↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/164

第30話 繋がる印

 夜。


⸻


 約束の場所は、人気のない倉庫の裏手だった。


 灯りは少ない。


 人の気配も、ほとんどない。


⸻


 「……来たか」


⸻


 闇の中から、男が現れる。


 あの時の――連絡役だ。


⸻


 距離を取ったまま、立ち止まる。


⸻


 「話は通っている」


⸻


 低い声。


⸻


 「報酬だ」


⸻


 男が、袋をひとつ放る。


⸻


 受け取る。


 重い――が。


⸻


 (……軽いな)


⸻


 わずかに眉を動かす。


⸻


 「半分だ」


⸻


 男が先に言った。


⸻


 「残りは――ホウブを始末してからだ」


⸻


 間。


⸻


 「口が残っている以上、全部は渡せない」


⸻


 冷たい視線。


⸻


 「当然だろう」


⸻


 沈黙。


⸻


 「……断るなら」


⸻


 男の手が、わずかに動く。


⸻


 「ここで終わりだ」


⸻


 脅しではない。


 事実だ。


⸻


 袋を見下ろす。


⸻


 口を、ゆっくりと開く。


⸻


 中身――硬貨。


⸻


 そして。


⸻


 袋の端。


⸻


 焼き印。


⸻


 ――その瞬間。


⸻


 繋がる。


⸻


 机の上。


 あの時の袋。


⸻


 下士官の言葉。


⸻


 「妙な焼き印があったな」


⸻


 同じだ。


⸻


 完全に。


⸻


 (……やはりな)


⸻


 袋を閉じる。


⸻


 顔を上げる。


⸻


 「……分かった」


⸻


 短く言う。


⸻


 男の目が、わずかに緩む。


⸻


 「いい判断だ」


⸻


 「次は――」


⸻


 言いかけて、止める。


⸻


 「追って連絡する」


⸻


 それだけ言い、闇へ消える。


⸻


 静寂。


⸻


 (ユダ)


⸻


 心の中で呼ぶ。


⸻


 気配はない。


 だが――いる。


⸻


 任せている。


⸻


 袋を懐に入れる。


⸻


 ゆっくりと歩き出す。


⸻


 角を曲がる。


⸻


 さらに進む。


⸻


 そして――


⸻


 「滝様」


⸻


 声。


⸻


 顔を上げる。


⸻


 そこにはミネーとハギー。


  

 そしてコーナン、サカン、コグシー。


⸻


 合流だ。


⸻


 「収穫は?」


 コーナンが問う。


⸻


 「繋がった」


⸻


 短く答える。


⸻


 「上に行く」


⸻


 その時――


⸻


 「おい!」


⸻


 別の声。


⸻


 振り向く。


⸻


 昼間の同僚だ。


⸻


 「なんだよ、先帰ったのかと思ったぞ!」


⸻


 近づいてくる。


⸻


 「今度こそ行こうぜ」


⸻


 親指で後ろを指す。


⸻


 例の娼館。


⸻


 「いい店なんだって――」


⸻


 そこで、止まる。


⸻


 視線が、ミネーに向く。


⸻


 「……あれ?」


⸻


 間。


⸻


 「なんだよ、お前」


⸻


 ニヤリと笑う。


⸻


 「連れがいたのかよ」


⸻


 「奥さんか?」


⸻


 沈黙。


⸻


 ミネーの目が、わずかに細くなる。


⸻


 「……違う」


 滝が言う。


⸻


 だが。


⸻


 「そう見えます?」


⸻


 ミネーが、ふっと微笑む。


⸻


 一歩、近づく。


⸻


 自然な距離。


⸻


 腕に、そっと触れる。


⸻


 同僚が、吹き出す。


⸻


 「いいじゃねぇか!」


⸻


 「そういうことにしとけって!」


⸻


 背中を叩く。


⸻


 「じゃあな!」


⸻


 手を振り、去っていく。


⸻


 静けさが戻る。


⸻


 ……が。


⸻


 空気が、少しだけ違う。


⸻


 ミネーが、腕を離さない。


⸻


 「……」


⸻


 ちらりと見る。


⸻


 さっきまでの不機嫌は――ない。


⸻


 むしろ。


⸻


 少しだけ、機嫌がいい。


⸻


 「行きましょうか」


⸻


 何事もなかったように言う。


⸻


 「話、聞かせてください」


⸻


 頷く。


⸻


 袋の重みを感じる。


⸻


 その中身よりも――


⸻


 刻まれた印。


⸻


 あれが、すべてだ。


⸻


 (……繋がった)


⸻


 小さく息を吐く。


⸻


 火種は、確かにここにある。


⸻


 そして――


⸻


 その先へ、続いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。