
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ミネーが、小さく息を吐く。
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「今まで隠していた理由も、分かります」
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視線は、ユダから離れない。
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「警護として、顔を出せば不都合が出る」
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「それに――」
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一瞬だけ、言葉を選ぶ。
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「……目立ちすぎます」
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率直な評価。
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誰も否定しない。
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コグシーが腕を組む。
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「余計な視線は、任務の邪魔になる」
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短く補足する。
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ユダは、何も言わない。
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ただ、静かに立っている。
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その姿を見ながら――
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ふと。
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誰も口には出さないが、
同じ印象が、場に流れる。
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ハギーを思わせる空気だった。
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顔立ちではない。
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空気。
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静けさの質。
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だが――
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それを言葉にする者はいない。
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必要がないからだ。
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滝が、短く言う。
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「使うぞ」
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決定。
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コグシーが頷く。
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「社交場だ」
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「御用商人の代理として入る」
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コーナンが続ける。
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「令嬢の名は出さない」
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「だが、“繋げる立場”であることは匂わせる」
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サカンも補う。
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「利益となる話のみ拾う」
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「価値があれば、上へ通す」
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ミネーが静かに頷く。
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「自然ですね」
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ハギーも続く。
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「無理がありません」
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ユダは――
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何も言わない。
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ただ、覆面を手に取る。
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一瞬だけ見て――
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それを置いた。
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もう、必要ない。
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――夜。
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社交場。
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灯りは柔らかく、
音は抑えられている。
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選ばれた者だけが入る空間。
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扉の前。
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黒服の視線が止まる。
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ユダは、一人で立つ。
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無言。
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一人の黒服が、静かに口を開く。
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「……御用商人の代理か」
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確認。
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試す声。
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ユダは、短く答える。
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「ええ」
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それ以上は言わない。
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黒服の視線が、細くなる。
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所作。
呼吸。
間。
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すべてを測る。
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やがて――
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わずかに顎を引く。
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「……通せ」
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扉が、開く。
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中へ。
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空気が変わる。
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視線が集まる。
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止まる。
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わずかなざわめき。
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抑えられた興味。
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ユダは歩く。
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迷いなく。
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音もなく。
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その存在だけで、
周囲の視線を集める。
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やがて――
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「……初めて見る顔だな」
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男が声をかける。
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目は、値踏みしている。
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ユダは、静かに答える。
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「表には出ない立場です」
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「ですが――」
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一拍。
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「話の価値であれば、判断できます」
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余計な説明はしない。
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それで十分だった。
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男の目が細くなる。
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測る。
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そして――
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「……来い」
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短い一言。
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案内される。
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奥へ。
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さらに奥へ。
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音が消える。
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空気が変わる。
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そして――
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別館。
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守りの固い扉が現れる。
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開く。
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中へ。
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だが――
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そこに、姿はない。
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広い空間。
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気配だけがある。
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次の瞬間。
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「――こちらへ」
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声。
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どこからともなく。
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姿は、見えない。
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だが――
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確かに、“上”にいる。
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ユダは、止まらない。
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視線だけを上げる。
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そして――
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一歩、踏み出す。
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――繋がった。
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総督へ。
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そして、その先へ。




