第30話 繋がる印
夜。
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約束の場所は、人気のない倉庫の裏手だった。
灯りは少ない。
人の気配も、ほとんどない。
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「……来たか」
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闇の中から、男が現れる。
あの時の――連絡役だ。
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距離を取ったまま、立ち止まる。
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「話は通っている」
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低い声。
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「報酬だ」
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男が、袋をひとつ放る。
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受け取る。
重い――が。
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(……軽いな)
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わずかに眉を動かす。
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「半分だ」
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男が先に言った。
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「残りは――ホウブを始末してからだ」
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間。
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「口が残っている以上、全部は渡せない」
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冷たい視線。
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「当然だろう」
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沈黙。
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「……断るなら」
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男の手が、わずかに動く。
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「ここで終わりだ」
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脅しではない。
事実だ。
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袋を見下ろす。
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口を、ゆっくりと開く。
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中身――硬貨。
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そして。
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袋の端。
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焼き印。
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――その瞬間。
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繋がる。
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机の上。
あの時の袋。
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下士官の言葉。
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「妙な焼き印があったな」
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同じだ。
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完全に。
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(……やはりな)
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袋を閉じる。
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顔を上げる。
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「……分かった」
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短く言う。
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男の目が、わずかに緩む。
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「いい判断だ」
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「次は――」
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言いかけて、止める。
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「追って連絡する」
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それだけ言い、闇へ消える。
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静寂。
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(ユダ)
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心の中で呼ぶ。
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気配はない。
だが――いる。
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任せている。
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袋を懐に入れる。
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ゆっくりと歩き出す。
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角を曲がる。
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さらに進む。
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そして――
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「滝様」
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声。
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顔を上げる。
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そこにはミネーとハギー。
そしてコーナン、サカン、コグシー。
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合流だ。
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「収穫は?」
コーナンが問う。
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「繋がった」
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短く答える。
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「上に行く」
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その時――
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「おい!」
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別の声。
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振り向く。
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昼間の同僚だ。
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「なんだよ、先帰ったのかと思ったぞ!」
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近づいてくる。
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「今度こそ行こうぜ」
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親指で後ろを指す。
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例の娼館。
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「いい店なんだって――」
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そこで、止まる。
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視線が、ミネーに向く。
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「……あれ?」
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間。
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「なんだよ、お前」
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ニヤリと笑う。
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「連れがいたのかよ」
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「奥さんか?」
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沈黙。
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ミネーの目が、わずかに細くなる。
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「……違う」
滝が言う。
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だが。
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「そう見えます?」
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ミネーが、ふっと微笑む。
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一歩、近づく。
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自然な距離。
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腕に、そっと触れる。
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同僚が、吹き出す。
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「いいじゃねぇか!」
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「そういうことにしとけって!」
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背中を叩く。
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「じゃあな!」
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手を振り、去っていく。
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静けさが戻る。
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……が。
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空気が、少しだけ違う。
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ミネーが、腕を離さない。
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「……」
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ちらりと見る。
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さっきまでの不機嫌は――ない。
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むしろ。
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少しだけ、機嫌がいい。
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「行きましょうか」
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何事もなかったように言う。
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「話、聞かせてください」
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頷く。
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袋の重みを感じる。
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その中身よりも――
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刻まれた印。
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あれが、すべてだ。
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(……繋がった)
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小さく息を吐く。
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火種は、確かにここにある。
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そして――
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その先へ、続いている。




