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30/92

第30話 繋がる印

 夜。



 約束の場所は、人気のない倉庫の裏手だった。


 灯りは少ない。


 人の気配も、ほとんどない。



 「……来たか」



 闇の中から、男が現れる。


 あの時の――連絡役だ。



 距離を取ったまま、立ち止まる。



 「話は通っている」



 低い声。



 「報酬だ」



 男が、袋をひとつ放る。



 受け取る。


 重い――が。



 (……軽いな)



 わずかに眉を動かす。



 「半分だ」



 男が先に言った。



 「残りは――ホウブを始末してからだ」



 間。



 「口が残っている以上、全部は渡せない」



 冷たい視線。



 「当然だろう」



 沈黙。



 「……断るなら」



 男の手が、わずかに動く。



 「ここで終わりだ」



 脅しではない。


 事実だ。



 袋を見下ろす。



 口を、ゆっくりと開く。



 中身――硬貨。



 そして。



 袋の端。



 焼き印。



 ――その瞬間。



 繋がる。



 机の上。


 あの時の袋。



 下士官の言葉。



 「妙な焼き印があったな」



 同じだ。



 完全に。



 (……やはりな)



 袋を閉じる。



 顔を上げる。



 「……分かった」



 短く言う。



 男の目が、わずかに緩む。



 「いい判断だ」



 「次は――」



 言いかけて、止める。



 「追って連絡する」



 それだけ言い、闇へ消える。



 静寂。



 (ユダ)



 心の中で呼ぶ。



 気配はない。


 だが――いる。



 任せている。



 袋を懐に入れる。



 ゆっくりと歩き出す。



 角を曲がる。



 さらに進む。



 そして――



 「滝様」



 声。



 顔を上げる。



 そこにはミネーとハギー。


  

 そしてコーナン、サカン、コグシー。



 合流だ。



 「収穫は?」


 コーナンが問う。



 「繋がった」



 短く答える。



 「上に行く」



 その時――



 「おい!」



 別の声。



 振り向く。



 昼間の同僚だ。



 「なんだよ、先帰ったのかと思ったぞ!」



 近づいてくる。



 「今度こそ行こうぜ」



 親指で後ろを指す。



 例の娼館。



 「いい店なんだって――」



 そこで、止まる。



 視線が、ミネーに向く。



 「……あれ?」



 間。



 「なんだよ、お前」



 ニヤリと笑う。



 「連れがいたのかよ」



 「奥さんか?」



 沈黙。



 ミネーの目が、わずかに細くなる。



 「……違う」


 滝が言う。



 だが。



 「そう見えます?」



 ミネーが、ふっと微笑む。



 一歩、近づく。



 自然な距離。



 腕に、そっと触れる。



 同僚が、吹き出す。



 「いいじゃねぇか!」



 「そういうことにしとけって!」



 背中を叩く。



 「じゃあな!」



 手を振り、去っていく。



 静けさが戻る。



 ……が。



 空気が、少しだけ違う。



 ミネーが、腕を離さない。



 「……」



 ちらりと見る。



 さっきまでの不機嫌は――ない。



 むしろ。



 少しだけ、機嫌がいい。



 「行きましょうか」



 何事もなかったように言う。



 「話、聞かせてください」



 頷く。



 袋の重みを感じる。



 その中身よりも――



 刻まれた印。



 あれが、すべてだ。



 (……繋がった)



 小さく息を吐く。



 火種は、確かにここにある。



 そして――



 その先へ、続いている。

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