第27話 接触
夜。
港の喧騒は、形を変えていた。
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昼の怒号は消え、低い声と笑いが広がる。
酒と欲が、路地に滲んでいる。
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「次、行くぞ」
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滝沢は倉庫人夫の同僚に肩を叩かれ、肉が評判の酒場を出る。
そのまま、目の前の娼館へ押し出される。
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「入るか?」
「元気だな」
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軽口。
――その時。
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「……あんた」
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振り向く。
痩せた男。目だけが冷静だ。
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「スオーから来た、って聞いたが」
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「……誰から聞いた」
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「耳は多い」
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間。
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「ホウブの件は知ってる」
「裁判までいったそうだな」
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試している。
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「……ああ」
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一拍。
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「だが、生きてる」
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男の目が細くなる。
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「重傷だ。動けない」
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淡々と続ける。
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スオーを出る前に、そういう話は流してある。
セキで接触するための布石だ。
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男は黙る。
測っている。
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「で?」
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「報酬の話だ」
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間を詰める。
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「仕事は失敗した」
「だが、やることはやった」
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視線を外さない。
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「本人は動けない」
「だから代理で来た」
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短く言い切る。
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「受け取るものは、受け取る」
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男の指が、わずかに動く。
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「順番ってもんが――」
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「守られないなら、話は別だ」
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遮る。
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少しだけ、声を落とす。
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「……“傷の男”のこともある」
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空気が変わる。
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男の視線が鋭くなる。
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沈黙。
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「……どこまで知っている」
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「全部じゃない」
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「だが、触れてほしくないところには触れてるはずだ」
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静かに言う。
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男は、しばらく動かない。
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やがて――
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「……いいだろう」
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小さく頷く。
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「ここじゃまずい」
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視線を巡らせる。
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「場所を変える」
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そして――
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「上に通す」
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低い声。
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「軽い話じゃない」
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さらに一歩、距離を詰める。
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「報酬も、それなりになる」
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試す目。
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「逃げる気はないな?」
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「あるなら来てない」
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即答。
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男の口元が歪む。
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「いい度胸だ」
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「明日の夜だ」
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路地の奥へ。
灯りの届かない方へ消えていく。
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(……十分だ)
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“傷の男”。
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それだけで、食いついた。
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表に出せない名。
触れられたくない存在。
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だからこそ――揺れる。
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「どこまで繋がってる」
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小さく呟く。
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答えは、まだない。
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だが――
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確実に、“上”へと続いている。




